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Astleyer fantasy ーMMOの世界が現実になった時ー  作者: 秋本速斗
3 亀裂出現
36/68

33

34話目です。

誤字脱字、お目汚しあると思いますが・・・

今回も腐要素があります。ご注意を。

ぱらぱらと雨が降り始めた。

少し遠くでは稲光が空を走っている。

いまだソウは目覚めず、青白い顔で硬くその目を閉じてぐったりとしている。血を流しすぎたからか、手先が氷のように冷たくなっている。

「まずいな、本降りになりそうだ」

村まではあと30分といったところだが、そうなる前に一気に土砂降りになりそうな空模様だ。レイはマントでソウを包みなおして、近くで雨よけできそうな場所を探す。

幸い、道から少し外れたところに朽ちかけてはいるが小屋が立っていた。

馬を軒下につなぎ、ソウを抱いたまま中へと入った。

シルバーがひと吠えして、中にはついてこずにじっとレイの顔を見つめている。

「そうだな、シルバーはミーシャたちのところへ行ってもらえるか?」

レイはいったんソウをそっと下すと、鞄からメモを取り出しさらさらと書き綴り、それを革袋へ入れシルバーへ渡した。

「雨が上がったら村へ行く。シルバー、気をつけてな」

こくりとうなづいたシルバーは、疾風のように駆け出してもと来た道を走っていった。



それを見送るとレイは部屋の中心にある、火をおこす場所だったであろう囲炉裏のようなところへ行き、カバンからカンテラを出して火をつけた。

(アグニ)

火がつくとそっと砂場の中心に倒れないように置く。

ソウを抱きかかえて火のそばにより、マントを外してソウをくるむ。

うなされているのか、傷が痛むのか、苦しそうだ。レイが一旦マントを外しソウの装備を外すと、左わき腹がジワリと赤く染まっているのが見えた。

シャツをめくり傷を覆っていた布を外すと、先ほどの暴走で傷が開いたのか痛々しい刀傷から血がにじんでいる。

レイは片手で鞄を開けてポーションを出し、布にかけてそれを傷に当てる。

「・・・っ!」

ビクリ、と身体を縮こまらせるソウをしっかり支えてしばらく布を押し当て、外すと血が止まった。傷は残ったままだ。

そのまま新しい布で覆い、包帯で固定するとシャツを下した。

(体温が戻らないな・・・)

レイは自分の装備も外して軽装になると、ソウをマントにくるみなおして自分の足の間に座らせ、自分の身体に寄りかからせた。

「・・・あ、や・・・いや、だ」

傷の手当てで意識が戻ってきたのか、身をよじりレイの腕のなかでもがき始めた。

「ソウ、もう大丈夫だ。ここはオレしかいない」

「や、」

逃げようとするソウを抱きしめて、なだめる。閉じたままだったソウの瞳がうっすらと開き始め、レイをはっきりと見つめた。

「レイ」

「ああ、もう大丈夫だ」

しばらくじっとレイを見ていたソウは、一瞬安心した顔を見せたがまたすぐに顔をゆがませ、カタカタと震え始めた。

「あ、俺、て、天界に」

「大丈夫だ!もう、」

「変な道具で、スペルも使えなくて」

「ソウ!」

見開いていた瞳から、涙がぼろぼろこぼれだした。

レイはソウをきつく抱きしめる。

「助けるのが遅くなって、すまなかった。もう絶対にあんなことはさせない。ずっとお前のそばにいる」

だからもう、泣くな。

そう耳元で囁くと、緊張していたソウの身体から力が抜けた。

そしてレイの首に腕が回り、ソウが抱きついてきた。

レイの耳に届く、しゃくりあげたソウの声。

「こっ、こわかった・・・!このまま誰にも会えなくなるんじゃないかって・・・」

「大丈夫だ、ここにいる。シルバーやミーシャたちも、ここにはいないがちゃんとあとで会える」

「俺のいた世界は、平和で、魔物なんていなくて、普通に暮らしていくだけなら戦う力なんて必要なかったんだ」

レイに抱き着いたまま、堕ちるまえの自分の世界のことを話し出す。


「俺が住んでたところはホントに平和で、ひとにさらわれたり、襲われたり、そんなことはほとんどあうことなんてない。そんなとこだったんだ。ゲームでプレイしてて、何気なく天族を倒したり、魔物を狩ったりしてたけど・・・こっちに来て、今まで頭ではわかってたけど、現実になると、こんなに・・・」

こわいことだったんだな。

レイはそんな風に話したソウの頭に顎を乗せて、じっと聞いていた。

「自分が倒す側だと、何も思わなかったくせに・・・襲われる側になって実感するなんて」

「平和な世界から来たんだな、ソウは」

頭から響いてくる声に、顔を上げる。


優しい、けれど決意に満ちた目で、こちらを見ているソウを見つめていた。

「オレが、ずっとソウといる。お前を守る盾となり、お前の剣となる。お前はオレの『唯一(ソルエユニーク)』だ」

「ソル・・・?」

「お前だけの騎士になる、ということだ」

「騎士?!」

「ああ。軽く(・・)言えば他とパーティは組まない。固定となるということだな」

さらり、とソウの頬を撫でてその手で左手をそっと持ち上げて、手の甲にキスをした。

「うえぇ?!」

「意味、分かるか?こちらではソルエユニークになる時に相手に敬愛を示してするんだ。互いに認め合うと、そのしるしが胸に現れる。今ここでオレがお前に誓ったのは、オレの決意だ。ソウに無理強いするつもりはない」

レイの真摯なまなざしを見て、小さな声で顔を赤くしたソウが言った。

「おちついたら、かんがえてみるよ・・・」



お読みいただきありがとうございます。


ちなみに文中のソルエユニークとは、seule et unique フランス語で『唯一無二』という意味だそうです。

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