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5話目です。
誤字脱字、お目汚しがあるかと思いますが・・・
小屋にて暮らし始めた蒼士くんです。
アストレイヤでの蒼士の一日は、掃除から始まる。
小屋の主である老婆は占い師で、名をヴェルといった。ヴェルの住んでいる小屋があるのは魔界でも覚醒人はほとんどいない、イスハルといわれる地域で小さな村が2つほどある場所だった。
小屋から村までは徒歩で約一日、この世界の主な移動手段である移動師を使えばすぐに移動できる。ただしイスハル自体から出るには、覚醒人とならないと移動できない。移動師の移動は、空間移動と空中移動の2種で空中移動は同一地域でのみ使える。いわば電車や車のようなものだ。
一方空間移動はその名の示す通り、空間を移動、わかりやすく言えば異次元ワープする。当然魔法であるので、魔結晶による体への干渉が行われる。アストレイヤ人でもこの空間移動による干渉は耐え難く、下手をすれば体が分解されバラバラになるというのだ。
覚醒人は覚醒時に体の内部に強い魔結晶が吸収されるので、外からの魔結晶の干渉に耐えうる体になるらしい。
なので覚醒しない限りは一生この場所で過ごすことになる。
『Astleyer fantasy』をやりこんでいた身としては、ぜひ覚醒人になりほかの地域にも行ってみたい。なにより、空を翔んでみたい。
しかし渡り人である限り、他の地域どころか自分の命もあやういのを考えると気楽に夢に入り込んでいる場合ではないのだ。
今はとにかく、ここの生活に慣れること。そして自分の限界を知ることだ。
掃除も終わったので、朝の身支度を整えにいく。口を漱ぎ、顔を洗うため裏の井戸へ行く。幸いなことに、井戸から水を手動でくみ上げるという原始的な方法ではなかった。しかし汲み上げるのに魔法が必要になるというのは予想外だった。生活していくうえで、水や火を使うのに魔法を使うのだ。覚醒していない魔族でも、生活に関する魔法は使える。なのでその方面に関して蒼士は全くの役立たずだった。水を使うときは基本的に井戸の横の汲み置きを使うか、ヴェルに頼むしかない。できる掃除をこなし、ヴェルが作ってくれた朝食を運んだり、ヴェルの相棒ともいえるオウムのダンテに食事を与えたり。今はそれで様子を見ている状態だ。体調も悪くなることもなく、今のところ向こうにいたころと変わらない。
魔法が使えないか、と生活魔法に関しては使い方を教わったりしたが、全くできる兆しもなかった。
「家の中での軽い仕事程度なら、問題もなさそうだね。今日から外へ野草摘みでも行ってみようか。薬草、果物あたりはこの小屋の周辺で摘めるからね」
「体調自体は向こうにいた時と全く変わらないよ。体力が落ちたとかも感じないし・・・このまま家の軽い仕事だけじゃ、申し訳ないしな。全く役に立っていないどころかまさにただ飯喰らいだよな」
「幸い体の変調もいまだ現れぬようだ。しかしまずはこの小屋まわりのみにしてもらう。採集できるものの見分け方なんかもあるからね。あたしと一緒に出掛けるよ」
そう言うとヴェルは籠を持ってさっさと扉のほうへ向かっていった。蒼士はそのあとを慌ててついてゆく。いつもはヴェルの肩にいるオウムのダンテが、なぜか蒼士の肩にとまった。
ヴェルの後について出ると、より濃い新緑の香りがする。知らずに深く息を吸い込んだ。空を見ると、幻想的な薄青から翡翠色のグラデーションの中にぽっかりと少し欠けた、抜けたように白い月が浮かんでいた。
わずかに遠くから鳥のさえずりのようなものや、小動物が草を食む音が聞こえてくる。
「ここに来たときは全く動物がいないのかと思ったけど、今日はちいさなものの気配がする」
「・・・今なんと?」
ヴェルは蒼士の言葉に、振り返りじっと見つめた。
「遠くの鳥の声と、草を踏んだりする音が聞こえるんだ」
「・・・この周辺には結界が張ってある。少なくとも見える範囲に魔物や動物は寄り付かないようになっている。普通の魔族には、何の気配も感じられぬであろうよ」
「でも俺、うそは言ってない・・・」
「そう、だとしたらお前は・・・」
さあっと風が駆け抜けた。
「還り人だ。他人より優れたその感覚、いずれ覚醒人となる。恐らくもうじき、この世界になじんだころ適性が現れる」
「・・・え」
「それにしても還り人とはね・・・驚きだよ。ソウにはもっといろいろなことを学んでもらわねばならぬようだ」
世界堕ちしてのちいまだ3日。蒼士はアストレイヤに生まれるべき還り人だった。
この展開のはやさに呆然とするしかなかった。
お読みいただきありがとうございました。