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14:雲の向こうにはきっと月
倒してしまった男に腰掛けて、雲に閉ざされた空を見上げる。立川分室の人間を待てと言われたけれど、待てども待てどもやってこない。人っ子一人通り掛からない。
ここは小平だ。井の頭分室に応援要請があったとはいえ、どちらの分室からもある程度距離がある。時間がかかるのかもしれない。
今日もやってしまった。目標は透の尻の下で、まだ目を覚まさないまま、冷たい地面に伸びている。自分でもここまでやるつもりは無かった。体が動き始めると人間である自分が遠のいていって、逆に人間じゃない何かとしての自分が暗い水面へと浮き上がってくる。
やりたくてやったわけではない、と、透はもう一度、弁解がましいことを考えた。同時に、遠くに青梅街道の車の音を聞きながら、透はふと自分の過去を思い出した。こんな時にはいつも思い出してしまう。ここ最近思い出すことが無かったから、忘れていた時間の分だけ、胸のモヤモヤが重苦しい。




