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11話目です。
誤字脱字、お目汚しあると思いますが・・・
やっとこ登場です。
外の様子を確認した後、一度小屋に戻り、採集用のかごを手にまた出ていく。周辺のナルソスとレダイムを摘み始めた。
籠をいっぱいにして戻ると、台所ですぐにレダイムを処理し始めた。皮をむき、切り分ける。それを鍋に入れて煮始めた。
「火」
焦げないようにゆっくりとかき混ぜながら。
一方ポーションを作っている蒼士は、だいぶ品質を落とさずに作ることができるようになっていた。まだ少しヴェルの置いていった見本の量と同じとまではいかないが、瓶に詰めたときの量の誤差は1、2センチ程度になっている。指定時間の半分をだいぶ過ぎたころには、作業も手早くなっていた。
一度ヴェルが帰ってきてまた出ていったのは気配でわかったが、しばらくしてまた帰宅してきた後から何やら甘いにおいがしてきた。
部屋の扉は締まっているうえ、若干薬草臭がしている中で気づくなんて、自分の鼻も過敏になっているのだろうか。
その香りに集中力が散漫になって作業効率が駄々下がりになったころ、ヴェルが扉を開けて入ってきた。
「どうだい、おお、うまく作れているじゃないか。さっき調薬を始めたのにこの品質なら問題ないよ。店にも出せる」
「じゃあ休憩?片づけとく?」
「ああ、だいぶナルソスも減ったね。自分で作った物だけその木箱に入れておくれ」
空き瓶の入っていた木箱の開いている場所に手早く片付けてゆく。その間にヴェルは残りの薬草かごをしまっていた。器具は部屋の奥にある水の張ってあるたらいに放り込んでゆく。
最後にさっとテーブルを拭いて終わりだ。
「隣の部屋で一息入れよう」
食事部屋の椅子に座ると、ヴェルが台所からティーセットを持ってくる。テーブルに置くと自分も腰かけた。ティーポットからゆっくりと注ぐと、ジャムの入った瓶を置いた。
「ただの紅茶だが、レダイムのジャムを入れて飲むと美味い」
それを聞いた蒼士は、パンの時と同じようにごっそりとスプーンでジャムをすくって混ぜた。
「近いうちに面倒ごとが起こりそうだ」
自分はティースプーンにさらりと1杯のジャムを溶かし込んで、ゆっくりと混ぜる。渋みのある匂いが緩み、ふうわりとさわやかな香りが立ち上った。
「さっき出てったことと関係があるとか?」
「この先の小径に、警備兵がいるんだがね。湖よりずっと手前にある小さな村の連中だ。どうやら最近になって子供がいなくなっているようだよ」
「子供が・・・?」
蒼士はジャムたっぷりの紅茶を口に含む。
うん、甘くて美味い。
ほとんど紅茶の味などしないジャムのお湯割りのような味になっていたが、そんな状態でもやはりレダイムのジャム入り紅茶は蒼士にとって美味かった。
「あたしの力を借りたいとね、言われたのさ」
蒼士には思い当たることがあった。これはストーリークエストの1つだ。プレイヤーが覚醒人になるまでの。
プレイヤーは実は未来から来た英雄で、記憶を失っており、魔界の崩壊という現実を変えるために過去に戻ったという設定だった。
今思うと小屋に住んでいてオウムを連れているということは、ヴェルはそこではプレイヤーに過去を見せて、覚醒を促すという重要な役割の占い師という事になる。
イヤに渇いてしまった喉を潤すように、一気に紅茶をあおった。
(ってことは俺はいわゆるプレイヤー枠ではないってことか)
「さてと。このままほかの生産について教えよう。実際に指導できるのは調薬と料理ぐらいだしね。他は口頭で教える程度になる」
からになった蒼士のカップに紅茶を注いでやる。
「調薬のほかには『裁縫』『鍛冶』『装飾品』『木工』『料理』の6種類。裁縫は布装備、皮装備の製作。鍛治は金属鎧、盾や武器、装飾品は指輪、ネックレス、サークレット、イヤリングなどのアクセサリー、木工は杖などの木製品、料理はまぁ一般で言う料理と、一時的に能力の上がる特殊料理の作成だ」
「調薬はポーション類?」
「回復系のほか、能力増加系だな。ただ特殊料理より効果時間は短い。これら生産能力を伸ばすためには、達人に師事せねばならないが、唯一一人でものばすことのできる生産系能力がある」
トントン、とテーブルを指でたたく。
「採集だよ。これは慣れだ。魔結晶を感じる能力が低くても、数をこなせばなれて目で見分けるのも早くなり効率が上がる。希少植物がとれればかなりの儲けの上、通常の採集物でも生産に使われるため一定の値で売れる。採集の腕は磨いておくといい」
取りあえず、とソウに告げる。
「これからは午前は採集、午後は調薬。料理は夜だけ手伝う程度でもいいから参加してもらうよ」
「ずいぶんハードだな」
ヴェルはちらりと外扉を見てつぶやいた。
「教えられることは少しでも教えておきたい」
それから3日ほどは、ヴェルの言ったことをしっかりこなしていた。
調薬だけでなく、元々一人暮らしで基本はできる料理も同じように慣れてきた。
変わったことといえば、やはり魔結晶がなじんできたことだ。前は全く兆しもなかった生活魔法をマスターした。
しかしまだ適正ははっきりと現れていない。
「恐らく魔法系だとは思うんだがね」
最近では調薬を一手に任された蒼士に、ヴェルが言った。占い師という家業がら、人のオーラが見えるらしい。大まかな色は物理職が赤系、魔法職が青系とのことだ。
蒼士のオーラは生活魔法が使えるようになった頃から色が付いて、今では薄水色になっているようだ。
「ヴェルから貰った本読み込んでるし、どの適正でもそれなりには理解してるから何になってもいいさ」
本音を言えば、メインで使っていたキュアか、それなりにやっていたシャドウかチャントならなおいいが。
ナルソスが一束程度になった頃、小屋の扉がたたかれた。
今までたたかれることなど全くなかった小屋の扉。蒼士は3日前の会話を思い出していた。
(言ってたやつか・・・)
ヴェルが外へ出て5分ほどだろうか、扉が開きヴェルが蒼士を呼んだ。何かあったのか、とテーブルをそのままに扉へ向かう。
「こちらへおいで、ソウ」
「なにか・・・っ!」
ヴェルの前に青年が立っていた。
(でけー!)
平均身長である175の自分より頭一つ分は高い。そしてぶ厚い。
さらりとゆれる銀髪は、よく見ると根元が菫色がかった神秘的なグラデーション。おそらく肩までの長さを後ろでひっつめている。前と横は落ちてくるまま流してあり、その瞳は赤みがかった濃い紫苑。
目つきはかなり悪いが、相当な美形である。
体型もあきらかに前衛やってます。という筋肉がしっかりついたうらやましい身体だった。
「子供の居場所、占おう。ただしこの還り人のソウも連れていって貰う。未だ適正は現れていない。外の世界に連れ出し、覚醒を促して貰いたい」
「・・・構わない」
こうして強制的に外へ行くことになったのだった。
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