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17話目です。
誤字脱字、お目汚しあると思いますが・・・
やっとここまできました。これで第1章終了です。
「じゃあ、いってくる」
次の日、早めの朝食をとった後すぐに出ることになった。
身支度を整え、荷物の確認をして挨拶をする。
「昨日言ったこと、忘れるんじゃないよソウ」
気をつけてな、とあっさりと見送られての出発となった。
幽閉された覚醒人がいるのは、駐屯地を獅子族の村とは逆に進んだ墓地がある場所らしい。その通路の奥にいるという。
駐屯地の先は基本的にアクティブモンスターが闊歩している。レイがいるのでそこまでの危険はないが、前回のように急に後ろに沸くということもあるので、自分の後ろは特に注意した。
駐屯地を100メートルほど離れると、だんだんと空気が重くなってきた。坂道を上がりきったところが、墓地になる。
墓地にはレイス系と虫系モンスターが生息する。特にレイス系はハイドといわれる透明化スキルを使って襲ってくるので厄介だ。
「なるべく見つからないようにいく。ハイドされると厄介だ」
「ヴェルの言ってた師匠のいるとこって奥っていってたけど」
「ここからだと見えないが、そこまで遠くはないはずだ。道が湾曲しているが、その坂を上がってすぐの所だ」
墓地の入り口から道は墓を迂回するようにぐるりと曲がっていて、しかも坂になっているので先が見えない。
蒼士たちは急いで、しかし静かに道を進む。曲がり角に差し掛かると、道の先が見えてきた。
ほのかに発光している、ガラス玉のようなものが木の蔓で支えられている。
坂に差し掛かると、ゴーストはいなくなり蛍のように発光する魔物のみになった。
しかしそれも覚醒人のもとに近づくにつれ、いなくなってゆく。
坂を上り近づいてゆくほど、魔結晶のエネルギーが濃くなってゆくのが分かった。
ガラス玉の中に、ひとがいた。
ぼろきれのようなローブをまとって、無精ひげを生やした長髪の男だ。
そんな姿ではあるが、どこか近寄りがたい貴き者を前にした時のような圧倒的な気配を感じる。
見た目でいえば30代後半ぐらい、しかしその雰囲気はまるで遥か昔から生きているような老滑さも感じられる。
蒼士たちが目の前に立った時、その覚醒人は目を開いた。
「・・・つよきもの、かえりしもの、すべるもの。強い魔結晶を感じる」
その人物は、立ち上がり手をこちらに向かって掲げた。
「レイ、お前の過去は失われているのではない。おまえ自身によって封印されている。それはこの魔界、いやアストレイヤの未来が関係している。このまま知らぬままでも生きてゆける。知れば大きな運命に巻き込まれてゆくだろう。それでも、」
「知りたい、知れるのならオレの過去を」
「選んだな、つよきもの。私はユス。ユスティエルの名においておまえを過去に飛ばしてやろう。そして刮目せよ」
その瞬間、レイが強い光に包まれる。思わずその腕をつかんだ蒼士とともに、レイの姿は掻き消えた。
『干渉するか、かえりしものよ。これでお前もアストレイヤの運命に巻き込まれることとなる』
ふわふわとした飛翔感に目を開けると、漆黒の空に浮いていた。
遠くには、赤茶けた岩や山がある島のようなものが浮かんでいる。
そこここで黒い翼と白い翼の戦いが行われている。
見下ろす蒼士の目には、黒い翼を広げ島へ飛び立ったレイの姿が見えた。
(覚醒イベント・・・)
自分の姿は周りで戦っている魔族や天族には見えないらしい。
翼がないのに飛んでいる自分のことは後にして、レイを追う。
(この後確か、天族側の将軍と一騎打ちになるはず。そこで覚醒して・・・)
島に降り立ち、天族を斃し敵の司令官らしきものと戦い始める、その時。
『羽虫ども、このボカルマがどちらも殺し、このアフィズ全土を支配してやる』
巨大な龍が島に降り立つ。
今だ剣を交えている二人に向かってその爪を揮った。
天族の司令官はまともに受けてしまったのか、一撃で光になって消えてゆく。レイは直前で直撃は免れたが爪が背をかすったのか、倒れたその場に血だまりができていた。
(なんだこれなんだこれなんだこれ!)
