17:疾さの行方
「うぉおおおぉぉぉぉっ」
振り上げられた手には、ナイフ。サバイバルナイフの凶悪な輝きが、透の身を襲わんとして、振り下ろされる。
「くっ」
透は再び陽菜を抱きかかえて跳び退こうとした。
神経に電流が流れ、びくり、と肘が跳ねる。
ミスった、と透は思った。体が沈み込む一瞬、ナイフの切っ先が制服の腕を斬り、透の肉を深々と切り裂いたのだ。
息を詰めて痛みに耐え、そのまま遠くへと跳ぶ。
十分な距離をとってから体勢を立て直す。地面を踏みつける足にも、激痛が走った。見れば、長かった制服のズボンの右足は膝から下がなくなり、膝の上にもナイフの傷が入っている。腱は切れていないのか、幸いな事に足は動いた。
透はもはや舌打ちするほどの余裕も持ち合わせていなかった。
なぜ自分はここまで弱いのか、そればかり考えた。自分はこんなに弱かったのか? そうじゃないだろう。
じゃあ、何が違うのか。
透は振り返らない。幾分狭くなったような視界の中、四人の吸血鬼を捉える。狙いはこいつらだ。こいつらを倒して、自分が勝つ。
ナイフをリバース・グリップに持ち換える。
その瞬間、透の意識はまるでホワイトアウトしたかの様に姿を失った。
痛みさえ忘れて、透はひたすらに吸血鬼を切り裂いた。
右から襲いかかる吸血鬼に深々と刃先を突き立て、そのまま挽いて抜去る。断末魔の声がする。今度は左だ。右手を挽いた勢いのまま、更に回転し、逆手に持ったナイフをどこか適当なところに突き刺す。回転の勢いを殺さないままナイフを押す。肉を斬る感覚を経て、ナイフは空気中へ躍り出る。ついでに、左足でそいつを蹴っ飛ばす。異能力者の蹴りだ。手負いのそいつはいとも簡単に吹っ飛んで行く。
次の餌食を探そうと、透は首を回した。
いた。
人間の限界を超えたスピードで走り、吸血鬼の元へ行く。驚いて見開かれた瞳と視線がぶつかる。透は無感動に、その目に刃の雨を降らせた。吸血鬼が叫び声を挙げようと大きく口を開けた。声を上げる暇さえ与えない。蹴り、切り裂き、殴って、もう一度切り裂く。とうに意識の飛んだ吸血鬼は、重そうな音を立てて河原に倒れ込んだ。
残り一人だ。
と、透は、河原から逃げ出そうとしている一人の吸血鬼を発見した。こちらに背を向けて、一目散にここから遠ざかって行く。
逃がすものか。
透の眼光が更に弱くなる。奴も自分の手にかけなければならない。
透は今まで以上に強い力で、大きな加速で、地面を蹴った。
蹴ろうとした。




