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21話目です。
ブックマーク、ありがとうございます!
誤字脱字、お目汚しあると思いますが・・・
別行動日、魔都にて調薬します。
ゆっくりと食事を取っていたソウたちが外へ出ると、あたりは街灯がともる時間となっていた。
宿へ戻ると、受付が先ほどと変わっていた。
人形のようなピンクブロンドは、背中で緩く巻かれてふわふわとおろされている。
真っ白な肌。表情のでない眠そうな瞳は大きく、長いまつげで彩られているラピスラズリの宝石は、夜空より深く輝いている。
ほっそりと小柄だが、大きな胸が身体だけは大人の女性であることを現していた。
「おかえりなさい・・・今日から泊まるお客様ですね・・・ミーシャと宿をやっているドーリィです」
「ただいま、よろしく」
にこりともしないが、ささやく声は甘く美しい。
「明日の朝食は7時、こちらの食堂に降りてきてください・・・遅れるさい、または必要ない場合は作る前までに言ってください」
それだけ言うと、なぜか奥へ引っ込んでいった。
「・・・ずいぶん自由な宿主だな」
レイの言葉にうなづき部屋へと戻っていった。
上掛けを引っ張られる感覚でぼんやりと目が覚めた。
「しるばー・・・」
寝ぼけたまま乗り上げてくるシルバーを力の入らない手で撫でる。ふわふわとしたものを触っているとまた眠気が襲ってくる・・・まぶたがくっつきそうになった時、ベッドではなくソウの腹の上にシルバーが乗り上がった。
「ぅおっ」
ぽすぽす、と腹の上で足踏みをされはっきり目が覚める。
「わぅ」
ぺろりと頬を舐められながら起き上がる。シルバーを抱き上げ目をこすりながら台所へ行き、おいてあるたらいに水をためて顔を洗うとさっぱりした。
入り口横にある鏡を覗き、ぼさぼさに爆発した髪を見てため息をつく。手荷物からくしを取り出し、寝癖を直し始めた。
色見の変わった鏡に映る自分の顔に違和感を覚えながらも、鏡越しに見たレイのベッドがカラなのに気づいて振り返る。
手荷物はそのままになっているので、出かけたわけではなさそうだ。意識を集中すると、レイらしき気配が宿の裏手にあるのに気づく。
なかなか直らない寝癖に苦戦しながらも、ある程度整えて服に変えてシルバーと階下へ急いだ。
宿の正面入り口の向かいにある、階段そばの扉を開けて外に出るとちょっとした庭のようになっていた。敷地内は外から見えないように、背の高さほどの木が植えてあり足元は柔らかな芝生になっている。
そこでレイは2本の剣を持って鍛錬していた。
舞うように交互にふられる剣。
(すげー。うらやましい身体だよな・・・男として見惚れる)
気配を感じたのかレイが剣をしまいこちらに声をかけてきた。
「ソウ、起きたのか。ふたりともおはよう」
「はよ」
「あまりにぐっすり寝ているので、起こすのは忍びなくてな」
「いつもこうして鍛錬してるのか」
「習慣でな。汗を流してくるから、先に食堂にいてくれ」
裸の肩にタオルをかけてぬぐいながら、宿の中へ戻っていった。
「ストイックだよなー。あそこまでしないとあの肉体にはなれないんかな」
見送ったソウはシルバーにそんなことを言いながら、食堂へと向かうのだった。
身支度を整えたレイと食堂で合流し、朝食を食べる。
朝はごく普通のメニューだった。
パンに卵、3種類ほどの味の違う腸詰めに生野菜のサラダ。
ピッチャーには牛乳と果実ジュースの2種類があり、暖かい飲み物はコーヒーと紅茶があるようだ。
飲み物は好きなものを選び、自分で持っていく。ドリンクバーのようでおかわりも自由だそうだ。
シルバーには食べやすいようにしたパン粥と、ゆで野菜が添えられた皿がおかれた。
「今日はギルドに行って追加報酬貰うんだっけ。その時間まではちょっと調薬ギルドに行ってもいいか?」
「ああ」
「レイはどうする?依頼してる?」
「そうだな・・・ソロでできそうな依頼があれば手を出してみるか。今日は別行動だな」
最後のひと口を放り込み、果実ジュースで流し込む。
