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武蔵野ギフテッズ・リパブリック  作者: 杉並よしひと
第二章
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11:国境のまちは静かな不安の中にある

「ったく、休日ったってまじめに休めやしないじゃないか」

 M伊藤は愚痴まじりにそうぼやくと、改めて周囲を見回した。

 彼は今、武蔵野共和国東で最も大きな玄関口、荻窪ゲートの共和国側にいた。基本的に、日本国からの入国者、共和国からの出国者は、国境でのパスポートのチェックなどが省かれている。これも、建国時に両国が互いに認めさせた事の一つだった。

 だから、今M伊藤が降りて来た列車にも、これから日本へ入ろうと言う客がたくさん残っている。

 彼の目的は日本には無い。切符を改札に通して駅の外へと出る。

 この国の国境にはそこまで大きな街がない。共和国の政治的、商業的な中枢は立川にあるし、その他の大きな街、例えば国分寺、八王子、調布なども、国境からは離れている。そして、それらの大きな街は、大抵共和国警察が見回りをしていたりする。

 だからこそ、駅から出たM伊藤は、不穏な空気を一瞬で察知した。すぐさま携帯電話を取り出し、「水瀬悠里」をコールする。呼び出し音は一回目の途中で途切れた。

『はい、水瀬です』

「俺だ。手短に伝えとく」

 ちらりと、線路の彼方を見やる。まっすぐな線路は、どこまでも続いている様に見える。

「やっぱり国境警備は強化されている」

『そう……。透くんには伝えた方が良い?』

「いや、いい。あいつは案外顔に出るタイプだから、依頼者も不安がるだろ」

『そんな理由で?』

 おっとりした微笑みの声がスピーカーから流れ出た。M伊藤もつられて少し口角を上げると、すぐにまた表情を険しくし、声を一段と潜める。

「いや、それだけじゃない。少し考えろ。あいつにこれを教えたら何をするか……」

『……』

 悠里は黙り込む。暫く『ふーむ』と考え込むような声がスピーカーからした後、彼女はおもむろに口を開いた。

『確かに……、教えない方が良さそうね』

 力があるって言うのも考えものね、と言う悠里の台詞を聞くと、M伊藤は「じゃ、そう言う事だから。今から戻る」と言い、通話を切断した。

 七月に入ったと言うのに雨続きで、今日も妙に肌寒い。M伊藤は「ううさむ」と呟くと、駅前の道を国境方面へ向けて歩き出した。

 徒歩で国境を越えてみて、更に普段と異なるところを探そうと思っていた。


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