第四夜 2
「この部屋は俺達では入れなくてな。当然だが中は未調査だ」
「そりゃ、あたしの許可がないと入れないように創ったからね。
調査済みとかだったらむしろ夢守の力を疑うよ?
あ。部屋の中を確認するから、ここでちょっと待っててくれる?」
「護衛として、出来れば同行したいんだが…」
「ん~…大丈夫。安全にって創ったから危険は無いよ。
ただ祓ったクロキモノの保管場所にもなってるはずなんだよね。
変革場所の確認をしてからじゃないと同行の許可は出したくないの。
後で必ずウルの入室許可は出すからさ?」
「……。わかった。」
「ありがと。あ、そうだ。クロキモノの保管場所を触るから、もし今お祈りをしてるなら、暫く祈るのを止めるようにあの子達に伝えてもらっていい? 問題ないとは思うけど、安全面は少しでも高いほうがウルも安心できるでしょ?」
「ああ、そうだな。……。伝えた。大丈夫だ。」
「ありがと。じゃ、ちょっとまっててね。」
そういって、あたしは部屋のドアをくぐって、閉めた。
手探りで部屋のスイッチを探って電気をパチッとつけると、……うん。見覚えのある部屋が広がってた。
窓の近くに移動されたあたしのベッドと、両親により配置換えされた家具類と。部屋中央には寛ぎ用に置かれたテーブルがあって、ノーパソが置いてある。それとは別に部屋の隅に勉強机。
現実世界のあたしの部屋によく似た空間。そう、あたしはこの教会の一室に、管理人室としてだけど自分の部屋を創っておいた。くつろぎ空間なら、やっぱり自分の部屋が一番だよね?
で、この部屋であたしが仕掛けを入れたのは、勉強机の上と、その机の引き出しと…、それからパソコン。
……あれ? あたし電気とかの設定入れたっけ? この世界、発電所も電線も勿論ないよね?
いや、でも部屋の電気はついたし…。
まぁ、細かいことはいっか。電気はついたしパソコンだっていけるはず。
パソコンは起動に時間がかかるから、先に電源、入れとかないとね。
取り敢えずあたしが確認に向かったのは、部屋の中央に置いたテーブルの上にあるノートパソコン。
見た目…は使ってるのと全く一緒だった。
よし。ボタンは押したし、電気はよく分からないけどパソコンはきちんと起動してる。
今の間に他の所のチェックをして…あれ?
パソコンの……起動画像が変わってる?
見慣れたウィンドウズのアイコンじゃなく、起動画面? にウルがいる。
草原っぽいイラストの上をデフォルメされたドピンク羊が走ってる。
走った後の草原が黄緑から緑に変わって、隅には%の表示があった。
あ、%の進みがわりと早い、もう90%?
って、見ているうちにピコッと小さく音がして、モニターの画像が切り替わった。
何このパソコン、起動めちゃくちゃ早くない? それともあたしのパソコンが年季が入ってて起動に時間がかかってるだけ……かな?
あ、壁紙も変わってる。……デフォルメされたドピンク羊と萌えイラスト風のピンク髪の長髪女子が草原を歩いてるイラストなんだけど…これはもしかしなくても、あたしもデフォルメされちゃった系…?
起動画面や壁紙の変更なんて特に指定してなかったはずなんだけど…。
ウルとあたしが調べた内容を自動で記録し、検索できるパソコンってイメージ指定を入れたはずだから…、ウルとあたしあたりが変にひっかかって創られたって事…なのかなぁ。うーん。さすがにそこまでイメージなんて出来ないよ。
……まぁ、壁紙はあとで変更できないか試せばいいか。
で、ええと?
『想』『ウル』『クロキモノ』って名前のフォルダが三つと、検索って書かれたショートカットアイコンが一つだけ?
あたしの所には……何もないや。
ウルの所には……あ、何か入ってる。
クロキモノの所には……、何もなしか。
現状ウルの所だけ、かぁ。
ウルから教わったさっきの月の事とかがあたしのフォルダに入って無いのは「調べた」って認識されず記録に残らなかった…って事なのかなぁ?
そうだとしたらこれはちょっと不便…だよね? 余裕があったら追加機能としてつけたいかも…。
さて…ウルのフォルダ記録を見たいけど、これはあとでウルと一緒のほうが二度手間にはならなくていいのかな…? んじゃ、パソコンの確認はこれくらいにして、次は机の上のあれ、…かなぁ。
パソコンの確認を切り上げて勉強机のほうに目をやると……かわった地球儀?が目に入った。
これは世界地図…を念じたはず、なんだけど。
これがこの世界の本当の形なのか、あたしがこの世界を知らないからこんな形になったのかはわからないけど、でも。なんていうか、なんというか。もしもこれがこの世界の本当の形なら。この世界の大地は丸くない。その地球儀は丸いガラスケースみたいなもので出来ていて中に、上表面が平になった岩っぽい何かが浮かんでる。ゲームで良く有る浮島みたいな感じ? その上表面…地面らしき箇所の殆どが、一部を点々と除いて殆ど黒く染まってる。
つまりこの世界は球状に囲まれた中にある平地?
黒い染みは横からみると所々尖ったような箇所があるから、もしかしたら山とかはあるかもしれない。でも、この黒く染まってるのはクロキモノかもしれないっ…って考えると、…うん。全部自分で浄化とか考えるとさすがにちょっと意識が遠くなる…。
で、最後にそのクロキモノ。
保管場所に引き出し…を選んだんだよね。
あたし以外が開けれないようにってオプションつけて。
指定しておいた引き出しを引いて中を見てみると、中には小さい小瓶が沢山入っていた。
………。
えっと、ウルを入れて七匹羊が居たはずだから…。
六匹分、六個はこの中に結晶があるはず、なんだよね?
瓶の数多すぎなんだけど。この瓶、殆ど空なんじゃ?
一つずつ軽く小瓶を持ち上げながら中身を確認していく。
これじゃない、……これじゃない。これも空。これでも…あ。これ入ってる。
ビーズみたいな小さな結晶。クロキモノだから結晶もやっぱり黒なんだ?
黒い結晶がいち、にい、さん、しぃ、ご…あれ? 一つ足りない?
他の瓶に入ってる?
────…あった。これだ。
………。これ、どういう事だろう?
これだけ色が違うんだけど。
もしかして、クロキモノには……種類があるの?
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