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36話目です。
ブックマーク、ありがとうございます!
誤字脱字、お目汚しあると思いますが・・・
これでやっと3章が終了。
次回から4章となります。
空の色が紫に変わるころ、レイの馬は村についた。
馬を村の牧場主に返していると、シルバーが駆け寄ってきた。
「シルバー、待たせたな」
ソウがシルバーの首に抱きつき、耳の後ろを撫でてその感触を楽しむ。ミーシャたちも村にいたようで、宿屋から出てきた。
「よかったわ。無事みたいね」
「亀裂は?」
「消えたわ。レイと別れた後、捕虜を拾ってヴィダルのとこに行ったらもう消えた後だったみたいで撤収の指示だししてたのよ。捕虜を渡したところにちょうどシルバーが来たから、こっちは村でふたりを待とうと思って」
シルバーをかまっているソウとドーリィの横で、ミーシャは別れた後のことを伝える。
「一応、2,3日後に状況を知りたいって」
「わかった」
「ミーシャ、戻る?」
シルバーをさんざんもふもふして満足したのか、ドーリィがミーシャの腕にくっついた。
「そうね、ソウもゆっくり休みたいだろうし戻りましょう」
合流したソウたちは、魔都へと飛んだ。
魔都バルディウム、銀の猫亭に戻りソウは部屋で装備を外し、ベッドに倒れこんだ。
やはり傷は落ち着いても、失った血は戻らない。移動はレイに任せきりだったのにもかかわらず、体は限界を訴えていた。
心配そうにのぞき込むシルバーを撫でる気力もなく、まぶたが落ちるのに任せて気を失うように眠った。
目を閉じたソウを見て、シルバーもその場にゆっくりと伏せるのだった。
「ホントに無事でよかったわ。天界に連れていかれたらと思うとぞっとする」
ミーシャはアイスティーを人数分用意して、テーブルにつく。
「あの爆発がなかったら、見つけられなかったかもしれないし」
「あの爆発、状況から見てソウの力なんだろうが・・・」
レイがアイスティーを半分ほど飲み、考えている。ドーリィが口を開いた。
「魔結晶の暴走。無理に押し込められたエネルギーが、対象者の精神状態に左右されて放出された。あの時ソウは、きっと魔封じをされた状態でなにかされそうになった」
「そういえば、『変な道具でスペルが使えなくなった』と言っていたな」
「あたしも、同じだったから」
レイがグラスを持つ手を止め、ドーリィを見た。
「ドーリィも、攫われたことがあるの。相手は魔族の男だったんだけど。魔封じをされて、襲われる瞬間・・・」
「そう、もうダメだって思った。でもなんで自分がって、恐怖と怒りと哀しみと色々な感情がごちゃ混ぜになって、頭がパンクする、そう思った。ミーシャが抱きしめてとめてくれた」
「あの時のソウと同じ、うつろな目で、でも心の慟哭が聞こえるようで、助けてって言ってるのがあたしにはわかったの」
カラン、とミーシャの持つグラスの氷が揺れる。ドーリィはミーシャの方に額をつけた。
「もっと早く見つけていれば、あんな思いはさせずに済んだ・・・」
「間に合ったから、大丈夫」
悔しそうにするレイに、ドーリィが珍しく薄く微笑んだ。
「もう、二度目はない。オレがソウのそばにいる」
そうつぶやいたレイを見て、ふたりは顔を見合わせる。
「ギルドから呼び出しがあるまで、ソウにはゆっくりしてもらうといいわ。レイ、あんたも疲れてるんだから部屋で休みなさいな」
ミーシャはそう言ってレイの持っていたグラスを取り上げ、ドーリィと奥へ入っていった。
2階の部屋の扉をそっと開けると、装備を外した軽装そのままでソウが眠っている。
床に伏せていたシルバーは、レイのほうを心配そうなまなざしで見つめていた。何もかけていないソウを一度抱き上げて、自分のベッドに寝かせて毛布を掛ける。ぐっすり眠っているのか、もぞもぞと少し動いた後また静かになった。
レイはソウのベッドに腰を掛ける。
ベッドに乗りあがっているシルバーを撫でながら、ため息をついた。
「もっと周りを見れるようにならないとだな。今回も天族だけでなく後ろから来るソウにも注意を払っていれば、こんなことにはならなかった。パーティにもう一人後衛がいれば・・・」
「くうぅ」
撫でられていたシルバーが、ふるり、と身体を一瞬震わせると銀色に発光した。
まぶしくて一瞬目を閉じる。
次に目を開けた時、シルバーがいた場所に灰銀の髪の青年が立っていた。
「?!」
灰銀の髪は長く、後ろでしっぽのように結ばれている。
切れ長の瞳は、まるで獣のような細長い瞳孔のアイスブルー。
「もしかして・・・シルバーか」
「そう。ちょっと前から大人になった。でも、ソウは僕を撫でるのが好き。だから人化しなかった。でも・・・」
ソウが寝ているベッドを振り返ってつぶやく。
「獣のままじゃ、これ以上強くなれない。人化して、8種のどれかのスキルを使えるようにならないと、ソウは守れないんだ。だから」
ローブの裾を翻して、レイを見つめる。レイは、そんなシルバーの視線をまっすぐ受け止めた。
「僕は、『魔術師』になる」
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