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Astleyer fantasy ーMMOの世界が現実になった時ー  作者: 秋本速斗
5 果たされなかった雪原の約束
58/68

53

54話目です。

誤字脱字、お目汚しあると思いますが・・・


ちょっと暗いです。

「その人、もしくは痕跡を探してみようか」

黙って話を聞いていたソウがそう切り出す。

彼女の話からその青年は、今回の雪解けの季節に出て行ったことになる。もしかしたらまだ間に合うかもしれない。

「とにかく湖に船を出してみよう」

一行は船を借りて湖の対岸へ向かってみることにした。



船はレイが漕ぐことになった。

町人から船頭を借りることも考えたが、魔物が襲ってきたときのことを考えると万全のメンバーで向かいたかった。船は6人乗ればぎりぎりで、それ以上になると2手にわかれるしかない。船上で襲われることはほぼないとは言っていたが、万一を考えた。


湖にはところどころ氷が残っており、対岸がうっすら見えるところにたどり着くと、向こう岸はまだ氷がかなり厚く張ったままだった。

「こんなに凍ってるもの?町側よりかなり凍ってるけど」

「よくアノヒトの船で通ったけど、前回の雪解けの季節の時は普通に氷は解けてた」

「・・・異常ってことか」

「あ、あそこ!船の影が見える」

シルバーの指さす方向。

岸から離れた、一層氷が厚く張っている湖の半ばに白くけぶってマストのようなものが見えた。



しかしそのマストは、斜めに倒れている。



レイが氷に船を寄せると、船が流されないように厚く張った氷に短剣を差してそこにロープで括り付ける。

まずレイが氷に降り立つ。

「大丈夫だ。相当厚い。滑るからそれに気を付けて行こう」

確認が済んで全員が氷に立っても、割れそうにはなかった。かなり足場としてしっかりしている。


船のほうへ進んでいくにつれ、あたりの空気がどんどん冷えてゆく。

もやがかかって見えたのは、船のあるあたりの気温がかなり下がっていたからだろう。

船が見えるようになったころ、まるで周りは冬山のように肌を差す空気に包まれていた。

「大丈夫か、ソウ」

「なんでこんな寒いんだ・・・」

カタカタと震え始めたソウに、自分のマントを外して包む。

突然、ローゼスが走り出した。

「ひとりで行かないで!危ないよ」

シルバーが慌てて追いかけると、ローゼスはウルフに戻って目標に向かって走っていった。ウルフの走る速度に、見失わないようにとシルバーもウルフに戻りローゼスを追いかける。



より一層濃い靄が、人の形をかたどって船の傍にたたずんでいた。

その目の前にたどり着いたローゼスが、まるでお座りをするようにその前に座る。

人型の靄がハッキリと人の形をとってゆくと、そこには・・・


あかるいオレンジの髪の、さみしそうに微笑んだ青年がローゼスを見ていた。

追いついたシルバーは、ローゼスの少し後ろで様子をうかがう。


『ローゼス、きみが止めた時、僕はなぜ振り切っていってしまったんだろう。君に見せたい風景を、君と一緒に探していたのに僕は、決定的な証拠を見つけて周りが見えなくなってしまっていた』

青年が、そっとローゼスを撫ぜる。その久しぶりの感触を、目を細めながら堪能していた。

『雪降りの季節に湖を守る守護者の話は本当だった。僕は湖を荒らすものとして怒りを買ったんだ』

ローゼスの前に1冊の本を差しだした。

これは青年が解読した古書であろう。青年が手を放すと古書はほのかに光りながら、ローゼスの顔の前に浮いていた。

『約束を守れなくて、ごめんね。君のことがずっと気がかりだった。あんなに小さいのに置き去りにしてしまった。でも連れて行ってしまっていたら、僕と一緒に神のもとに行くことになっていたから・・・結果的には良かったのかな。こんなに美しくなって、それに君をわかってくれる同族にも出会えたんだね』

寂しそうにローゼスを撫でる青年は、だんだんとその姿を風景と同化させていった。

『君と一緒に見たかったよ、僕のローゼス。さようなら、どうか』



しあわせに。



そうして消えていった青年の影に、ローゼスは古書を抱きしめて瞳を閉じて涙を流した。

人化したシルバーが、うしろからそっとその肩を抱きしめる。



「船が傾いてるところを見ると、その守護者に襲われて船が壊れて戻れなくなったのかな」

「さすがにここまでの気温では、一晩持たなかっただろう」

追いついて動向を見ていたソウを、レイが凍えないように後ろから抱きしめた。

「生きていてくれればって思ったけど・・・」

レイの腕をぎゅっと抱えて、立ち尽くしているふたりを見つめる。



「アノヒトも見たかった風景を、見たい」

しばらくしてローゼスが、青年がいた場所をじっと見つめてつぶやいた。

「どうして守護者は何もしないアノヒトを、罰したのか知りたい」

古書を、さらにきつく抱きしめた。

シルバーに向きなおり、その緋い瞳でしっかりと見つめる。

「力を、かして」

「うん。僕も見たい。その人が君に見せたがっていた風景を」

お読みいただきありがとうございます。

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