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32話目です。
誤字脱字、お目汚しあると思いますが・・・
敵対種族の天族が出現します。
男は、走っていた。
任務で潜入した魔界だが、この空気はいつ来ても慣れない。天界の明るく爽やかな風とは違い、どこか鬱々とした、月の照らす寒々した大地を吹き抜けてゆく風。
昼間だというのに、天界での明け方ほどの明るさしかない。
任務でなければこんな場所、来たくもないと一つ舌打ちする。
天界で新たに見つかった『上位ハイドスキル』。これが本当に魔族に通用するのかという情報と、一番の優先的な任務。
魔界のアディール団との接触である。
アディール団は魔界だけではなく天界にも存在しており、その二つは互いに種族が違えど敵対してはいない。つい2か月ほど前は天界にはそんな集団は存在していなかったはずなのに、天都エリュシオンにいつからか出入りするようになった。
魔族の情報とともにいつも現れるローブの男は、こう言った。
我らはアディール様を唯一神としている。魔界にいる同志から魔族の情報を知ることができる、と。
当然当初は誰も信じなかった。
天族と魔族は意思の疎通ができないのだから。しかしその男は続ける。
アディール様は、神であるお力をいただいている。魔族とも天族とも意思の疎通ができるのだ。
そんなバカな、と一蹴したエリュシオンの上部。だがそのローブの男が置いていった一部の地図には、事細かに魔界の一地域の情報と、その地域につながる亀裂の場所が載っていたのだ。
その情報が本当かどうか、上部はその地域に現れる亀裂を通り魔界へと潜入、その地図がまぎれもなく正しいことを目の当たりにする。
それ以来、月に2度ほど来るローブの男と情報を交換することになった。
対価は天界でのアディール団の存続だった。
今回の情報では、魔界に現れた『堕ち人』の持つ力が、天界に害なすということだった。
その堕ち人をできれば捕縛して、アディール団に引き渡してほしい。
情報とともに依頼まで受けることになってしまったが、天界に害なすなら早いうちに芽は摘んでおくべきだ、ということで新たに見つかった上位ハイドスキルの性能の確認も含め、捕縛に秀でているシャドウのこの男が選ばれたのだった。
魔族に制圧された研究所のさらに奥、建設中だった場所の隠された小屋で、天族語で書かれた密書を渡される。そこには現在標的がいる場所と、その特徴が記してあった。
そこに向かいひた走る。
(さっさと済ませて天界へ戻る)
プラチナブロンドをなびかせて、天族の男は音をたてぬよう、しかし素早く魔界をひた走る。
「たぶん、侵入者は姿を見られたと思ってない。ってことは、おそらくハイド以外のスキルは使ってないと思うんだ。例えば見破り系だったり、身体強化系だったり。下手にほかのスキルまでかけてからハイドをかけるとなれば、その分スキや姿が見えている時間が長くなる。だから、」
ソウは村の入り口の外のあたりを、村を囲む状態で罠を張って待つのはどうだ、という案を出した。
罠をかけるのはアーチェスだが、幸いベルスの村の警護に当たっているものにアーチェスが何人かいる。手分けすればすぐに終わるだろう。
「そうね、見つかってないって思ってれば当然警戒も若干緩くはなっているだろうし、わざわざハイドを解除してまで見破りをかけて罠を探す行為はそうそうしないわよね」
「とにかくこちらに向かっているということだ、やるならば早くしないとだな」
ミーシャとレイが同意する。ちなみにドーリィはシルバーと戯れ中だ。
ソウとミーシャで手分けして村にいたアーチェスに、罠を張る案を伝え、同意してもらいさっそく設置していってもらう。
10分もたたず村を囲う形で罠を張り終えた。これでどの位置から来ても絶対に引っかかるはずだ。
たとえ村に用がないにしても、この村の横をすり抜けないと魔都方面へは向かえない。
罠は強力なものではなく、とにかく引っかかって姿が見えればいいとのことで効果より数で勝負だ。
「あとはどの罠にかかってもわかるように人員を配置ね。等間隔で今いる人数でパーティ組ませて警戒に当たらせましょう」
2、3人一組である程度の間隔をあけ、遠目から見て不自然かつ過剰にならないように待機する。
しばらくして、その時は訪れた。
「村の西だ!」
ちょうどミーシャ達とソウたちのいる真逆で引っかかったらしい。
一斉にそちらへ向かう。
「またハイドしたぞ!」
「魔都方面に向かったのが見えた!!」
そんな怒号が飛び交う中、最後尾から属性防御スペルをかけようと一瞬立ち止まるソウ。
突然口をふさがれた後、腰のあたりに鈍い痛みを感じた。
「・・・っ!」
振り返るとプラチナブロンドを揺らした天族の男が、自分の腰に短刀を突き立てていた。
ソウの顔を正面から見た男は、一瞬驚いたように目を見開いたがそのまま素早く短刀を抜きソウの口にあてた手を、声が漏れないようにきつくする。
そのままぐったりと気を失ったソウを腰を担ぎ上げ、研究所方面の村出口から出て行った。
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