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異世界夢紀行  作者: 舞原倫音
第1章 夢守の帰還
7/15

第四夜 3

「ウルお待たせー。もう入っていいよー?」

「ああ。」

 変革を入れた箇所の最低限の確認は取り敢えず終わったし、あたしは扉越しにウルに声を掛ける。

 そうだ。あとで見せるにしても、念のため小瓶は元の位置にしまっておこう。

 ウルにパソコンの中のデータを確認してもらって、あと瓶の詳細が知りたいから、羊さんへの事情聴取? もしてもらわなきゃ。

 あれ? でもウル遅くない? なんでまだ来ないんだろう?

「ウル~?」

「想、……すまん。ドアを開けてくれないか。」

 扉越しに再度声をかけると、その答えが帰ってきた。

 ……。

「ごめっ。わすれてた!」

 そうだった。

 不用意に入室を試されないよう、この部屋のドアにはペット扉はつけなかったんだ…。

 だって入れない扉とか怪我の原因もとにしかならないし。

 あわててドアに駆け寄って、ドアをガチャっと開けてあげると、ウルが泣きそうな目であたしの事を見上げてた……。だから、ごめんて…。

「わざとじゃ、ない…よ?」

「わかってる。気にするな。」

 そう言うと、ウルはスンッと鼻を鳴らして、あたしの部屋へと入ってきた。

 ウルが入ったのを確認し、あたしは部屋のドアを静かに閉じた。

「見覚えが有るな?」

 ……ああやっぱり? まぁ、あたしの記憶を見れるなら当然だよね…

「あたしの部屋に似せたから。あ、説明や相談とかしたいから、そこのパソコン前に座ってくれる?」

 ウルがちょこんと座ったのを確認すると、あたしも隣へと移動した。

 んー…でも机の高さを考えると、ウルの身長じゃちょっとパソコンの画面はみにくそうだなぁ…。

「で、えーとね。ウルはあたしの部屋の記憶もあるんだよね? この部屋は変革した箇所が三箇所あって、一つ目はこのパソコン。あたしやウルが調べた事が自動登録されるようにって機能をつけた。…はず…なんだけど、見ての通りあたしとウルとクロキモノ用の三つのフォルダがあって、現状は」

 カチカチっとマウスを操作して、三つのフォルダ内をウルへと見せる。

「──こんな感じで、ウルのフォルダにしかデータが無いの。

 あ、内容は一緒に確認とおもってまだ見てないから後で一緒に確認してね。

 で、二つ目はあそこにある机の上の地球儀…みたいな形のやつ。この世界の地図が欲しいって念じてつくったんだけど、あたしはこの世界の全容を元々知らないし正確な物かはちょっと怪しいかもしんない。

 最後に三つ目。勉強机の引き出しの一つ。浄化した際のクロキモノの保管場所になってる。保管されてた結晶は勿論あとで見せるけど、出しとくのも不安でしょ? 取り敢えずはしまってある。」

「……わかった。とりあえず一つ一つ確認するか。まずはこのパソコンか。

 俺の行動とデータの内容を照らし合わせてみる必要があるな」

「あ、そうだね。うん、それはお願いしたい。」

 そうだよね、何を調べて、何が記録されたのか…はちゃんと確認しておいたほうがいいよね…?

 あたしはカチカチっとマウスを操作して、ウルのフォルダのデータを開くと、ウルを抱っこするような形であたしの膝の上に乗せてあげた。

「想……、」

 あ、何か言いたそうな目でこっちを見てくる…。

「だって。ウルの身長じゃこの高さのパソコンは見えにくいでしょ?

 パソコンって角度によっては画面すっごく見難いし、適度な高さで正面から見れるならそれが一番だと思うんだけど?」

「……。確認を急ぐ。」

 納得、したらしい?

