表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武蔵野ギフテッズ・リパブリック  作者: 杉並よしひと
第一章
8/83

5:仕事と言って割り切れるか否か

「私は霊力を生み出す力には長けています。でも、それを、体の諸器官で意識的に使う事が出来ません。ですから、溜め込んでしまった霊力を自分の意志で使う事が出来ないんです。それなのに、怪我や病気などがあると、その修復には霊力が使われ、結果、回復が早まります。それが、彼らにとって都合の良い事だったんでしょう」

「ああ、なるほど」

 まだまだ吸血鬼同盟の野望の全体図は掴めないが、小さい範囲では一応話がつながった。けれど、それだと。

「でも、室長。それだと、俺が二十四時間、水流崎さんの隣で護衛をしなきゃいけないってことじゃないすか?」

「私、さっきもそう言いました」

 咎めるような調子はいっさい見せずに、陽菜はそう言った。そんな言い方をされたら誰だって素直に自分の非を認めてしまう。透は、ああ、そうだったな、と呟くと、次の瞬間には「え」と固まった。

「君の家に泊まり込みなのか?」

「いえ、私が藤村さんの家に行くんです」

 頭がくらくらした。透は、こりゃまずいことになったぞ、と思う。何せあのぼろアパートだ。二人も人が入ったら床なんか平気で抜けるかもしれない。

 二階じゃなくて一階に住んでおけば良かった、と、訳の分からない後悔をした。

「そんなのって、……ありなのか?」

「ま、そう言う事だ」

 室長は話を打ち切るかの様にぱんぱん、と手を叩くと、透へ無慈悲な言葉をかけた。

「とりあえず頑張れや。その分給料は弾むから、水流崎さんとおいしい物でも食べな」

「いやちょっと待ってくだ」

「透さんのお噂はかねがねお聞きしていました。どうぞよろしくお願いします」

 透の耳は陽菜の言葉をちゃんと捉えながら、それでも陽菜の言葉を受け入れようとはしなかった。

「あの……、あれだ。家族とか心配しないのか?」

「大丈夫です」

「本当にか?」

「はい。大丈夫です」

 大きな瞳にそう言い切られて透は何も言えなくなった。いつまでも彼女と目を合わせていると、魂まで吸い取られそうに思える。抜けかかった魂のしっぽを引っ張りながら、透ははあ、と息を吐き、小声で独り言ちた。

「ったく、急すぎる」

 陽菜は地獄耳だった。

「やっぱり、こんな依頼は受けては頂けないのでしょうか?」

 心の底からそう信じていそうな顔だった。もしかしたら、自分は騙されているのかもしれない。こんな表情で、こっちに依頼を断りにくくしているのだ、と、透は思おうとした。

 けれど、どうしてもそう信じる事が出来ない。陽菜の目はどこか必死で、どこかには諦めてしまったような色があった。

 しどろもどろになりながら透は言う。

「まあ、室長もああ言ってるし……、出来るだけの事はしよう。でも、どうしても無理な事があったら、その時はまた話し合おう。それで良いか?」

「はい! よろしくお願いします!」

 陽菜のおさげが元気に跳ねた。透はそんな陽菜の姿を見て、なにか変な感じを覚えた。

 まあ、仕事だし。報酬が増えるなら良い事だ、と、心の中で嘯いてみる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