表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武蔵野ギフテッズ・リパブリック  作者: 杉並よしひと
第四章
74/83

22:駆け出せ

「俺の名を知ってるのか」

「知ってるわよ、そりゃ。この仕事をしてればね」

 透は自分の歩いてきた道を見遣った。いくつもある枝分かれのうちの一つから、M伊藤と、静と、冴紀が現れた。3人とも堂々とした足取りで歩いてくると、透の脇へと立った。

「なんだお前ら!」

 今まで、涼華の言葉に従って沈黙を保っていた実行部隊が、やっとの事で声を上げた。M伊藤はそれをつまらなそうに見やると、ポケットから何かを取り出し、無造作に一つ投げ、逆の手でもう一つ投げた。二十メートルほど離れた彼らの元まで、それは床に着地し、滑り、到達した。それを見届けたか否かという時に、透の体はひょいと持ち上げられた。乱暴に地面に置かれ、頭を上から小さな手に押さえられた・

 爆裂音。

 耳を聾さんばかりの音が止んで、薄い煙が晴れ始めた。涼華とM伊藤は、まだにらみ合っていた。M伊藤の後ろには、PCを抱えた静がしゃがんでいる。脇をみれば、冴紀が透を抱きかかえるようにして、地面に伏せていた。

 そして、涼華の向こうでは、何人もの男たちが、斃れていた。あるものは仰向けに、あるものは縮こまるように、あるものは腕を失っていた。

 M伊藤はそんな凄惨な光景にも、目をくれず、行った。

「透。お前は先に行け」

 透は、服の下の腹へ手をやった。驚いた。あれだけ痛みがあった腹は、まだ疼くものの、傷はほぼ塞がっていた。

 なぜだろう。一瞬そう思ったが、そんなことを不思議に思っている暇はなかった。不思議に思うくらいなら、一刻も早く陽菜のところに向かえ。心が急いた。

 しかし、M伊藤一人を置いていくのは、やはり、心のどこかでためらわれたのだ。

「室長……、そいつ、強いっすよ…………。大丈夫すか……?」

「俺を誰だと思ってるんだ?」

 M伊藤はニヤリと口角を上げた。

「俺と冴紀はこっちを片付けていく。後から追いつくから、お前は先に、津留崎さんに逢いに行け!」

「解った!」

 透は駆け出した。M伊藤とにらみ合って身動きの取れない涼華の隣を通り過ぎ、たくさんの屍を飛び越え、踏みつけ、透は走った。このままもう一度傷つけられることがなければ、陽菜のいるところへ着く頃には、腹の穴はふさがっているだろう。

 足音が遠ざかっていく。M伊藤は満足げな表情をすると、また、あの不敵な笑みを浮かべた。

「俺、こんな仕事から、足を洗ったと思ってたんだけどな。やっぱり、血が騒ぐわ」

「そうでなくっちゃ」

 涼華も、自信と楽しみを待ちきれない気持ちを滲ませた声で、そういった。

「M伊藤を倒したって言ったら、私の名前にも箔がつくわ」

「残念だが、そんな箔は貼れねえぜ。湿布でも貼っときな、怪我するから」

「うるさい」

 一瞬の静寂が訪れた。すべてのものが動きを止め。

 銃弾の音が、静寂を破った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