食べ終わったレイは一度部屋へ戻り装備をつけて、ソウは鞄だけを身につけギルドへと向かった。
朝の早い時間は、ギルド入り口の依頼掲示板の前は少しでも割のいいものをと狙う人でごった返している。レイは長身なので少し遠いところから全体を眺め、よさそうなものがあると長い腕を伸ばして依頼を確認する。
「ボアー退治というのがあった。これにする」
「昨日レイが食べたやつかぁ。肉が落ちるんだよな」
「討伐のみだから素材は持ち帰れる。たくさん落ちることを願っていてくれ」
茶化しながらレイは依頼を受け、ギルドを出て行った。
レイと別れ隣の小道の先にある調薬ギルドへと入ってゆく。
「調薬台借りたいんですが」
なぜかここも受付に人がいないので、若干大きな声で言うと、奥からバサバサッと何か紙が大量に落ちる音の後でバタバタと人が慌てて出てきた。
「はいはいはいはいはい!!ようこそ調薬ギルドへ!!!ご用はポーションですか!それともマジックポーションですか!!!能力上昇系の薬ですか!!!」
ひょろ長い、ソウの寝起きのような髪型の白衣を着た青年が走りこんできた。
「いや、だから調薬台を・・・」
「うおおおおおおおおぉぉ!!!!!なんてことだ閑古鳥な調薬をわざわざやりたいという奇特な人が!どうぞどうぞ1回使用でここでるまで使い放題!50コニーでええええす!」
調薬したいことを伝えようとするとすごい勢いで前のめりになった男に、ソウは後ずさりながらも言われた金額を払う。
「そんなに人気ないんですか。調薬」
「ないもなくないもないよ?!!」
え、どっちと思う間もなくまたすごい勢いで前のめりになってくる。
「だって最近は神道系のコが増えたっていうしパーティに一人いられるだけでポーションいらないでしょおおお?!能力系だって付与できる職がいっぱいいるからソロする人しか買わないうえ、今はパーティで動くのが主流でしょおおお?!!マジックポーションだって最近見つかった魔結晶酔いを軽減させるスペルで使う人なんてソロのひとでしょおおおお?!!!そもそもパーティ主流だから売れないでしょおおおお?!!!!!売れない物作る人なんていると思ううううぅぅ?!」
「あ、いや、いないと思います」
「でしょおおおおおおおおおお?!!」
ガツンっと良い音をさせて受付のカウンターに頭をぶつけるようにして突っ伏す。
しかしすぐにがバッと起き上がってソウの両手を握りしめた。
「にがさないよおおおおおおおおおお」
「いや、調薬しにきたんで」
「やったあああああああなにか聞きたければなんでも無料でおしえちゃうよおおおおおお」
若干引きながら手を外して、見つめられる視線を感じながら調薬台に向かう。
カバンからアニスと結晶水を出し、調薬を始めた。
中級は作成するのが初めてなので、最初は少ない量から、何度かやって大丈夫そうだと判断し手早く複数の調薬をする。
あの騒がしい調薬ギルド員も、静かにその手元をカウンターから見て舌を巻いていた。
(初めて見る顔なのに、ずいぶん手慣れた感じ。どこかでやってたのかな。しかもかなりいい状態で調薬できてる。普通の支給ポーションよりも回復量も高そう)
昨日採集した分のアニスを使い切り、一旦調薬を終わらせる。
「あの」
「うん?」
調薬が終わりギルド員に声を掛けると、先ほどのテンションが嘘のように普通に返事をされ面食らう。
「結晶水を作り置きしておくことできます?」
「いいよー。魔結晶の欠片置いて行ってくれれば、沈めて保管しておくよ」
「じゃあ、これ」
カバンから欠片を取り出して渡した。
「僕は調薬ギルドのマスターでライフニル。調薬ギルドは僕一人しかいないから、レシピ関係とか調薬材関係も全部僕に言ってくれればいいよ」
「昨日魔都に来たばかりのソウです。とりあえず調薬はやめる予定はないので、ここを拠点にしている間はよろしくお願いします」
まさかのマスター。しかも一人きり。
ソウはシルバーと顔を見合わせた後、軽い自己紹介をして挨拶をすまし調薬ギルドを後にした。
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