4:力とは
「と言うか、室長、昨日は彼女を調停局本部に送るって言ってたじゃないですか。なんでまだここにいるんですか?」
「いやあさ、昨日は悠里さんと俺結局泊まり込みだったしさ、ここに置いたままの方が、個人の依頼として簡単に済ませられるかなって思ったからな」
全然簡単に済みそうもねえ、と透が小さく毒を吐くと、室長は笑ってどうどう、と言った。透には全然納得がいかない。
室長はどっかりと陽菜の隣に腰掛けると、まだにやにやとした笑みを口の端に残しながら手を組んだ。室長が仕事の話をするときは、いっつもこうやって両手を組むのだ。
「水流崎さん、さっきお聞きした話、僕から彼に話しても良いかな」
「はい」
陽菜のか細い返事を待って、室長は抑揚も無く、淡々と話し始めた。
「ここは武蔵野共和国だから、いろいろな霊族が調和して暮らしている。それはさすがに解ってるよな?」
「はい」
「ただ、それを望まない奴らもいる。それもまた真実だ。それは覚えておいてほしい」
噛んで含める様に室長はそう話す。透にはまだ話が見えて来なかった。目の前の少女の護衛と、どうも話がつながりそうでつながらない感じがする。
問い返そうとしたちょうどそのとき、透を遮る様に室長の声が飛んだ。
「彼女は吸血鬼だ。それも、ある意味、この世の吸血鬼の中で一番の、だ。で、それこそが今の吸血鬼同盟のトップの狙いでもある。だから、透には彼らから水流崎さんを守ってもらいたい」
「ちょっと待ってください」
まだ何か続きそうだった室長の言葉を遮る。色々解らない事が多すぎるが、どうしても見過ごせない言葉があったのだ。室長は驚いたのか、言葉を止めると、珍しい物でも見る様に透をまじまじと見つめた。
「水流崎さんは世界で一番強い霊力を持ってるんですよね? だったらなんで僕の護衛なんかが要るんですか? 自分の力で勝てるじゃないですか」
「無理なんです」
凛とした声が響く。陽菜の声だった。穏やかなままなのに、中に鋭い刃物が隠れているみたいで、透は一瞬身を固くした。場が静かになったのを確かめて、陽菜は話し始めた。