第四夜 9
ギューっと抱っこしたあたしの腕の中で、ウルがモゾモゾ? ジタバタ? 暴れてる。
「想……」
「うん?」
「……。いつまで続くものなんだ?」
やっぱりあたしの抱っこは嫌なのか、ウルは泣きそうな瞳でじぃっと訴えてくる。
…あたしとの宣誓の件があるから、本当は泣くのを必死に堪えてる瞳なのかもしんない。
「うーん。いつまでだろ? 明確な線引きってどうなんだろね?
ウルが罰が欲しいっていうからやってみたけど、ウルの思い通りになったら、罰にならないんじゃないかなぁ?」
んー、ウルの羊毛もっふもふだね。寝る時の抱きぐるみに一匹欲しいなぁー。
あ。でも手加減無用で抱きしめたから、息できない程苦しかっただけなのかもしんない?
罰の終わりっていつなんだろ? って考えながら、抱きしめる力をちょっと緩めてあげた。
「……。俺が悪かった……。」
……力は緩めてあげた筈なんだけど。
たのむ! …とウルの瞳が言ってくる。
どうやら苦しいとかいう理由じゃなくて、役得なこの罰が、ウルにとってすごく堪えるらしい。
まぁ、罰というのがどういう事なのか身をもって知ったなら、今後変な発言しないと思うし、この悪戯は成功だと思うけど…。
本当はもうちょっともふもふしてたかったけど、虐めたいわけじゃないもんね?
抱っこしてたウルを後ろ髪惹かれつつ床におろしてあげた。
その際、「これが罰を受けた者の心境か。」とか言ってたんだけど、抱っこの刑にその感想って…と、あたしは微妙な気持ちになった。
ま、いっか。
ウルは今あたしの忠臣状態みたいだけど、参考にしてた本は訂正したし。参考にする記憶が変われば多分今後の行動にも変化ができるはず。
…だよね?
うん。きっといつかは忠臣から友達に…。
せめて、最悪、もふもふできるペット関係に。
だって、あたしは忠臣なんて望んでない。主従なんて関係以外で、ウルと仲良くなれたらいいんだけどな?
* * * * * *
「そうだウル。そういえばね、」
抱っこの刑とかちょっと横道にそれたけど、あたしが寝てられる時間は限られてるし、ちゃっちゃと確認しないとね? 改変した部屋の確認は済んだから、後は外で外装を見て、時計のレクチャーと時間の確認…くらいかな?
途中課題的な物が出てきたし、とりあえず今日は何を作るか決めないと。
「起きてる時に色々考えて、勝手に決めてきたことがあってさ。あ。ウルが嫌がったり必要な物があるなら、それは勿論検討するよ。」
「なんだ?」
「自分用に作りたいものがあって。
ねぇ、ウル。そのモノクルは気に入ってくれたんだよね?」
「ああ。」
「それあたし用も欲しいんだけど作ってもいい?」
「いいんじゃないか?
それより想。俺も今回頼みがある。」
「頼み? なに創ってほしいの?」
「……になりたい。」
「え?」
なりたい?
「俺を人の種にして欲しいんだ。」
「人の種って、ウル、人間になりたいの?」
「ああ」
それって…。夢羊の……擬人化ってこと?
「なんで?」
「……。不便でならん。」
「不便って例えば?」
「移動も、調査も、警護も──全てだ。
夢守の力で俺個人の願いを叶えることがいい事だとは思っていない。
無理な願いをしているという自覚もある。
だが…、俺のあの時の言葉に嘘はない。
俺の時間、俺の命。全ては想、お前のものだ。
だが──、俺の全てを捧げても、今の俺では想の役に立っていない…!
頼む! 俺に想と同等の体を創ってくれ!」
いや、まって。
なんかとんでもない事言ってない…?
さっきもちらっと言ってたけどさ…。
時間も命も全部あたしのって、ちょっと忠誠心強すぎじゃない…?
「えっと…。あたしはウルと友達関係を築きたいから、そういう重いのはちょっと…。
てか、今でもウルは十分頑張ってるんじゃない? それに夢羊の姿は可愛いし…そのままでよくない?
むしろ姿はそのままで、たまーにさっきみたいに抱っこさせてくれる方があたしとしては嬉しいんだけど…?」
「いや、駄目だ! 想、頼む……!」
「でも…」
「頼む! この通りだ!!」
……多分、土下座してるんだろうと思うけど、丸っこい体を地面にペタリとくっ付けて、お饅頭みたいな恰好でウルは言う。
……………
………
……
暫く問答のあった後、結果として押し切られたあたしがそこに居た。
* * * * * *
ウルの羊毛がドピンクなのは、この擬人化設定があったせい。