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Astleyer fantasy ーMMOの世界が現実になった時ー  作者: 秋本速斗
5 果たされなかった雪原の約束
57/68

52

53話目です。

誤字脱字、お目汚しあると思いますが・・・


ウルフと青年の物語。

雌ウルフだったであろうモノは、その緋いアーモンドアイをつり上げてシルバーに詰め寄った。

しかし詰め寄られようとも、シルバーには全く訳が分からない。

「どうして私までヒトの姿になったの」

「そ、そんなの僕が知りたいよ!」

ガクガク揺さぶられながらなんとか肩の手を外し、距離を置く。

「とにかく、君がどうしてそうなったかは僕の育ての親に聞いてみよう。船を出したくない理由も教えてくれる約束でしょ?このままここにいても解決しないし、そのまま邪魔し続けていればいつか本当に殺されてしまうよ」

シルバーはしぶしぶ頷く彼女の細い手を引き、ソウたちの待つ岩場の傍へ向かった。



シルバーの向かった方から、二つの人影が現れる。

ソウとレイは警戒しつつもそれがシルバーだとわかると力を抜き、傍にいるもう一人を見つめた。

「おかえり、んで誰?」

「なんでかよくわからないんだけど、僕と同じ、人化した」

「えぇっ?!」

驚くふたりに、金茶のウルフのいた場所でこちらの事情を説明したこと、外へ出て人化して見せたこと、彼女を撫でたら人化してしまったことを伝えると、ソウは腕を組んだ。

「うーん・・・よくわからないなぁ。でも彼女にシルバーとの会話ができたってことは、少なくともシルバーと同じ、人に近い思考能力があるってことでしょ。シルバーが人化した時も思ったんだけど、もしかして亜人に近いのかなって」


亜人。

イスハルにもいた、獅子族(ラティノス)のような、魔族や天族、龍族とも違った種族。

意思の通じない獣のように本能のまま襲い掛かるようなものを魔物とするならば、意思があり、独自の言語や慣習を持ち村や集落を作るもの。


「たしかに、シルバーはウルフとはいっても自分の意思を持って行動するな」

「でもシルバーは決して魔族ではない。本質はウルフだ。これはただの俺の考えだし・・・正解とも限らないけど」

「落ち着いたら占い婆のところに行ってみるか」

「そうだな・・・というわけで、君が船の出航を妨害していたウルフなんだよね。君に危害が与えられる前に、理由を教えてほしい。もしなにかあるなら、俺たちも手を貸すから」

金茶のウルフはまだ警戒しているようで、こちらをうかがうようにじっと見つめている。


その時町のある高台から、武装した町人が降りてくるのが見えた。先頭にいた一人が、こちらに向かって怒鳴ってきた。

「あんたら、あのウルフを退治する気がないって話は、本当か?!」

「人に危害を加えていないものを斃す必要はないだろう」

レイが岩場から立ち上がり、言い放つ。すると男たちはいきり立ったように口々に罵倒するような言葉を投げつけてきた。


金茶のウルフはその様子をじっと見ている。

「こっちはもう10日以上漁に出れねぇんだ!いい加減にあのウルフにも頭にきてんだよ!!くらわしてやんねえと気が済まないんだよ!」

「漁に出れずに腐るのはわかる。だが、ギルドの依頼でこちらに任せてもらうといったはずだ。それでもまだ勝手をするというのなら・・・」

レイがチャージで一気に男の後ろに回り込み、腕をひねりあげた。

「邪魔をしたということで、ギルドに報告させてもらう」

「い、いててっ!わ、わかった!はなしてくれぇ!!」

後ろにいた町人たちも腰が引けておりうしろに後ずさりするのを見て、レイは男の腕を離してソウたちのほうに戻ってきた。

解放された男は町のほうへ、男たちを引き連れて慌てて階段を登っていった。



「本当に手を貸してくれるのね」

それを見ていた金茶のウルフは、ソウたちが自分を排除しに来たのではないということは信じたようだった。

そして自分がどうして船を出すのを妨害していたのかを話しはじめた。


金茶のウルフはローゼスという名を持っていた。

スノーウルフのもとに生まれたが、その体毛からまだ幼い時分に群れから捨てられた。

白い群れ中に、目立つ金茶の子供。当然彼女のいる群れは目立ち、他の魔物に襲われることが多くなるだろう。


自我が芽生えたのもそのころだという。

桟橋の端に立ち、湖に映った自分の姿になぜ自分は白くないのだろうと毎日考えたという。

まだ幼く小さい体では、自ら獲物を捕ることもできない。

群から離された時期がちょうど雪降りの季節が終わった、湖の氷が溶けだす季節だったため周りの木々の新芽や実を食べて命をつないでいたが、ウルフとして必要な血肉になるものをとっていないためどんどんやせ細ってゆく身体。


桟橋で、もう立ち上がる気力もなく伏せていたその日。

町人が出す船より大きな船が、入り江に入ってきた。

船は自分のいる桟橋に錨をおろし、ひとりの青年が下りてきた。


甘そうなオレンジの髪をしたヒトは、自分を大事なもののようにそっと抱えてこの孤独から救ってくれた。

この目の緋が、まるでローゼスの花のようだとその名をくれた。


その青年はここに『宝物』を探しに来ていた。

この町のある湖畔とは逆側の湖畔に『宝物』は隠されているという。

船の中で古い本を解読する青年の傍で、一緒に過ごした。

その中身を見つけることができれば『この世のものとは思えない』美しい風景にたどり着ける。

青年はそれを自分にも見せてくれると約束したのだ。


ウルフと青年が過ごして2度目の雪解けの季節になろうかという頃のことだった。

その『宝物』の場所がわかったと嬉しそうにウルフに告げた。

その日は風も強く吹いていて、湖の氷もまだ解けきっておらず船を出すのは無謀だった。

ウルフは必死で止めたが青年は戻ってきたら一緒に宝物を見ようと、ウルフにあの洞で待っているように言い置いて船を出して行った。

その日以降、青年が帰ってくることはなかった。


来る日も来る日も青年を待っていた。

そのうちに漁の解禁日となり、町人達が船を出そうと降りてくるようになった。

青年が宝を持ち帰るまでは、宝があるほうへヒトを向かわせたくなくて船に乗れないように妨害した。

ウルフはちょうど青年が出て行った次の日に成体となり、町人を脅すにはその風体はちょうどよかった。


ソウたちが来るまでの10日ほどを、ずっとひとりそうしていたのだ。

青年と『この世のものとは思えない』美しい風景を見るために、青年の帰りを待っていたのだ。

お読みいただきありがとうございます。

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