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武蔵野ギフテッズ・リパブリック  作者: 杉並よしひと
第二章
18/83

3:静かなる影

 一時間目。特に異常なし。

 二時間目。移動教室だったが、特に異常なし。

 三時間目。特に異常なし。教師に一回指名される。

 四時間目。特に異常なし。

 チャイムが鳴った。昼休みである。

 透は、昨日のうちに陽菜から聞いておいた彼女の教室を、近くの別の校舎の屋上から監視していた。

 建国時に出来た国立学校の中でも、この学校の敷地はかなり大きい部類に入る。どうも、建国以前に存在した大学からすべて買い取ったようで、国内の他の高校と比べてもかなり異質だった。建物は瀟洒だし、庭もきちんと整えられている。

 それだけ構内にも警備が行き届いており、この場所を探すのにはかなり手間取った。透は、最終的に、自らの異能力アブノーマル・フォースを使って、屋上へと登ったのだった。

 ここは良い。誰もこちらを気にしないから、きちんと陽菜の動きを監視できる。

 透が監視する限り、陽菜はいつも通りの学校生活を送っているようだった。昼休みになって、今朝透が渡してやった弁当箱を開き、作り置きの豚の角煮を嬉しそうに食べている。

「腹減ったな」

 自分の分の弁当を用意し忘れたのだ。空きっ腹を抱えたまま、陽菜の姿を見守る。

「これあげるよ」

「誰だッ!」

 予期しなかった声とともに、後頭部に何かがぶつかる感触があった。透は慌てて振り向いた。

「って、なんだ、静さんじゃないっすか」

「こんにちは、藤村君。背後ががら空き」

「すんません」

 陽菜から目を離さない様にして、辺りを伺う。紙袋が落ちていた。透の目にそれが入ったのを認めて、静は小さくうなずいた。

 紙袋を開く。

「コロッケパンじゃないっすか」

「私の奢りよ。どうせお昼ご飯用意してないんでしょ?」

 そう言いながら、静は透の隣へ腰を下ろした。自分の手に持っていた紙袋を開く。静かの方はメロンパンだった。

 横目に静が食べ始めるのを見てから、透はコロッケパンにかぶりついた。

「なんでここに静さんがいるんですか?」

「私と冴紀はここの高等部の生徒なんだけど、知らなかった?」

「知りませんでした。すみません」

「あなたには教えてなかったしね」

 静は澄まし顔でそんな事を言った。だったら知るわけねーだろ、と透は心の中で呆れ声を出す。


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