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29話目です。
誤字脱字、お目汚しあると思いますが・・・
これで2章は終了で、次から3章に入ります。
魔都から移動師でイスハルの村に飛び、そこから1時間ほど歩くとヴェルのいる小屋のある森へとたどり着く。
小屋の外に人影があった。
「来たね」
ヴェルである。さすがは占い師というところか、ソウたちが来ることを予見していたようだった。ヴェルについて小屋に入り、扉を閉めた。
魔都であった魔物の異常発生や失踪事件、そして今日スティグマを施術後にマスターに言われたことを話すと、ヴェルが用意した紅茶のポットやスコーンを置いて椅子に座りソウに告げた。
「ソウ、前は言わなかったことだがお前の周りにある体になじもうとしているエネルギーは、かなり多いんだ。まるで天に昇る炎のようなオーラとなってソウを包んでいた。ここにいた頃の変化を見ていたからわかるが、アレがなじみきるとなったらかなりの時間が必要だろうね」
「還り人は普通の魔族よりも濃い魔結晶エネルギーをもっている。今まではなじんだ状態で堕ちてきたから誰も気にはしなかったが、実際その濃度というのはオレたちが思っている以上に濃いもので、だからこそ稀有な能力が発現する」
「おそらくそれが外に出ているから、魔結晶を感じ取る能力が高いものからしてみたら『ゆがんでいる』ように感じるのだろうね。なんせ器を大きくするところから始まり、外のエネルギーを取り込んでいるわけだ。ふつうはそんな状態にはならないからね」
ソウは注がれた紅茶やスコーンに手を出さずに考え込んでいる。
「・・・そんなに心配なら師匠に視てもらうかい」
「師匠って・・・あの墓場の?」
「ああ。連絡しておくから今日はゆっくりしておいで」
次の日、ソウたちはユスが幽閉されている墓場に行きソウの今の状態を伝えた。
「蒼士の魔結晶は通常の還り人よりも濃い。そのせいで感じる力に優れたものには特異に映るのだ。身体になじみきるにはおよそあとひとつきかふたつきといったところだろう。すべてなじんでお前の身体に悪い変化が起こることはない」
「そ、か・・・」
「還り人もこちらで生まれた覚醒人より魔結晶は濃い。しかし蒼士はそれよりもかなり濃く、純粋だ。なにか特殊な能力が芽生えているのかもしれない」
「そういえば、ソウは初めて見る魔物の類でも名前がわかっていたりするな」
「それは還り人に稀にある能力だ。鑑定眼という。まったく初めて見るものでも意識を集中して視ると、個体の名前や能力などがわかる」
「じゃあこのまま特に何かしなくても、人格が変わったり暴走したりしないってことか」
「感覚がさらに鋭くなったり、スペルの威力が上がったりはあるだろうが、そんな状態にはならぬよ」
ユスの言葉にやっと完全に安心した。
「・・・そのウルフの王はもうじき成体化する。普通のウルフとは違う。成体化したら覚醒人と同じように適性が現れるだろう」
「それって4職8種のどれかに振り分けられるってことか?」
「そうだ。代々ウルフの王は人化し群れを統べる。人化するのは余計な争いで民を失ないよう、話し合いで解決できることはそうするからだ」
「人化するのか・・・」
ふたりはシルバーを見つめる。見られたシルバーは、はたはたと尻尾を振った。
「また何かあれば来るといい」
ユスが瞳を閉じてしまった。もう話すことはない、ということなのだろう。ソウたちは小屋へ戻る道を歩き出した。
「とにかくなにもなくてよかったな」
「そうだな。はー、でもほんとに安心した」
「ばう!」
そのまま雑談しながら散歩のように道を進むのだった。
小屋に戻り、ヴェルに報告するとソウたちは魔都に戻ることにした。
別れ際ヴェルの作ったジャムを受け取り、挨拶をして村へと向かう。村の移動師から魔都へ一瞬で飛び、銀の猫亭に戻ってきた。
部屋に入り身軽な格好になると、ソウは早速ヴェルのジャムで紅茶を飲んだ。
「やっぱりヴェルのジャムはうまいな」
「この後はどうする?依頼は明日からにするか」
「そうだなー。気が抜けて仕事する気が起きないや」
「休暇日にするか」
レイは紅茶を飲みきると立ち上がり、槍ではなく剣を2本腰に差した。
「体を動かしてくる。宿の裏手にいるから、出かけるときは呼んでくれ」
「ん」
扉から出ていくレイの背中を見送って、ソウはいそいそと戸棚からお菓子を取り出した。
「おやつにしようぜ、シルバー」
心配事がなくなりすっかりいつも通りに戻るのだった。
失踪事件の詳細をまとめ、ようやくひと段落したと思われたギルド。
総括のヴィダルは、こめかみをもみながらコーヒーで一息ついていた。そこに、ノックをして入ってくる人物。
「なんだ。やっとひと段落ついたんだが」
「ヴィダル。ベルスの研究所から先の、崖の上で魔結晶のゆがみを発見したわ」
「まじかよ・・・せっかく一息つけると思ったのに」
ヴィダルはミーシャの報告にがっくりと机に突っ伏した。そんなヴィダルにお構いなしに報告を続ける。
「かなり大きなゆがみで、このまま放っておくとおそらく空間に亀裂が入り、天族が亀裂を通って偵察に来るかもしれない。今の段階ではもう亀裂を閉じれる状態ではないくらい大きくなってきているの。対策を練らないと偵察だけではなく攻め込んでくるかもしれないわよ」
「そこまで大きいのか?」
「過去の亀裂の規模なんて比べ物にならないくらい。おそらく、一個小隊くらいは余裕で通ってこれるわね」
この部屋ぐらい、と12畳ほどある総括執務室をたとえにあげる。その規模にヴィダルの顔が引き締まった。立ち上がり、扉へ向かう。
「ミーシャはそのままこの情報を騎士団に伝えてくれ。ギルドで覚醒人を募ってゆがみの警護に当たらせる。上級ランクには強制依頼で下級中級は有志、周辺の偵察や補給基地の設営に当てる」
そのまま扉から出てゆくと、受付へと走っていった。
ミーシャは足音を立てずに部屋から消えてく。
土地にできる魔結晶のゆがみーそれは亀裂へと変化し、天界へとつながる扉となる。
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