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異世界夢紀行  作者: 舞原倫音
第1章 夢守の帰還
2/15

第一夜

 ……。

 寝苦しい日が続いてた。いや、寝苦しいというと語弊があるんだけど。

 それは眠った後に来る、感覚。

 ──寝ている、という意識があって身体に起こる異変。

 身体の中の何かを引っ張られるような──違和感。

 その違和感が起こり始める数日前、寝ている自分と自分の部屋を部屋の上から眺めていた──なんて夢を見た時期だったこともあって、引っ張られてるのは自分の魂──幽体離脱か!? とパニクった。目をつぶってしばらくすると起こるその感覚は、意識はしっかりしているにも関わらず、身体を起こす事は出来なくて、動かない身体を必死に起こそうと意識だけが抗ってやっとの事で目を覚ます……を繰り返し結果として寝れていない──熟睡する事が出来ない日々が続いていた。

 最初の頃はちょっと待ってよ、これ金縛り!? と、ネットで調べてみたりもしたんだけど、その時調べた結果としては引っ張られる違和感は不明。金縛りの正体は、睡眠麻痺……要は身体が寝ているが意識だけが起きているレム睡眠という事だった。

 金縛りの感覚はストレスとか疲れとかが要因の一つってあったけど日常生活の習慣・環境はそんなに急に変えれるものじゃない。だから仕方がないのかな。と今日もソレが来ると思っていた。

 ……だけど。

 今日に限っては違っていた。

 ふわり、ふわり、身体ごと。

 いつもみたいな強制感は全く無くて。

 ゆっくりと。身体ごと浮かんでいくような──不思議な感覚。

 いつもの様に身体は動かないけど不思議と怖さはなくて。

 ただ、異様に眩しかった。

 目は瞑ったままのはずなのに。景色は何も見えていないのに。脳裏に浮かぶ光。その光が、眩しい。そう考えた時だった。

 戸締まりをしてから寝た筈の部屋で、風が吹いた。

 えっ、と思わず──身体を起こすと、あたしは目を見開いた。

「……。」

 スイマセンダレカコタエヲクダサイ。

 空に浮かぶは紅い月。

  ──しかもなんでか二つある。

 踏みしめたるは緑の大地。

  ──なんで草原のど真ん中?

  っていうかあたしのベッドはどこいった?

 握りしめたるは一枚の…寝る時に掛けてた薄手の毛布。

  ──なんでこれだけ?

  壁は!? 天井は!? 家具は!?

  あたしの部屋…んーにゃそもそも家はどこいった!?

 思わず深い溜息を付いて、「どこなのよ、ここ。」と呟く問いに、答えてくれそうな人影は見当たらなかった。


 呆ける事──しばし。

 呆けても 現状打破には つながらない。

 って、字余りしまくり。

 とりあえずは、うん。──考えよう。

 といっても思いあたるのはそう多くないしなぁ。


  ・自分の部屋でいつものように布団に入った。

    …寝たって事、だよね?

  ・いつもと違う感覚だった。

    …感覚はわかんないけど、これもまあ寝たから、だよね?

  ・目を覚ましたらここだった。

    …つまり一度寝たってことで。


 ざっくりと三つを考慮して。

 つまり、共通事項として。今自分は寝てる?

 そういえば、金縛りを調べた時に夢に気づく夢っていうのがあったかも?

「……そっか。じゃあこれ、夢か。」

 これが夢ならと、自分の中で何かがストンと落ちた。

 きっと目が覚めれば元通り。

 …なら、この世界少し見て回って見ようかな? 月が二つとか面白そうだし。

 そんな事を考えて、あたしはその場からの移動を決めた。


     *  *  *  *  *  *


 見渡す限りあたり一面、ずっと草原が続いてる──と思ったら、そんなことなかった。

「どこか遠くにでも道でもないかな。」

 と、目を凝らして探してみれば、遠くに草原が切れてる部分が、見えた気がした。

 あれ道路かな? とゆっくりと歩きながら近づいてみると、ああ、やっぱり。と言うべきか、予想通りに地面。ただ道路っていうよりは道と言うべき? 未舗装の土のまま続く幅50センチ位?の道。

