3:静かなる影
一時間目。特に異常なし。
二時間目。移動教室だったが、特に異常なし。
三時間目。特に異常なし。教師に一回指名される。
四時間目。特に異常なし。
チャイムが鳴った。昼休みである。
透は、昨日のうちに陽菜から聞いておいた彼女の教室を、近くの別の校舎の屋上から監視していた。
建国時に出来た国立学校の中でも、この学校の敷地はかなり大きい部類に入る。どうも、建国以前に存在した大学からすべて買い取ったようで、国内の他の高校と比べてもかなり異質だった。建物は瀟洒だし、庭もきちんと整えられている。
それだけ構内にも警備が行き届いており、この場所を探すのにはかなり手間取った。透は、最終的に、自らの異能力を使って、屋上へと登ったのだった。
ここは良い。誰もこちらを気にしないから、きちんと陽菜の動きを監視できる。
透が監視する限り、陽菜はいつも通りの学校生活を送っているようだった。昼休みになって、今朝透が渡してやった弁当箱を開き、作り置きの豚の角煮を嬉しそうに食べている。
「腹減ったな」
自分の分の弁当を用意し忘れたのだ。空きっ腹を抱えたまま、陽菜の姿を見守る。
「これあげるよ」
「誰だッ!」
予期しなかった声とともに、後頭部に何かがぶつかる感触があった。透は慌てて振り向いた。
「って、なんだ、静さんじゃないっすか」
「こんにちは、藤村君。背後ががら空き」
「すんません」
陽菜から目を離さない様にして、辺りを伺う。紙袋が落ちていた。透の目にそれが入ったのを認めて、静は小さくうなずいた。
紙袋を開く。
「コロッケパンじゃないっすか」
「私の奢りよ。どうせお昼ご飯用意してないんでしょ?」
そう言いながら、静は透の隣へ腰を下ろした。自分の手に持っていた紙袋を開く。静かの方はメロンパンだった。
横目に静が食べ始めるのを見てから、透はコロッケパンにかぶりついた。
「なんでここに静さんがいるんですか?」
「私と冴紀はここの高等部の生徒なんだけど、知らなかった?」
「知りませんでした。すみません」
「あなたには教えてなかったしね」
静は澄まし顔でそんな事を言った。だったら知るわけねーだろ、と透は心の中で呆れ声を出す。




