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33話目です。
誤字脱字、お目汚しあると思いますが・・・
ちょっとだけ腐要素があります。
今回は視点がソウ側、レイ側と交互に進むので読みづらいかもしれないですが・・・
光の入らない粗末な小屋。
研究所横の建設現場にひっそりと建てられている。しかし何かあった時の隠家として使われているため、一見するとわかりにくい地形に建てられているうえに、認識疎外の結界が張られていた。
研究所に魔族上部の手入れが入り、偽造スティグマの資料などは回収できなかったが一番知られてはならない天族との資料はこちらにすべて隠してあった。
小屋に備え付けてある硬い寝台の上に、ソウは寝かされていた。
流した血が多かったのか、顔色は青白い。
今はわき腹の傷はポーションで治され、手当てされている。しかし腕を拘束されていた。
ソウを攫ってきた天族の男は、入口のそばの壁に背をつけ、何かあったらすぐに撤退できるように注意を払いながらもソウの様子をじっと見ていた。
奥の扉から、ローブの男が現れた。
後ろにひとり女性を連れている。
その女性はおもむろに翼を広げる。その色は白だった。
「て、天族か?!」
男が驚いて身を乗り出すと、天族の女は静かに翼を消した。
「こちらに潜入してきた天族とコンタクトを取る時に困らないよう、天界のアディール団員も何人か魔界に常駐しているのよ。困るでしょう?話ができないと。魔界に天界のアディール団がいるように、天界にも何人か魔族がいるのよ。無事に生きたまま堕ち人を連れてきてくれたようね。感謝するわ」
「見た限りこの魔族はキュアだ。回復職が天界に害をなすと思えない」
「職は関係ないのよ。この魔族の存在が、天界に害になるということよ。だから今のうちに対処しておく」
天族ふたりの会話の最中、ソウはぼんやりと意識を取り戻した。
しかし短刀には何かの毒が塗ってあったようで、まったく体が動かない。しばらくして散漫だった思考がまとまってくると、自分が天族の会話を聞き取れていることに気が付いた。
今だに気づいていないフリをして、会話を聞き取る。
「そんな力があるようには思えなかった。簡単に捕縛できたし、むしろあのソーディアンの方が・・・」
そう言った天族の男の身体がふらり、と傾ぐ。
「な、なんだ・・・なにが・・・」
「やっと効果が表れたようね」
天族の女が懐から小さな袋を取り出した。
「ふふ、これは特殊な麻薬。天族にのみ効果がある。この香りに酔っている間は、何も考えられなくなりこちらの命令にしか反応しなくなるのよ」
男が倒れると、女は静かに近寄り顔色を見た。男の目はうつろになり、反応は何もない。
「さて、始めましょうか」
ソウが攫われたその時、ベルスの村にいたレイたちはすぐにソウを探すべく亀裂方面へ向かっていた。
現在でもいまだ天族の行方を追うためにあちこちで魔族が動いている。
その中の一人が、天族を見たというのだ。
「ちょうどそっちに報告入れようと思ったんだ。ここで会えてよかった。30分ぐらい前に研究所方面へ向かうのが見えた。ほかの魔族もそのあたりを白みつぶしているが・・・」
それを聞いたレイたちは、馬を駆り急ぎ研究所方面へ向かった。
もし亀裂を通って天界に入られれば、探すのはさらに困難となる。魔界にいるうちに捕まえなければならない。
研究所横の工事現場につき、一旦馬から降りる。
ミーシャが猫のようにするりとあたりを調べ始めた。
「研究所は魔族が封鎖してる。亀裂前には大量の精鋭。痕跡があるとしたらこのあたりのはずよ」
その時、ふいに工事現場の奥のあたりの空間がゆがみとてつもないエネルギーがさく裂した。
シルバーが弾丸のように飛び出し、そちらへ走っていった。
いやなものを感じて抵抗し何とかそこから逃げようとするソウは、天族の男の手で逃げられないように拘束された。奥の部屋から戻ってきた女がにやりと笑う。
「まずは魔法を使えないようにしなくてはね」
かちり、と首にチョーカーのようなものがつけられる。そのチョーカーに魔力を込めると、ソウの身体の中でなにかが内部を攻撃するように蠢いた。
口をふさがれているソウはくぐもった悲鳴を漏らしながら体を暴れさせる。
押さえつける力がより強くなる。
「次はコレね」
女が取り出したのは、どろりとした液体の入った小瓶。ふたを開けると、甘ったるいにおいがあたりに漂った。
「さあ、口を開けさせて。これを飲ませて天界へいけば、任務はおしまい」
天界へ連れて行く・・・その言葉でさらに暴れるソウ。
とにかくここで逃げなければ、もうきっと後はない。
首を思いきり振り乱す。男は顎を固定して口を開けさせる。
瓶が傾けられた。
「いやだあああぁぁあ!!!!!」
バリィン!という音とともに首の魔封じが壊れ、その瞬間ソウの中で押さえつけられていたエネルギーが一気に放出した。
そこにいたローブの男、天族の女とソウを押さえていた男が吹き飛ばされる。
シルバーが飛び込んできた。その状況を見て、慌ててソウのそばへ寄ろうとするが無理に押さえつけられていた反動なのか、本人の混乱からか吹き荒れる風魔法に阻まれてしまう。
それを見たドーリィがミーシャを見た。
「壊れちゃう、あのときのわたしと同じ」
「何とかして落ち着かせないと、ヤバイわね」
そういってソウに近づこうとするが、風魔法の威力が大きくなるだけだった。
「オレが止める」
そういうとレイは暴風の中をソウに向かって突き進んでいく。
容赦なくレイを傷つけてゆくエネルギーの中、一歩一歩ソウへと近づいて行った。
「・・・ソウ!」
手が届くところまできた、その瞬間ソウの手を引き抱きしめる。
ソウの瞳がうつろに揺れていた。レイは鞄から一つの瓶をとりだすと、片手で蓋を開けて呷る。
そのまま飲み込まずにソウに口づけた。
深く唇を重ねて、こじ開けると含んでいた液体をソウの咥内に送り込む。
こくり、とソウの喉が鳴ったのを確認すると唇を離して、強く抱きしめた。
だんだんと風魔法の威力が弱まり、やがて収束する。
巻き上げられた砂煙がやむと、レイの胸にぐったりと抱かれたソウと、傷だらけのレイが現れる。
シルバーが走り寄り心配そうに見守る。
ミーシャは倒れていた3人を捕縛して、目が覚めても逃げられないようにする。
ドーリィはソウのそばへ行き、そっとソウの頭をなでながらレイに回復スペルをかける。
「ヒール」
「すまない」
「ううん。ソウに何飲ませたの?」
「状態回復薬だ。状態異常の一種ならおさまるかと思ってな」
とにかく効いてよかった、とソウを抱き上げた。
「亀裂にいるヴィダルに報告するわ。皆は戻ってていいわよ」
「あたしはミーシャといく」
「オレはこのままソウを連れて村に戻る」
そう言うと皆は各自馬に乗り、別れた。
お読みいただきありがとうございます。