 道があるっていうことは、誰かが使ってるということで。使っているということは、道の先には何かがあるっていうことで。この道に沿って行けば──きっと何かが見つかるフラグ、な気がするんだけど。

 ああ、でも。なんでだろう。右も左も…なんでか、胸の中がざわつく。

 この場所から動かないほうがもしかしたら夢見としては良いのかもって思うけど、どうせ最近ずっとまともに寝れてないんだから別に今更ちょっとくらい、と軽く悩みはしたものの、結局あたしはその道を、右へと進む事にした。


 変わらない景色が続──、いや変わってるんだけど。

 もうどれくらい歩いたんだろ? 月があった位置も大分変わってるし、結構な時間を歩いた、と思う。でも似たような景色が変わらずずっと続いてた。まぁ、身体に疲れを感じないからいいけどさ…。

 ただ、うん。一つ。拾いモノ──を、したんだよね。

 黒い犬……みたいな動物。

 みたいな、っていうのはあたしがその犬種に覚えがないから。

 いや、だってさ。

 耳があってしっぽがあって、女のあたしでも抱えられる程度の小型の動物で、…毛がすっごくもっさりしてる。あたしにはこれが猫とは思えない。というか認めたくないし、犬か猫かって聞かれたら、犬じゃね? って即答する程度には犬寄りだよね? まぁ、でぶ猫っていわれたらそれまでだけどさ。

 んで、この子、道に倒れてたんだよね、ペターっと。怪我とかがあるわけじゃなさそうだけど、寒いのか小刻みに震えてるし。放っておくのもどうかと思って取り敢えず持ってた毛布でくるんで連れ歩いてる。

 にしても、景色全然変わんないなぁ。

「あーあ、つまんない。

 せめて話し相手がいればいいのになぁ」

 なんて思わず考えを口にした。そんな時。風が木々を揺らした気がした。

 夢なのに、肌に感じる風も、動物を抱いた感触も随分とリアルな事で。

 ──…テ。

「うん?」

 ──モ…──。

「……うん?」

 聞き取れない声がした。

 あたりを見回しても人影なんてみあたらないし。

 そもそも聞いたっていうよりは、響いたって感覚に近い気がする。

 夢の中なのに幻聴かなぁ? 話し相手を望んだせいで?

 だって、ここに居るのは自分と…、自分、と…? うん?

 ……もしかして?

 浮かんだのは一つの可能性。

 ……夢だし。有り、なの? まさか、えぇ?

 ──このこ、しゃべるの?

 浮かんだ可能性に腕の中にいるその子に視線を落とすと、意識が戻ってきたのかその子は薄っすらと目を開けていた。

 昏く覗いた深紅の瞳に、月とあたしが映ってた。


 じぃっとあたしを見ていた目が、スゥっと細くなった。

 胸の奥がざわついた。

 だってこの目。なんか敵意が潜んでない!?

 噛みついてきそうな程睨んでる気がする…。

 毛布に包まれてて手と足が封じ? られてるからおとなしいのかなぁ。気が変わって暴れられても困っちゃうし、とりあえず地面におろしたほうがよさ…そう? ああもう。倒れてた? のを拾っただけなのにひどくない? もうちょっとデレてくれたってバチは当たらないと思うんだけど?

「ええっと… ねぇ、君、もしかして言葉が解るんじゃない?」

 そのこを地面へとおろしながらそれとなーく聞いてみた。

「──。…コトバ、──。ワカル。……。ドウ、シテ─…」

 ああ、睨んでる。睨んでらっしゃる…。

 地面においた瞬間毛布から器用にぬけだして、あたしの目の前に対峙してそりゃぁもうじーっとりと睨んでらっしゃる。

 でも答えてくれたし会話は成立? もしかして意外といける? さすが夢。元々あたしが見てる夢なんだから、ある程度融通がきくのかも?

