7
8話目です。
本日2度目の投稿です。評価上がっててびっくりです。ありがとうございます。
誤字脱字、お目汚しなどあると思いますが・・・
蒼士くんの体調に変化が・・・
つんつん、と頬のあたりをつつかれているような気がする。
若干の体の重さで起き上がりたくない蒼士は、腕でその相手を振り払おうとする。振り払われた相手は、バサバサと翼をはためかせてホバリングし・・・
「いてええぇっ!」
あろうことか蒼士の額に爪を立てて止まった。
「だ、ダンテぇ!お前なぁ、その巨体で布のない部分にとまったら痛いだろ?!!」
一気に体を起こし、ダンテを追い払う。体の重さなど吹っ飛んだかのような機敏な起き上がりである。額を触り撫でた手を見て血が付いていないのを確認すると、ベッドから起き上がった。ダンテはベッドヘッドの部分に止まってのんきに毛繕い中だ。
その平和な姿を見て、ため息を吐きつつ部屋を出た。
食事部屋に行くと、すでにヴェルが先に食事をとっていた。
「今日はいつもより遅かったね。先に食べてしまっているよ。ダンテが起こしに行ったろう?」
「・・・デコに直接止まりやがった。今日はなんかちょっと体が重くて、起きれなかった」
「体が?・・・ちょっと気になるね。食事がすんだら少し見てやろう。それにしても」
ヴェルは蒼士の頭を見てため息をついた。
「髪ぐらい何とかしてからきたらどうだね。毎日毎日爆発した頭で・・・」
「しかたないだろ。くせ毛だから時間かけて直さないと戻らないんだよ・・・いつも朝飯の後で直すじゃんか」
蒼士の髪くせ毛で、さらにねこっ毛という寝癖が付きやすく直しにくい髪質である。向こうにいたときも毎朝のセットには時間がかかっていた。ドライヤーや寝癖直しスプレーなど文明の利器を使っても、30分はかかるのだ。そういったものが使えないこちらでは、それはもう苦労するのだ。
しかも真っ黒なので重たく見えるようで、ヴェルには毎朝髪のことを言われる。
ヴェルの対面に座り、ミルクのピッチャーから自分のカップに注いでから食卓を見ると、いつもは見ないジャムが乗っていた。
「あれ、今日はジャムなんかあるんだ?なんのジャム?」
「昨日摘んだレダイムだよ」
いそいそとたっぷり白パンに塗っている蒼士は、一度手を止めてじっくりジャムを見つめた。
「へぇ。昨日の木の実かぁ」
ぱくり、と一口。
口の中にさっぱりとしたほのかな酸味のある甘みがふわっと広がる。向こうで食べていたジャムとは全く違う、本当に自然のままの甘さ。プレザーブタイプで果肉が残っているのもまた、食感で舌を楽しませた。
「うんまっ」
「採れたてをすぐに煮詰めたからね。少しはちみつを入れているけど、レダイムの甘さで十分甘いだろう?というかソウは甘党なんだね・・・そんなに落ちそうなほどジャム乗っけて・・・」
あきれた顔で蒼士を見ながら自分の食器を片付ける。洗い場へもっていき、次のパンにたっぷりジャムを乗せている蒼士に告げた。
「食べ終わったら洗い物を頼むよ。そしたら座学の前にその体をみてやるから、仕事部屋にくるんだよ」
仕事部屋、と聞いて昨日のにおいを思い出した蒼士は扉を開けるときに躊躇した。開けた瞬間においが襲ってきたらと考えるとどうしても開ける気にならない。
そのままドアを開けるか開けないかと立ちすくんでいると、勝手に向こうから扉が開いた。
「・・・あれ?におわない」
「あたりまえだろう。何のために部屋の扉や窓を開けて調薬していると思ってるんだ。においなんか昨日のうちに換気されてるよ」
呆れた顔で顎をしゃくって、中の椅子に座るよう促した。
蒼士が座るとヴェルは向かいに腰かけて、テーブルの上にある小皿に小瓶からとろりとした液を少量垂らす。
「火」
手をかざしてボソッとつぶやくと、その液体にろうそくの炎のような小さな灯がともる。少し後、その火であぶられた液体からふわりとハーブのような香りが立ち上る。
「さて、視させてもらうよ」
その炎越しにじぃっと見られていると、なんだか体の中身まで視られているような気がする。
若干の居心地の悪さを感じ、もぞりと座りなおした。
時間にすれば30秒となかっただろうが、蒼士にとってはとても長く感じられた。
ヴェルがぱちりと瞬きをすると、ふっと火を吹き消し、席を立って窓を開けた。
「ソウがここに来た時よりも魔結晶の気配が強くなっている。体の違和感はその副作用かもしれん。強いエネルギーが体の外でくすぶって、内に入ろうとしているようだ。ただ器の許容量がまだ追いついていないのか、エネルギーが体に触れるとはねかえされておる。器自体もここに来た時よりも大きくなっておるよ。そのあいた分のエネルギーを取り込んで、体になじみ切っていないために体が重く感じたようだ」
「それって、魔結晶が体になじめば不調が消えるってこと?」
「どころか、また感覚が鋭くなったり、体が軽くなったりするだろうよ。まだスキルやスペルが使えそうなほどではないが、このまま外のエネルギーすべてなじめばここでの暮らしも容易になる。覚醒も近いやもしれんよ」
「まだ、特に何も感じはしないけど・・・」
確かに体の重さは、食事をとってしばらくしたら消えていた。ただの疲れからくる不調かと思っていたのだ。いわゆるチートのように『ある時突然』という感じではないのだろう。ヴェルの言うことが正しければ、今後ゆっくりと体がこちらの世界に適していくように変わってゆくのだろう。
「あたしの見立ては外れたことがないよ。とにかく体がこちらに慣れてきていることはわかった。今まで通りの無理しない生活をしてゆくことだ。今日はこれで予定通りこの後は座学で学んでもらうよ」
小皿を片付け、本棚から何冊か本をとりだしテーブルに置いた。
体がアストレイヤになじんでゆく。
ゆっくりと、確実に。
今は目の前のすべきことを、と蒼士は下を向いた顔をヴェルのほうに向けた。
お読みいただきありがとうございます。