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30話目です。
第3章です。誤字脱字、お目汚しあると思いますが・・・
少し間が空いてしまいました。
ベルスに現れた亀裂です。
ベルスの丘は緊張感に包まれていた。
そこにできたゆがみは、すでに亀裂に変化しておりぱっくりと口を開けている。いつ天族が現れるかしれないこの場所は、フェンリルの牙、クシバルを筆頭とした精鋭たちが警備していた。
亀裂に一番近い場所には実力者を。
ギルド統括ヴィダルの指示通りに現在この場には2級を中心とした者たちがいた。
1級は現在遠征任務で戻れないようで、2級でも手の空いているもののみで構成される。そこにはミーシャとドーリィもいた。
「思ってた以上に人、集まんないわね」
「わりぃな、ドーリィまで駆り出すことになって。もうちっといれば村で待機しててもらえたんだが・・・」
申し訳なさそうにヴィダルがミーシャたちを見た。
「最近の新人さんは、魔物相手に刃は振えても人にはたとえ敵でも振り下ろせないって多いしね」
「あしでまといはいないほうがいい」
表情も変えずにきついことを言うドーリィに、先ほどまでちらちらとドーリィを見て顔を赤くしていた男たちがさっと目をそらしていった。その様子を見てふふ、と妖艶に笑んだミーシャがあたりを見回した。
「魔結晶は安定したようね。亀裂はこれ以上広がらないみたいだし、周辺の偵察へ向かうわ」
「ああ、ミーシャ、偵察よりお前には頼みたいことがある」
その場を去ろうとしたミーシャを引き留めた。
「ソウたちに村に来るように伝えてくれ」
「まかせといて。ドーリィ、いってくるわね」
ドーリィの髪を一撫ですると、移動アイテムを使ってバルディウムへと飛んだ。
バルディウムでも亀裂のことで街はざわついており、いつも露店を開いているような魔族たちもギルド掲示板前で待機して情報を待っているようだった。
普段の依頼はすべて取り外され、ほぼ亀裂関係の依頼のみになっている。
補給、偵察、警護など。
情報の伝達をするものも募集しているようだった。
「亀裂ってそんなに頻繁にわくものじゃないのか?」
「いや、そんなことはないはずだ。日に1つは現れるはずだ」
ごった返す掲示板前でソウたちは様子を見ていた。
自分たちにできる依頼なら受けてみようかとここへ来たが、今回のような亀裂関係の依頼は報酬がよく、自分たちの等級でできそうなものはすぐに埋まってしまう。
今日は無理そうだと思ったとき、シルバーがわうん、と鳴いた。
「やっぱりシルバーにはばれちゃうわね」
後ろからそっと忍び寄ったミーシャだった。驚かせようとしたようだ。
「ミーシャ。仕事だったんじゃないの?」
「言伝よ。この亀裂関係で。ヴィダルがベルスの村に来てほしいそうよ」
「・・・マスターが?」
「すぐ準備して村に向かうから、ミーシャも先に行っててくれ」
「先に行ってソウたちが来ること、ヴィダルに伝えておくわ。村に待機しててちょうだいな」
そういうとミーシャは戻っていった。ソウたちも宿へ向かい、装備を整えてから移動師でベルスの村へと飛んだ。
「いったい何があったんだろう」
ソウがベルスの牧場の柵に寄りかかり、平和に藁を食んでいる馬を見つめながらつぶやく。
「手が足りないにしても、3級のオレたちではどこまで役に立てるのか」
「レイはまぁ技術的には問題ないでしょ。3級程度の腕とは思えないし・・・」
「おまたせ」
ミーシャがドーリィを連れて戻ってきた。それを見たソウとレイは、驚いた。
「なんでいるの?!」
「わたしも2級だから。ミーシャの片割れはわたしだから」
ぴとっとミーシャにくっついたドーリィを見ると、かなりいい装備に身を包んでいるのがわかる。持っているのは杖。
「2級の巫術師なのよ、ドーリィは」
「へ、ええええええ。人は見かけによらないっていうか・・・」
「失礼。ソウよりは強いと思う」
ソウの言葉に反論したドーリィに、苦笑する。ミーシャが近くの宿屋へと全員を誘って向かった。
宿屋は無人だった。村人は闘う力のない者、老人や子供などはすでに避難した後のようだ。
「普段はここまで大々的じゃないんだけど、今回の亀裂の規模が大きいのよ」
ミーシャがなぜソウたちをここに呼んだのかをヴィダルから簡単に聞いてきたようだ。
「今亀裂前の警備が騎士団とギルドでつめているけれど、今回頼りになる1級の連中がいないから、精鋭がすべてそちらに取られているの。亀裂規模が大きいだけに、亀裂前警備のみでは万全ではないから一番近い補給地点・・・今回はこのベルスの村になるけど、ここの警護や何かあった時の戦闘要員が足りてないのよ」
「今回の亀裂はそんなに大きいのか?」
レイが聞くと、ミーシャはお手上げといった風なポーズをとった。
「かなりでかいわ。誰も警備がいなければ普通に一個師団通り抜けて攻められるくらい。だからこそ亀裂前を手厚くして、うかつにこちらにわたってこれないようにしているの。でもどうしても抜けはあるわ。もし偵察の天族が来た時に食い止めたりする役がほしいのよ。最近の新人は対モンスターはできるけど対人はできないのが多くてね、この手の依頼や任務は嫌厭されがちなのよ。その点あなたたちは対人いけるでしょ?この前アディール団の件も普通に対応してたし」
「確かに普通に対人でも攻撃できるな」
(まぁゲームでもやってたせいもあるだろうけど、今思うとホントに全く躊躇なく人にスペルとか当ててたな・・・)
ソウはもともと平和な日本にいたこともあるので、人と闘うことができるか不安だったが確かにミーシャの言う通り対人でも普通に対応していた。
「というわけで、あたしとドーリィ合わせてパーティを組んでここの警護に当たろうと思うの。あっちにはヴィダルも騎士団長もいるし、とりあえずは人員足りているようだから」
「よろしく」
シルバーをもふもふしていたドーリィも一応あいさつした。シルバーの方も見たままだったが。
「オレたちはここの警護ということだな。わかった、ふたりともよろしく」
「よろしくな」
こうして臨時でソウ、レイ、シルバーとミーシャ、ドーリィはパーティを組んで警護に当たることとなった。
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