 にしても少年声、かぁ。俺とか言って睨みきかせてる状態なのに声が高めでなんかかわいい。

「良かったらあたしとお話しない?」

「…オハ、ナシ?」

「うん、そう。君、向こうの方で倒れてたんだけど覚えてない?

 せっかくだから、あたしこの世界の事知りたいんだけど?」

「俺ハまだ、染マッテ…ナイ。騙サレない」

「えぇぇ…。騙すって何。ってか危害を加えるつもりなら、わざわざ運んだりしないんだけど?」

「──。クロキモノは、信用シナイ。」

「クロキモノ?」

「お前、クロキモノ、ダロウ?」

「いや、クロキモノってなんなのよ?」

「近ヨルナ!」

 ちょっとだけ、距離を縮めてみようかな、と動いたらとんでもなく大声で拒否された。ひどくね? そして続けてこう言った。

「──無知ハ罪。」

「すいません……」

 だって生活していく上で、そんな知識はいらないですし。夢の造語なんてしらんですよ。

「ええと、そうだ。罪が深くならないよう、よかったら教えてよ?」

 罪と言われてしまったので、ダメ元で聞いてみた。

 聞き方としてどうなのそれは、と自分でも思わなくもないけど。

 でも。きっと今見てるこの夢ではクロキモノってのが当たり前の事柄なんだよね? ここで情報入手っていうフラグを立てたら、この夢にも何か変化があるんじゃない? だってこのこは、同じ景色がずーっと続くだけのこの夢で、唯一見つけた住人?なんだし。

 ちょっとだけ続いた沈黙の後、

「……。クロキモノハ民ヲ染めイズコヘト連レ去ッテシマウ。

 ──俺モ、お前モ、姿ヲ見るニ染マッテイル、ダロウナ…」

 わりとあっさりと教えてくれた。

 だけどまだ──敵意の篭った目はそのままだ。

 ああ、またそのじっとりとした視線…。落ち着かないよ、できればやめて。

 でもうん、なんとなくわかったよ。敵意の奥に隠してるもの。

 つまり日本人特有の黒髪黒目に「怯えてる」、と。

 で、相手に警戒が必要ってことは、そのクロキモノは伝染病みたいにうつるって事?

 …えー…、なにこの変な世界観。自分ディスとかどんな夢。

「ええと、つまり例えば、あたしの髪と目や、君の身体を覆うその毛が、黒じゃなければ少しは違う態度だった、と?」

「……クロヨリハ。」

「ああ、そうなんだ…。」

 視界に入った髪の一房を右手人差し指でくるくるっと軽くいじりつつ少しへこんだ。

 うまれてこのかた十六年、

「髪は女の命なのよ!? 色を染めるだなんてとんでもないわ!?」

「そうだよ、こんなに綺麗に生まれた母さん譲りのこの髪を染めるだなんて、冒涜でしか無いと思うね」

 …と母と父の熱意を考慮して、手入れをしてたこのさらっさらのストレートロング。明るく染めた同級生の茶髪が羨ましくないと言ったら嘘になるけど、それでも、わりかし自慢の……だったんだけどな。そうか、この髪の色…がだめなのか。でも…うーん、そっかぁ。

「色…かぁ。

 まぁ夢の中でくらい、黒髪じゃなくてもいいのかな?

