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Astleyer fantasy ーMMOの世界が現実になった時ー  作者: 秋本速斗
4 絆の刻印
53/68

49

とうとう50話目です。

誤字脱字、お目汚しあると思いますが・・・


絆の刻印章、最終話です。

気をきかせてレイと入れ替わりに宿を出たシルバーは、魔都からひとつ先のベルスの村でソロ狩りをしていた。


前回の洞窟でのパーティーで、実際の『パーティとしてのスペラーの動き』というのを経験し、まだ改善できるものも多いと自分で確認のために村周りの魔物を狩っていた。


スペル詠唱して命中するまでのタイミングを、ヘイトを取ると同時に当てられるようになれば。

不測の事態が起きた時に、すぐに足止めや眠り、気絶を入れられれば。

とにかく自分にできることはまだあると、ひとりでできる修練に没頭していた。


村周りで2時間ほど狩りをして、ドロップが大量になったので戻ることにした。

(・・・もう戻っても大丈夫かな。ソウたち、どうなったろ)

移動師で魔都へ戻る。

大通りを歩いてギルドに向かう途中で、ミーシャたちの姿が見えた。ふたりとも楽しそうに店先で立ち止まりながら、腕を組んで歩いている。

(邪魔しちゃったらだめだよね)

ドーリィがミーシャの手を引っ張り、噴水広場のほうへ向かっていくのを見送ってからギルドへと入っていった。


「あ、シルバーくん。珍しいですね、ひとりですか?」

ギルド入り口を抜けると、ちょうど向こうからロクスバが歩いてきた。

「うん。ロクスバは?」

「僕は休憩なんですよ。あれ、素材の買い取りですか。よかったら僕がやりましょう」

「休憩なんでしょ?」

「かわりといっては何ですが、買取が終わったらお茶に付き合ってください。ひとりだと味気ないので、お話し相手になっていただけると嬉しいなぁ」

ロクスバの言葉に、シルバーはうなづいた。

買い取りの後魔都の美味しいケーキ屋で、ふたりで楽しいお茶を飲んだのだった。



ミーシャとドーリィが宿に戻ったのは、早めのディナーを終えた夜のことだった。

ワインでほろ酔い加減になっており、楽しい時間を過ごせた満足感でふたりともいつもより少し大きな声で談笑しながら扉をくぐる。その声が聞こえたからか、レイが上から降りてきた。

「やはりミーシャたちだったか。ゆっくりできたのか?」

「ええ。おかげさまで」

「・・・ソウとシルバーは?」

ドーリィが食堂を見回しながらレイに聞く。

「ああ、ついさっき帰ってきて、今日あったことをソウに報告しているよ」

穏やかにそう答えるレイに、何かを悟ったのかふたりは顔を見合わせる。なんでも口に出して聞かねば気が済まないドーリィが、つぶやいた。

「ついにくっついた?」

一瞬意味が分からなかったらしいレイは、だがすぐに気が付いて苦笑する。

「シルバーにはもう伝えたんだが・・・ソウが誓いを受けてくれることになったよ。明日、大神殿で洗礼を受ける。同行してもらえるだろうか」

「そう。やっと前進ね。もちろんかまわないわよ、ねぇドーリィ」

「これでイライラしないで済む」

「こらこら、そういうこと言わないの。明日ね、楽しみにしているわ」




誓いの日。

天候が崩れやすいこの時期、幸い晴天に恵まれた。空にある月もその姿をハッキリと見せており、鮮やかな青い空は雲一つない。

少しひんやりとした風が、朝特有のさわやかな香りを運んでくる。


大神殿は魔都正面の大通り、別れた坂を下った半地下にある。

村や町にある教会とは違い、魔都の半地下をすべて利用しているためとてつもなく広い。

その入ってすぐのところにある、大神官の常駐する間で誓いの儀式は行われるのだ。


基本的に儀式の際は当人同士のみ。

当人が希望する場合は、親しい間柄のものを同席させることができる。誓いが神に承諾されることがない場合もあるので、周りから見えないように行われるのだ。


5人が入ると大神官の間の正面扉が閉められる。

中には儀式を行う大神官だけがいた。

「ソルエユニークの誓いをたてるふたり、私の前へおいでなさい」

柔らかく微笑んだ大神官がソウとレイを呼ぶ。がちがちに緊張しているらしいソウの肩に手を置いたレイは、顔を覗き込んで微笑んだ。

「いつもどおりでいいんだ。普通で」

「んなこといわれても・・・」

誓いを受けると言った手前、これで失敗したらと思うと気が気ではない。しかしレイは全く気にする様子もなく、ソウの肩をポンとたたいて大神官の前に進んだ。

「おいでなさい。深く考えずに、これからあなたが誓いをたてる相手のことだけ考えておあげなさい」

(レイのことだけ・・・)

1度目を閉じて気持ちを何とか落ち着けてから、レイの傍に立つ。

「緊張するなというのは無理でしょう。誓いの儀式自体は短いものです。その間は、相手のことだけ見ているといいですよ」

大神官はアドバイスをした後、ふたりを向かい合わせにして互いの手のひらを相手の胸に当てさせた。

「さぁ、緊張している彼のためにも、早く終わらせてしまいましょうね」



ステンドグラスが月の光に照らされて、虹のように輝いているさまはまるで宝石のようだ。

互いの胸にあてた手に、心臓の鼓動が聞こえてくる。

そっとレイを見ると、向こうもこちらを見つめていた。

大神官の祈りがどこか遠くに響いている。




「ここに誓いをたてる。ソルエユニークの誓い。神の許しを、願わくばこのふたりを『唯一(ソルエユニーク)』と成したまえ」




大神官の掲げた錫杖に温かな柔らかい光が灯る。

ソウとレイの手のひらも同じ光が灯っていた。


「神の認めしふたり、ソルエユニークとなった。胸の絆の紋章のもとに、このふたりに永遠(とわ)の絆を」

光が収まると、手をおろし大神官のほうに向きなおる。ソウもレイとともに前を向いた。




「無事に終わってほっとした」

「ふふ、お疲れ様。一回部屋に戻って着替えたら、祝杯でも挙げましょうか」

はーっと長いため息を付いて大通りを歩くソウに、ミーシャはねぎらうように背中をさすった。後ろを歩くドーリィはレイに声をかける。

「よかったね」

「ああ、神に認められずとも想いは変わらないがソウが責任を感じそうで・・・。しかし刻印が刻まれたということは、ソウも強い思いを持っていてくれたんだと思うと、正直嬉しい」

宿に戻りミーシャたちは奥へ、3人は2階へあがると部屋に入りソウはベッドに突っ伏した。

シルバーはさっさと軽装になりいすに座る。レイが着替えるために上着を脱ぐと、タンクトップのようなインナーの胸元に青い薔薇の刻印が刻まれているのが見えた。

「青薔薇なんだね」

シルバーがじーっと刻印を見つめる。

ベッドのソウもちらりと見て、自分の上着を脱いでインナーをめくった。


心臓の真上に刻まれた、青い薔薇。

この絆の刻印が、二人が互いの『唯一』である証となる。

お読みいただきありがとうございます。

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