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異世界夢紀行  作者: 舞原倫音
第1章 夢守の帰還
10/15

第四夜 6

「……。──。……。──。……。」

 モノクルで結晶を一瞥した後、ウルは何かを考えこんだ様だった。

 暫く考えこんだ後、

「想、意見をいいか? 確認したい事がある。」

 ウルはまじめな顔で聞いてきた。

「意見って?」

「不安、とはなんだ?」

「へ?」

 不安?

 なんだ? と聞かれても…。

「えーと…、不安っていう…感情?」

「感情?」

「えっと…。ほら、ウルだって、泣いたり笑ったりしてるでしょ?

 さっきウル自身、嬉しいっていってたじゃない?

 嬉しいとは違うけど、不安っていうのは…心細い…みたいな…そういう、感情?」

「……。泣く…笑う…。では心細いとは、なんだ?」

「えぇ…。」

 そこも?

 どうしようっていう気持ち……いやそれは悩みみたいにもとらえられるし。

 一人で居たくない…っていうのも違うよね。寂しいになっちゃうし。

 不安で。心細くて。っていえば相手には大体伝わるし、改めて聞かれてもそれ以外の説明が思いつかない。

「うーん…」

「そうか。説明しにくいものなんだな。

 ……怒り、というのも感情でいいか?」

「そだね。っていうか、ウルさっき怒ってたよね?」

「俺が? いつ?」

「あたしが瓶、投げた後」

「……そうか。あれが怒りと言うんだな。」

 えー? 自覚、なし?

 っていうか、あれがって何。あんなにわかりやすい顔してたのに。……もしかして、怒りをよくわかってない?

「だがあれは想が危険な事をしたからだろう?」

 …まぁ、ウルから見たらそうなんだけど。

「一応ね、あたしに危険はないと思っての行動だったんだよ?」

「……どういうことだ?」

 だって、もともとこの教会は避難場所。

 例え小瓶に『部屋が安全』という夢守の力が働いてても、あの部屋は管理人室であると同時に『あたしの避難場所』。

 避難場所として創った以上、小瓶同様あたしの身にも夢守の力は働くはず。

 ……だから、もしも小瓶が跳ねかえって来た場合、あたしに当たるなら、どんな回避現象がおきるのか。…を本当は確認したかった。

 とはいえウルが怒るから、それは今後も確認できなさそうだけど…。

「避難場所だから、部屋の主の危険も回避されるかなってためしたつもり」

「……。そうか。俺が、──。浅慮…だったんだな。

 俺は想を信頼している。想の意志も尊重したい。だが同時に俺は想を守る立場だと、──。自負、している。

 想はあの時、誓約を変更したが俺の意志は変わっていない。

 例え安全の保障があっても、想、今後危険な事は極力避けてくれないか?」

「うん、ごめんね。そこは次から気を付ける。」

「ああ。

 それと、想。この結晶の詳細を直接見てほしいんだが、」

「うん?」

「クロキモノのおおよその正体がわかった。」

 ウルはそう言ってモノクルをあたしにゆだね、確信に満ちた声で言い切った。

「感情、だ。」

 かんじょう? って、……。

 ──感情? あの感情?

「論より証拠…というやつだな。見ればいい。」

「う、うん?」

 促されて黒い結晶をモノクル越しに見てみれば、


┌───────────────────────────┐

├──◆夢魅石ゆめみせき◆────────────────────┤

  特 性:不安抱ふあんいだきし心の欠片

  説 明:純結晶化されたクロキモノ

  浄化率:0%

├──────────────────────◇─◆─◇┤

└───────────────────────────┘


 ゲームによくあるステータス画面の様な表示が見えた。

 へー、こういう風に表示されるんだ?

 夢魅石ねぇ…。夢見じゃないんだ?

 夢を魅る石? 夢を魅了する石? 夢に魅かれる石? これ、何の略だろう?

 クロキモノって、夢だしてっきり悪夢だと思ってたけど、あたしがしてた予想とはちょっと違うみたい?

 

 続いてもう一つの、赤い結晶もみてみると、

 

┌───────────────────────────┐

├──◆夢魅石ゆめみせき◆────────────────────┤

  特 性:怒りいだきし心の欠片

  説 明:純結晶化されたクロキモノ

  浄化率:0%

├──────────────────────◇─◆─◇┤

└───────────────────────────┘


 ……。

 なるほど? 固有名詞は一緒だけど特性により浄化後の色が違うと?

