散歩
道を歩いていた。
その道はよくある田舎の農道のように、舗装されてはいるものの車通りの少ない道だ。月明かりがなければ側溝に落ちてしまいそうだが今日は星空を見上げながら歩けるほど明るい。
周りから聞こえる生き物の声が独りではないことを教えてくれる。
俺はこの道をひたすら歩いていた。
別にこれといった理由は無いのだが、たまに無性に歩きたくなる夜がある。しがらみから解放され何も考えずにただ歩く。
この宇宙の――この世界の自分の存在がとても小さなものだと思い知らされる感覚が、切なくもたまらなく好きだ。
前方の電柱の下に人影が見える、暗くてよくわからないが子供のようだ。
こんな時間に何をしているのだろうか、もし迷子だったら放ってはおけない、そう思い話しかけてみた。
「どうした? こんな時間に、迷子なのか?」
「・・・・・・」
話しかけてみるが反応がない、ひょっとして幽霊か何かなのか?
「言わなきゃわかんないぞ」
少し間を開けてこちらを向く、幼い顔立ちをしているが少年のようだった。
「・・・・・・」
さっきまで泣いていたのか目の周りを赤く腫らしてすすり上げるように少年は言った。
「そうか、迷子か、もう少し先に行くと人の家があるからそこで電話借りてみるか? 番号はわかるか?」
「・・・・・・」
まぁわからなくても家の人が警察なりに連絡してくれるだろう。
「よし、じゃあ行くぞ! ちゃんとついてこいよ」
俺の後ろを距離を開けて少年はついて来る。途中で転んだりもしたが泣くのを我慢しているのを見てなんとなく和んだ。
民家の前まで行き少年が呼び鈴を鳴らす。
玄関の明かりが点き、中から年配の女性が出てきた。
「はい、どうしたの? こんな遅くに」
少年は奮い立たせるように言う
「・・・・・・すいません、電話貸してください」
少年が家の中へ入ったのを見届け俺は散歩へと戻った。
俺みたいになるなよと思いながら。