さあっと青くなる顔色。
自分が知っている知識と全く違う展開。
初めて目の前で見る人の死。
そして命の灯が消えそうなレイの青白い顔。
まだ完全に斃れていないレイに、龍が腕を振り上げた。
「やめろおおおおおぉ!!!」
一瞬でレイのそばにおりたち、抱き起す。
血まみれの体がぐったりと蒼士の腕にのしかかる。
青白い顔。
滴る血。
なにかが、蒼士の体からあふれ出し爆発した。
「うわああぁぁぁああ!!!!!」
熱い熱い熱い!
その放出されたエネルギーで龍は一瞬にして爆散した。
その降ってくる血の雨を頭から浴びながら、蒼士はレイを抱きしめて身体の痛みに耐える。
「せ、なか、が・・・!!!」
そのとき、蒼士の肩甲骨のあたりから皮膚の避ける音がして、何かが生まれようとしていた。
「・・・あぁっ!」
その背に現れたのは、美しい黒き翼。
そのまま蒼士はレイに向かってつぶやいた。
「リヴァイブ」
暖かい光に包まれ、レイが目を開ける。
それを見て、頬に涙が滑って行った。その顔を見て、涙をぬぐってやりレイが言う。
「真紅の髪に、天上の蒼の瞳。ずいぶん外見が変わったな、ソウ」
「いってろ!それより傷はっ!」
『つよきもの、かえりしもの。ここは現実であって現実ではない世界。レイの過去、そして蒼士が介入しなければ龍族に支配され滅ぼされる。その未来を変えるためにレイ、お前は今に来たのだよ』
「オレは覚醒人だったのか」
『過去に戻ったとて自分が培った技術は使える。体は覚醒前に戻されても技術は消えない』
「俺が介入しなくてもレイは死ななかったってことか?」
『そうだ』
その言葉にがっくりと頭を落とす蒼士。
「だが、助かったよ。ありがとうソウ」
『そして蒼士は完全にアストレイヤへと還ってきた。その姿は蒼士のアストレイヤであるべき姿だった。この魔界ではそのセレステブルーは珍しいがな。これで二人とも覚醒人だ。レイはソーディアン、蒼士はキュアの道を歩むこととなる』
二人が徐々に光に包まれる。
『そろそろ現実へ戻るときが来た』
次に目を開けたときには、先ほどまで立っていた墓地の奥のユスの幽閉されている場所だった。
シルバーが心配そうに寄り添ってくる。
「シルバー、ごめんな。びっくりしたろ」
「きゅうん」
寄り添ったシルバーを抱き上げて優しく抱きしめた。
「レイの過去は、アストレイヤの未来。しかしこの時点でのこの次元の未来は決まってはいない。このまま何もしなければ、当然先ほどの未来が現実になるかもしれない。しかし変えることはできる」
「変えるためには、何をすれば」
「おそらく、色々な問題を解決していくしかないだろう。レイのいた次元で解決しえなかった問題を解決すれば、その時点で未来が変わってゆくだろう。覚醒人となった今、色々な地域へ行って実際に見てみることだ」
ユスの言葉にうなづくレイ。
「レイ、俺も行ってもいいか?もう、あんな思いはしたくない。一人で行かせてレイがどこかでさっきみたいになるなんて考えたくない」
「ソウ・・・」
「だめっつってもついてくし!あ、でもシルバーはどうなんだろ。移動師使えるのかな」
その問いに答えたのはユスだった。
「そのウルフはすべるもの。ウルフの中で生まれるという王となるべく個体だ。普通の魔物とは違う。移動師の移動にも耐えられる」
「やっぱり主だったのかぁ・・・」
きょとん、とした目で見つめてくるシルバーを撫でながら、蒼士は告げる。
「とにかく、レイが反対してもこっそりついていくからな。レイはソーディアンだし、回復がいれば楽になるだろ?俺達、良いパーティになれると思うけど」
「・・・わかった。こちらからもよろしく頼むよ」
こうして、覚醒人となったふたりとウルフの王となる仔は魔界をまわることとなった。
一抹の不安を抱えながらも、これからの出会いや冒険に思いをはせて・・・
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