 ウルは特性にこう書かれてるから不安と怒りを例えに出して、あたしが不安や怒りは感情だと言ったから、そう結論付けた…と。

 っていうか心の欠片ってことは、クロキモノも夢羊ウル達と同じく人間や生き物が生みだした産物ってこと?

 ……ちょっとまって? それって……あれだよね。

 あたしの知ってるパターンだと、人々の抱える不安や怒り、憎しみや憎悪。そういった『負の感情』が集まって得体のしれない何か巨大な敵が現れて、力ある者がそれを打ち倒して世界を救う…みたいな、あれ?

 いやいやいやいや、まさかね…。RPGとしてベタすぎるし、この世界でだらだら過ごしたいあたしとしては、夢守の力で集合体の浄化なんて対価がきつそうだし、ご遠慮したい。

 だから──、うん。不安の芽…は潰したいかも。

 そもそも、これ純結晶って書いてあるし、『純』ならあたしが創ったあのシステムで一個体の浄化は多分ちゃんと出来てる。

 それにこの部屋で浄化後の結晶は危険なく安全に保管ができる。

 あたしを救世主と呼んだウルには悪いけど、今後これ系ルートのフラグが見えたら全力でへし折る方向で行こう。

 モノクル越しに夢魅石を眺めつつ、そう決意を固めていると、

「想、どうおもう?」

 意見を求めるウルの声。

 どうって言われても…。

「うーん? クロキモノが感情かどうかは置いといて、合体系は避けたい感じ?」

 だって対価きつくて寝汗ぐっしょりな起床はなるべく避けたいし。

「合体……? ──。そうか、こんな可能性もあったのか。」

「こんな?」

「……すまん。記憶を見た。必要知識として許容して欲しい。」

「あぁ…。まぁ、うん。最低限でお願…」

「勿論だ。」

 そうか、ウルがまだ知らない知識はあたしの記憶を探しちゃう、か…。

 代替案、広辞苑と思ってたけど本はちょっと創れないみたいだし、何か他の手考えないと。

「とりあえずウルも含めた羊さん達なんだけどさ?

 クロキモノが自分の中にいて、身動き一つしなかったとき、何か夢とかみてたりしたの?

 結晶これが不安と怒りだっていうんだったらそれ系の」

「夢…? いいや、そもそも俺達住人はそう創られた者達以外夢というものは見ることがない。」

「え、そうなの? それって、寝ないって事?」

「ああ。そもそもこの世界が『夢』そのものだからな。

 俺達は人の種が創った登場人物にすぎん。夢を見る必要が無いんだろう。

 しかし想と会う前の……俺の記憶であれば…。

 黒い場所に居たな。その後は、気が付いたら想の腕の中だ。」

「黒い場所? 景色は? 何かあった? それとも真っ暗で何も見えなかったってこと?」

「詳細か。そうだな、感覚…というのか? 多分地面はあったんだろうな。だが景色は記憶にないな。

 ただ…そうだな、それとは別に訴えかける何かがあった気はするな」

「訴えかける…?」

「すまん。表現できる言葉が見つからん。」

「そっか。」

 そこ、結構大事なとこだと思うんだけど…。

「じゃあ、えっと…。

 ウル以外の子はどうだろう? ちょっと聞いてもらっていい?」

「ああ、勿論だ。

 個別に確認を入れるから少しまってくれ。……。」

 そういってウルは静かに目を閉じた。

 前に言ってた念話テレパシーってやつかな?

 夢語なんて無いんだし、現状これはウルに任せるしかないんだよね。

 だけどまってる時間はちょっと暇なわけで。

 暇つぶしと悪戯心から、あたしは預かったままだったモノクルごしにウルを見てみる事にした。

 

┌───────────────────────────┐

├──◆ウル◆─────────────────────┤

  種 族:夢羊(亜種)

  称 号:想の忠臣

  浄化率:100%

├──────────────────────◇─◆─◇┤

└───────────────────────────┘


 ……。

 称号に突っ込みたい。称号に突っ込みたい。称号に突っ込みたい。

 なんで忠臣!? 友達って約束どこ行った!?

 個人的に大事な事だから、思わず三回言ったけど、大事そうなのは多分そこじゃなくって。

 あたしはさっきパソコンで見たウルの兄弟羊達の項目を思い出す。


 『夢羊』という種族で、『名前が存在しない代わりにナンバリング』がされていて──


 兄弟というからには生まれは同じ筈。

 それなのに。

 ウルが亜種って、……どういう事?

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