5:立川駅前を通り過ぎる
「今日の議題とも関係のある事だが」
ちょうどその時、立川駅の西、青梅線沿いの大きな緑地に接した道路を、滑る様に黒塗りの自動車が走っていた。
「吸血鬼族が〈無限霊力炉〉回収に乗り出したそうだ」
自動車の後部座席には、二人の男が乗っていた。片方は七十を越えようかと言う老人で、もう片方はまだ三十にもならないかの様に見える金髪だった。二人とも暗い色のスーツを来ており、そのせいか、車内の空気は固く凝り固まっているようだった。
老人の言葉に、もう片方が答える。年寄りもさらに若い声だった。
「知ってますよ。井の頭分室の奴らが阻止したって聞きましたけど、そんなに簡単に行く物だったんですかね?」
老人は重々しく首を振った。
「奴らは事態が表沙汰になる事を恐れている。そうでなきゃ、奴は街一つ壊す事に何のためらいも無いさ」
あんの若造め、と老人は毒づき、それを聞いた金髪は苦笑いを浮かべながら、宥める様に言った。
「でも、それだけじゃないでしょう? 何しろ奴らは吸血鬼です。クスリを使ったんなら並の調停局員じゃ太刀打ちできないでしょう?」
「井の頭分室にいる異能力者が誰だったか、思い出してみろ」
金髪は目を虚空に漂わせ何かを思い出すようなそぶりを見せると、ああ、と呟いた。
「あいつらなら……確かにイケますね」
「ただ、奴らばかりに頼っていられないのも確かだ」
「それも一面の心理っすね」
金髪の一言で、車内には静寂が訪れた。窓の外は息の詰まりそうな曇天で、今にも空から雨が降ってきそうだった。冬なら遠くに見える奥武蔵の幾重にも重なる山々も、今日は質量をさえ持っていそうな雲の向こうだ。
「君」
老人は若者に声を掛けた。
「場合によっては急を要する事もあるだろう。その際は、薬王院への連絡を頼む」
「解りました」
自動車は立川駅前に差し掛かり、そこで左に折れた。南北に三キロほど伸びた道へと入る。
その途中には、全面ガラス張りの、大きな建物が建っていた。
国会議事堂である。




