変態の生まれた日
佐倉俊輔は緊張していた。
6年間通った崎岡小学校とも明日でお別れだ。
思い返せば、文字も書けない猿だった俺が、作文を書き、計算をし、絵を描き、運動をし、友達が出来た。楽しかった光景が次々と蘇ってくる。
だけど、今は全部どうでもいい!
好きな子が出来たんだ。
遠足も自然教室も修学旅行も全てあの子の笑顔で埋め尽くされている。
告白したい。
でも、怖い。
彼女にもし拒絶されたら生きていけない。
そういえば、前に「女の子みたいだね」と言われたのがショックで、自分の呼び方を僕から俺に変えたこともあったっけ。
いろんな気持ちが入り混じって、頭の中グルグルだ。
リフレッシュに、少し外歩いてこようかな。
「お母さーん、ちょっとだけ散歩してくる」
「え、もう9時回ってるわよ」
「すぐ戻ってくるー」
まだ少し寒い風が心地良い。そろそろ咲くであろう桜の木が等間隔で並んでいる町並みは、春を迎える準備が万全といった感じだ。小学校までのたった5分の道をゆっくりと歩く。
目的など特に無い。心が落ち着けばそれでいい。深呼吸をしよう。
ん、そういえば学校に来てたアメリカ人の先生が、外国ではカウント10といって1から10まで数えると心が落ち着くという慣習があるという事を言っていたな。ちょっとだけやってるみるか。
よし、目をギュッと閉じて
「イチ、ニィ、サン、シー、ゴー、ロク、シチ、ハチ、キュー、ジューぅ」
ふぅ
「いらっしゃい」
「ギャァニャァアア」
唐突に声をかけられ、驚き変な声を上げてしまった。でも、それも致し方無い。周りに誰もいない事を確認してから、10を数えたのだ。目を開けた先には、スーツ姿の身なりの整ったおじさんがいた。
「ど、どちら様ですか」
「私は、そうね言わば神様みたいなものかな。人の願いを叶える事が出来る存在。また、叶えない事が出来る存在。君が私を呼んだのだよ」
理解出来ない。夜に出歩いてはいけないと先生達があれほど言っていたのは、こういう変質者がいるからだったのだろうか。刺激しない様に、礼儀正しく接しねばばば
「お、俺は呼んでません」
「いや、君が呼んだのだ。叶えたいことがあるのではないのか?」
何を言っているのだ。彼女と両想いになりたいと言えば、なれるというのだろうか。いや待て、こんなヤツに彼女の事を話して危害が及んだらどうする!いい感じにスルーっと潜り抜ける願いは何だ。
「どうした、早く言え」
「は、はぃいいい。俺は人の心が読めるようになりたいです」
「承知した。では代わりにお前の記憶を頂こう。天は人に二物を与えず!」
目の前がブラックアウトした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
知っている天井...
「俊輔!早く起きなさい。遅刻するわよ」
下の階からお母さんの声がする。
妙な夢のせいで目覚めは最悪、体は痛い。
でもどうしても行かなくちゃならない。あの子に想いを伝える最後のチャンスなんだ。
「お母さん、お父さん、行ってきます」
「「気をつけていってらっしゃい」」
ありがとう。優しいお母さん、お父さん、頑張ってきます。
走れば、普段より10分は早く着く。校門前であの子を待って、そして告白しよう。
彼女の姿が見えた瞬間、心臓が今まで感じたことの無いほどに激しく鼓動し始めた。
今が勇気を出す時だ。
「あ、あの、え〜と」
「え、佐倉くんどうしたの?」
どうしても言葉が出ない。
彼女の気持ちさえ分かれば...彼女の、彼女の全てが知りたい。
瞬間そう思ってしまった。願ってしまった。
その時、佐倉俊輔は全てを失った。
「変な、佐倉君。あたし、もう行くね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どれだけ其処に立ち尽くしていただろう。
そもそも、なぜ此処にいるんだろう。
卒業式は終わっちゃったのかな?
などと考えていると、突然声をかけられた。
「あら〜、僕どうしたの?道に迷っちゃったの?名前は分かる?」
俺は、我に返りこう答えた。
「あたしは、白鳥柚子よ!」と
ちょっとずつ書き進めたいと思います。