8:脱獄の方法
「おっさん。まじでなんか知恵とかないのか」
透は鉄格子をしげしげと眺めつつ、目の前の牢の老人に聞いた。鉄格子はどこを見てもサビ一つなく、特殊な塗装で霊力は全く効かなそうだ。
「だからさっきも言っただろ。脱走できるならとっくにしてるって」
「そうだよな」
透はまたガリガリと頭を掻いた。毛が何本か抜け、パラパラと落ちていった。
ここへきてどれくらい経ったのだろう。外界の光が入らない。なのに電球で明かりだけは保証され、その代わり時計がない。思ったよりも、時の感覚というものは狂いやすいものだった。
今が昼なのか朝なのか、全くわからない。それどころか、自分が陽菜にナイフで刺されてからどれほど経ったのかもよく解らない。
そうだ、自分は陽菜に刺されたのだ。透は思い返した。
それなのに、今自分はこうして陽菜の許へ行く術を考えている。どうしてだろう、という問いが頭を掠め、次の瞬間には、当たり前のことだろ、と考え直していた。
陽菜が心配なのだ。陽菜は自分にとって大切な存在で、だから、多分囚われの身になっているだろう陽菜を助け出したいのだ。
…………陽菜に刺された?
「おっさん、俺がここに運び込まれたの、見てたか?」
「ああ見てた。集の野郎が来てな、二言三言しゃべったわ」
「それから今までどれくらい経った?」
「そうだなあ、詳しくは分からねえけど、三時間は経ってねえと思うぞ」
「そうか。ありがと、おっさん」
透は自分の背中へ手をやった。
服が破けているだけだった。皮膚が盛り上がったり、引き攣れていたりなどはしなかった。
ポケットへ手をやる。助かった。使い慣れたナイフの、木製の柄が手に触れた。多分、陽菜の身柄を捕まえたせいで、透の方へは気が回らなかったのだろう。
占めた、と透は思った。取り出したナイフの刃を出し、指差しへ突き立ててみる。
鋭い痛みとともに、赤く濁った血液が、冷たい地面へと滴った。
そして………………。透は指先を見つめ続けた。
ビンゴだ。




