2:そう言う言葉はとっておかなくちゃ
この辺りは昔の開発によって、道がほぼ格子状に計画されている。公園から出て坂を上ると、遠くにはもう陽菜の通う中高一貫の国立学校だった。
「俺が一緒に行くと怪しまれんだろ。じゃあな」
「え……、あ、あの」
素早く陽菜から離れて行こうとした透を、陽菜の声が捕まえた。
「どこへも……行きませんよね」
「……?」
透には陽菜の言葉の真意が解らない。
「どっか行かなきゃ隠れて監視できないだろ」
まさか教室までついて行って机を分け合って座る訳にも行かないだろう、と透が思っていると、陽菜は透が思ったよりももっと深い安堵の表情を見せた。
「それは……、そうですね」
言葉を継いで、
「じゃあ、どこから私を監視なさるんでしょうか?」
透は力強く答えた。
「それを知ってたんじゃ、お前普段通りに学校で過ごせないだろうが。
ちゃんと監視して、護衛をする。絶対に、いつでも、ずっとお前を見てるから。誰にも手を出させない。約束する」
力強く言い切った透の言葉に、陽菜は一瞬面食らったような顔を見せた後、小さく微笑んだ。
「透さん、それは私じゃなくて、他の誰かの為に取っておいた方が良いですよ」
「なんか俺、まずい事でも言ったか?」
「はい。それはもう」
どこか歌う様に陽菜はそう言って、今度は彼女の方から透から離れて行った。
「では、今日一日、よろしくお願いいたします」
「りょーかい」
最後にちらと視線を合わせて、陽菜は遠ざかって行った。同じような制服の群れに消えて行く背中を見送ると、透は校門の前を通り過ぎ、学校の敷地と接する路地へと入る。
「さて」
誰に向けるでも無く、透は呟いた。
「いっちょ働きますか」