 いっそパパっと、例えばそうだなぁ、女の子らしいピンクとかに染まっちゃえば、ファンタジーらしくてかわいいかもね。

 そしたら友達になれたかも、しれないんでしょ?」

 そう言った瞬間だった。

 どれだけ歩いても持ち歩いても疲れることがなかった自分の身体に、覚えのある感覚が…来た。体の中から魂抜き取られるんじゃないかっていう、あの──。寝不足の原因が。

なんで今!? 涙目になりながら無意識に手を胸にあてて、息がつまりそうになりながら引っ張られてなるものか……と気合を入れて、

 嫌ーーー、来ないでっ、幽体離脱!? あたしの魂──…

「──抜けないでッ」

 思わず叫んだ。

 その瞬間。風が、大地が、あのこの声が──とりまく世界の気配全てが。遠く揺らいだ。

 なんていうか、モヤがかかったような歪んだような。そんな感覚。

 あのこが何かを言った気がする。けど、あたしには声が認識できなかった。

 見ていた夢が不鮮明にぼやけていく。白く、眩しく、世界が、消える。

 ああ、だめだ。周囲の気配が消えてしまった。


     *  *  *  *  *  *


 ……眩しい、まぶしい、まぶしぃ…まぶ…あれ? 眩しく、なくね?

 ──気付いたら、天井を見てた。いつも通りのあたしの部屋の。

 引っ張られるような苦しかった感覚も消えてる。…ああ、起きたんだ、よかった。

 今何時だろう? 時計、時計はっと…五時か。六時起きの予定だったから…後一時間。

 寝付きにくいのをふまえると、…ニ度寝しても寝れない、かな?

 に、しても変な夢だった。せっかく意識があったのに、似たような景色に黒い動物がいっぴきだけで、しかも最後のあれのせいか寝汗びっしょりでちょっと気持ちわるい。あんな事になるならやっぱりフラグ、立てなきゃよかった。ああ、それにしても、寝汗だけじゃなくって、身体も重い気がする。寝て起きたら余計に疲れたとかこれ、寝た意味あるのかな。寝直すのも微妙な時間だし、とりあえず軽くシャワーでも浴びに行こっと。


     *  *  *  *  *  *


 お風呂場に行く途中お父さんとすれ違った。

「おはよう。想は早いね、もう起きるのかい?」

「うん、ちょっと、夢見がわるくって…。

 汗びっしょりだし、なんか身体も重く感じるし、お風呂でさっぱりしようかなって。お父…」

「──うん?」

「あ、えと……パパはまた仕事?」

 危ない危ない。パパって呼ばないと拗ねて不機嫌になっちゃうんだよね。

 小さい頃はパパって呼んでたけど、さすがにもう年が年だし恥ずかしい。できればお父さんって呼びたい、んだけど…。


 父さんなんて呼称には溝がある!

 娘ができたらパパって呼んで貰うのが私の夢だった!


 って主張を譲ってくれない。正直うちの両親は過保護な親バカだとおもう。特にこの父。

 父は女の子っていうのはこうあるべきだ! みたいな考えをこれでもかという程持ってる。料理は上手く、決して声を荒げずたおやかに、人を立てつつも自分も決して下げはしないで笑顔は絶やさず。この、どこの男子がお嬢に見てる幻想なんだよ…みたいな理想像を持っているのを踏まえた上で、その期待の重圧に耐えかねて、あえて別路線の口調や服や生活態度をつきつめていったあたしの事を、なんてかわいい娘なんだと、べた褒めをして甘やかす。理想像とは何なのか。

 例えば、たまーに頼まれて作る目玉焼きやチャーハン、カレーとかの簡単料理や、お茶やコーヒーを入れただけ…とかでも、なんていい娘を持ったんだ、私は理想の娘を持ったと、来客がいようがいまいがべた褒めしてくる。むしろ来客がいるときは、聞き役がいるのをいい事に一方的に親バカトークに花を咲かせる。大抵は出版社の担当さんが犠牲になって、帰る頃には苦笑い。でも稀に遊びに来てたあたしの友達にもやらかしてくれる。恥ずかしいからやめてと訴えても通じなく、もう面倒だしと料理関連なんてほとんどしなくなったのは内緒の事実。……お母さん、ごめん。

 そんな父が父さんといわれそうになって顰めた顔を、パパといわれて笑顔に変えた。

「ははは、締め切りが近くってね。コーヒーを取りに台所へ行くところだよ。

 ところで、想が見たっていうその夢はパパのネタに化けてくれたりしないかな?」

「えっ。…うーん。夢の中で夢って気付いて、面白そうかもってうろついてはみたものの、二つの月がある草原をずーっと歩いてただけの夢だから…、パパの小説のネタにはならないんじゃない?」