 ウルが視線をモニターの方に戻してくれたから、あたしも視線をそっちに移す。

 画面には…なんて言うか…右上に丸文字の日本語で夢守羊報…とか書いてある資料が映ってた。

 全体的に水色の背景に、デフォルメされた白い羊が何匹かうっすらと飛び回ってる。

 その台紙?に、日本語でみっちりと時々枠で囲んで整理されつつ書かれた資料。

 所々の文字は色が違くて、何だろう? って試しにクリックしてみると、ポンっと小さな窓がでて、単語の解説が書かれてた。辞書を引く手間が省ける親切設計の資料らしい。

「想、すまないが次のページを表示させてくれないか?」

「あ、うん。」

 あたし、まだ読み終わってないんだけど…。

 まぁ、ウルの記憶との照らし合わせが終わってから読ませてもらえばいっか。

 結局二度手間っぽくなったけど…。

 画面右下のねくすと。と書かれてる部分をクリックすると本をめくるような音がして、次ページが表示された。

 二ページ目には一ページ目ほどの文字は書かれてなくて、ねくすと。という文字もない。

 早々に読み終えたのか、ウルはあたしの膝の上から降りてしまった。

「もういいの?」

「俺は一度調べた時に全部記憶として残したからな。

 これにはモノクルを通して調べた事だけが載ってるみたいだ。

 俺がモノクルを見つける前に調べた事は載ってない。」

「なるほど…。

 あたしちょっと読み終わってないからまっててくれる?」

「あぁ。」

 ウルにそう声をかけ、あたしは夢守羊報に目を通す。

 最初のページにはウルの兄弟羊の事が書いてあった。

 彼らは夢羊と言う種族らしい。

 驚いたのはその数で、名前が存在しない代わりにナンバリングがされてるらしく、夢羊128から夢羊383とされていた。見ただけでも多いとは思ったけど、やっぱり百匹どころじゃ無かった…。でも127迄の子たちは何処に行ったんだろう?

 まぁ、それはともかくとして、ええと? 250匹位はいる感じ?の…6匹が浄化済みで。その6匹については個体データが浄化率100%と書かれ載っていた。

 なるほど、浄化率ね。

 あ、シキ君のデータもなんか載ってる。ウルわざわざ調べたんだ…。

 シキ君称号の項目がペットになってるんだけど。これ明らかにウルのせい…。

 ……気を取り直して続いてはウルの故郷周辺の地図。

 柵の中の黒羊…もとい、ウルの兄弟羊達の倒れてる位置や、柵の外以外も少しだけ記述があった。ウル少し遠出したんだ?

 へーぇ? 泉なんて近くにあるの?

 ここは今度行って見てみたいかも。

 で、最後に……。

 ………。

 あたしの事が載ってた。

 ウルはあたしの事も調べたらしい…。これ、モノクルで調べた事しか載ってないならタイミング的にはきっと今日だよね? わざわざ調べなくっても聞いてくれたらいいのに…? いや、そもそも記憶を持ってるって話だったし調べる必要全く無いような?

 ウルが調べたあたしのデータには名前、誕生日、年齢、住所に生まれてからの簡易な履歴書? その他、装備品として、夢守のブレスレットと腕時計。称号として、転移者・夢守。あぁ、あたし、やっぱり夢守なんだ? ……もしかしてウルはあたしが本当に夢守なのかを確認したかったのかも? でも転移者って、なんだろう? 夢なのに転移なの? それから種族。これは当然だけど人間になってた。で、ええと? 依り代…はやっぱり毛布。そして夢想力という項目があって、数字は9。これ、何だろう? 夢守の魔力的な何か…かなぁ? だとしたら数値9って大分低い気がするけど。でも数値化されてるのはこの夢想力だけで、…ゲームでいうステータス…STRとかINTとかみたいな項目は見当たらないんだよね。数字の比較対象が無い。でも自分を数値化されてても困るというか…。運動神経求められても、どちらかと言うと苦手だし…。思わず口元に手を当ててパソコン画面とにらめっこ。

「うーん…。」

「何か悩むような事でも書いてあったか?」

「あ、ごめん。大丈夫、ちょっと思う事が幾つかあっただけ。ちゃんと読み終わったよ。それで、ええと? これに載ってない情報って何があったの?」

「想と出会う前に見た地理情報や念話テレパシーで得た情報は一切ないな。」

 …なるほど。

「あ。じゃああの地球儀には、その地理情報のってたりする?」

「見てみるか。」

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