表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武蔵野ギフテッズ・リパブリック  作者: 杉並よしひと
第二章
25/83

10:手を繋ぐとは言うけれど

 ぶっきらぼうに答える透に、陽菜は「いーっ!」と膨れっ面を向けてみせた。傍らで静がため息を吐き、遠くで冴紀が叫んだ。

「おーいっ! こっちはフェネックだって! なんか狐みたいなの」

「ほんとですかっ!」

 一瞬動きかけた足を止め、陽菜は透の方を向いた。珍しく真面目くさった顔の陽菜が、まっすぐに透と目を合わせる。

 透は、すぐに目を逸らそうとした。が。

「一緒に行きましょう」

 陽菜は、どこから湧いたのか、今度は満面の笑みを浮かべると、透の手を取った。小さく暖かい手が透の冷えた手をずんずんと引っ張って行く。

 透はバランスを崩しかけ、一生懸命踏ん張って、転ばない様に走って行く。

「ちょ、一人で走れるって。あんまり引っ張るな」

 陽菜は何も返事をしない。ただずんずんと透の手を引っ張って行く。透は足を踏ん張って、濡れたタイルを踏みしめた。陽菜の軽い体が、いとも簡単にぐっ、と止まる。

「俺は一人で歩ける」

 急に透に手を引っ張られて、陽菜は振り返った。一瞬目元が前髪で隠れて、次の瞬間には、いつものあの能天気な笑みが見えた。

「そんな事言って、透さん絶対一緒に来てくれないんですもん」

「うるさい」

「そんな事言っても、手、私は離しませんよ」

 そう言って、まるで小さな子が駄々をこねる様に、陽菜は透の手を揺さぶった。されるがままにしていたから、透の体はぶるぶると震えた。

 司会の端っこに、面白い物を見る目つきの冴紀と静が映った。

「解ったよ、行くよ。行きゃ良いんだろ。何を見たいんだ」

「向こうにリス園があるみたいなんですよ。透さんも一緒に行きましょう!」

 入り口でもらったパンフレットに目を落とす。今いるところから少し奥へ入ったところに、大きな円形の檻がある。どうやら、リスがいる巨大なケージの中を、人間も歩ける、と言う物らしい。

「行くよ。行くから、手を離してくれ」

「離しませんよー。いつ逃げるか解りませんから」

 いたずらっ子の様に笑って、陽菜はずんずんと歩いて行く。

 透は、仕方なく引っ張られるがままに引きずられて行った。静と冴紀は、相変わらず透を指差して笑っている。

 透は、小さくため息を吐いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