12:僕が、君の力になれるなら
「透の過去ありきでこの仕事受けたくせに、何言ってるんですか、室長。ここに来て急に善人ぶるんですか?」
「……それのどこが悪い」
「自分だけ逃げおおそうなんて、そんなのは許されませんよ」
いつの間にか話の輪に加わっていた悠里が、うふふ、と嬉しそうに笑った。室長はそれを見て、がりがりと頭を掻くと、「うう」と苦しげな声を漏らした。
「無理を言うなよ……。俺だって話したくはねえんだ。あいつが隠したがってることは、隠しておいてやりたいと思ってる」
「隠してるってばれてる隠し事なんて意味ないっすよ」
冴紀はすりすりと陽菜を撫でながら、室長に言った。もう陽菜は室長が透の過去を隠していることに気づいてしまった。後は教えろ教えないの押し問答が続くのみである。
「よくわからないんですけど」陽菜は言った。「透さんが異能力者だったってことを、隠す必要があったって事ですか?」
「必要があるかどうかはわからない。が、あの過去が今の透の悪い面を作り上げてると、俺は思ってる」
M伊藤は疲れ切った顔でそう言った。
「だから、透さんの過去は、できるだけ隠しておきたい事なんですね」
「解ってもらえたか」
M伊藤は安堵の表情を見えた。……、が。
「そうとなったら、私もなおさら知っておきたいです」
「…………え?」
陽菜は負けなかった。
「透さんにおんぶに抱っこなんです。なのに、その上透さんを傷つけるような事を、私はしたくないんです」
「……俺にはよく意味がわからん」
「わかりませんか」
陽菜は平気な顔だ。
「私はわかるよ、陽菜ちゃん」
「私も解るわよ」
冴紀と静香は陽菜へと笑顔を向けた。ありがとうございます、と陽菜も笑顔を返す。
「まあ、わからないのは室長だけかもしれませんね」
悠里は澄まし顔でそう言うと、笑顔を崩さずに室長へと視線を送った。
「教えてあげたらどうですか? 透君にはこの事を秘密にしておけばいいじゃないですか」
M伊藤は圧倒的不利を感じたのか、はあ、とわざとらしくため息をついてみせると、
「秘密にしておいてくれよ、ほんとに」
と言って、昔話を始めたのだった。




