5:仕事と言って割り切れるか否か
「私は霊力を生み出す力には長けています。でも、それを、体の諸器官で意識的に使う事が出来ません。ですから、溜め込んでしまった霊力を自分の意志で使う事が出来ないんです。それなのに、怪我や病気などがあると、その修復には霊力が使われ、結果、回復が早まります。それが、彼らにとって都合の良い事だったんでしょう」
「ああ、なるほど」
まだまだ吸血鬼同盟の野望の全体図は掴めないが、小さい範囲では一応話がつながった。けれど、それだと。
「でも、室長。それだと、俺が二十四時間、水流崎さんの隣で護衛をしなきゃいけないってことじゃないすか?」
「私、さっきもそう言いました」
咎めるような調子はいっさい見せずに、陽菜はそう言った。そんな言い方をされたら誰だって素直に自分の非を認めてしまう。透は、ああ、そうだったな、と呟くと、次の瞬間には「え」と固まった。
「君の家に泊まり込みなのか?」
「いえ、私が藤村さんの家に行くんです」
頭がくらくらした。透は、こりゃまずいことになったぞ、と思う。何せあのぼろアパートだ。二人も人が入ったら床なんか平気で抜けるかもしれない。
二階じゃなくて一階に住んでおけば良かった、と、訳の分からない後悔をした。
「そんなのって、……ありなのか?」
「ま、そう言う事だ」
室長は話を打ち切るかの様にぱんぱん、と手を叩くと、透へ無慈悲な言葉をかけた。
「とりあえず頑張れや。その分給料は弾むから、水流崎さんとおいしい物でも食べな」
「いやちょっと待ってくだ」
「透さんのお噂はかねがねお聞きしていました。どうぞよろしくお願いします」
透の耳は陽菜の言葉をちゃんと捉えながら、それでも陽菜の言葉を受け入れようとはしなかった。
「あの……、あれだ。家族とか心配しないのか?」
「大丈夫です」
「本当にか?」
「はい。大丈夫です」
大きな瞳にそう言い切られて透は何も言えなくなった。いつまでも彼女と目を合わせていると、魂まで吸い取られそうに思える。抜けかかった魂のしっぽを引っ張りながら、透ははあ、と息を吐き、小声で独り言ちた。
「ったく、急すぎる」
陽菜は地獄耳だった。
「やっぱり、こんな依頼は受けては頂けないのでしょうか?」
心の底からそう信じていそうな顔だった。もしかしたら、自分は騙されているのかもしれない。こんな表情で、こっちに依頼を断りにくくしているのだ、と、透は思おうとした。
けれど、どうしてもそう信じる事が出来ない。陽菜の目はどこか必死で、どこかには諦めてしまったような色があった。
しどろもどろになりながら透は言う。
「まあ、室長もああ言ってるし……、出来るだけの事はしよう。でも、どうしても無理な事があったら、その時はまた話し合おう。それで良いか?」
「はい! よろしくお願いします!」
陽菜のおさげが元気に跳ねた。透はそんな陽菜の姿を見て、なにか変な感じを覚えた。
まあ、仕事だし。報酬が増えるなら良い事だ、と、心の中で嘯いてみる。