「うん? ずーっと歩いてるだけなのに夢見が悪かったのかい?」

「え? あぁ、えっと。

 黒っぽい動物を拾って話をしてたんだけど、話してる途中でいつもの魂抜かれるんじゃないかっていう衝撃がきて、その…いつもより強くて…。起きたら汗がぐっしょりで…」

「ああ、最近寝付けないっていっていたね。前は金縛りっていっていたけど、魂を抜かれるみたいな感覚もあるのかい?」

「……うん。」

「そうか。それは困ったね──。

 そうだ、それじゃあパパのお守りを一つ想に譲ってあげよう。」

「お守り?」

「そう。パパが今つけてるこのラピスラズリのブレスレット──とか、どうだい?」

 そういって見せてくれたパパの腕にはラピスを埋め込んだ銀色の小さな平たいプレートが連なって作られたブレスレット。そのブレスレットを腕から外して、あたしの手に握らせてくれた。

「知っているかい? ラピスラズリは邪気や邪念を退け、また直感力や想像力を高める力がある──と、言われている。

 今まではパパの仕事のお守りだったんだけどね、これからは想が守ってもらうといい。大事にすればきっと想を守ってくれるよ。」

「パパのお守りは、いいの?」

「かまわないよ。

 私は他にも幾つか持っているから。ただ──」

 うん? 何かあるの?

「注意が必要な点もある。

 まず、お守りがあるから、と傲慢になってはいけないよ。自分勝手な傲慢が続けば、石にも見捨てられてしまうからね。そうならないよう、自分の行動・発言・決断には、気をつける事。

 それから──お風呂にいくんだったね。ラピスラズリは陽と水を嫌うから、お風呂の中には持ち込まない事。代わりに月の光が大好きだから、月光浴は沢山させてあげるといい。

 ……わかったかい?」

「わかった。ありがと、パパ。」

「うん、さすが私の子だ。いい返事だね。」

 そういうと、やっぱり、というべきか。

 満足そうな笑みを浮かべてパパはあたしの頭を撫でた。

「それじゃあお風呂にいっておいで。」

「うん、いってきます」

 年も年だし、そろそろ子供扱いが恥ずかしいんだけど…

 でも、うーん、あの親だし、きっと心配させちゃったんだろうなぁ…。



     *  *  *  *  *  *


 夜が、来てしまった。寝るの、やだなぁ。…でも。

「安眠できないんですって?

 カモミールティーを飲んでから寝るといいわよ。これには安眠を促す効果があってね」

 …と、母がわざわざハーブティーを淹れてくれた。

「夜の安眠のためにお守りをあげたけど、良く考えたら寝る時間に月光浴は難しいよね。

 部屋の配置を変えておいたから、今日から雨戸は閉めずに眠るといいよ。

 それなら自然と月明かりを浴びてくれるだろう?」

 …と、あたしが学校にいっている間に何故か、部屋の模様替えをされていた。

 何が、というと窓際にあったはずの家具とベッドの位置が見事に入れ替わっていた。

 前の配置結構きにいってたんだけどなぁ。あたしのプライバシー空間は一体どこにあるんだろう…。…はぁ。いや、うん。心配してくれたんだよね。だから、うん。仕方ないってちゃんとわりきってる。

 ──あれ? お気に入りの肌触りだった毛布がなんでか別の毛布に変わってる。模様替えついでに洗濯にでも出したの、かな? まぁ、いっか。…寝よ。

 今日起こった出来事の幾つかを思い出しながらあたしはベッドに横になって目を瞑った。

 寝るの恐いな、と思ったものの眠気は思いの外早く来てくれた。

 意識が静かに落ちていく気がする。深く、深く…。

 …うん。久しぶりに安眠できそう、よかった。

 ……おやすみなさい。


     *  *  *  *  *  *


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