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武蔵野ギフテッズ・リパブリック  作者: 杉並よしひと
第一章
13/83

10:共和国の産声と霊族に関するいくつかの事

「まず……、武蔵野共和国がどうやって出来た国か、解りますよね?」

「馬鹿にするな」

 陽菜の問いかけに、透はぶっきらぼうに答えた。そんな事、小学生のうちにみんな習う事だ。

 曰く、「武蔵野共和国は、世界初の『霊族ギフテッズの国』である」と。

 霊族は霊細胞から霊力を自ら生み出し、その霊力で体のあらゆる器官の働きを増大する。逆に言えば、体内で霊力を生み出せる事の出来る人間が“霊族ギフテッズ”なのである。

 霊細胞から生み出された霊力は、直接筋肉や感覚器官に働きかける。これが、霊族特有のデタラメな筋力や感覚の鋭さとなって現れているのだ。

「というか、それがお前の話と関係するのか?」

「するんです」

 俺は仕方なく、小学校時代の記憶を引っ張りだす。

 建国三種族と言われる霊族ギフテッズがいる。五十年前、世界中から激しい偏見を受けていた霊族たちをまとめ上げ、ここ、武蔵野に新たな国を作り上げようと、船頭に立って動いた種族である。

 結局、ここ武蔵野共和国が霊族の楽園となり得たのは、その三つの種族、つまり、吸血鬼、精霊、そして天狗に依るところが大きい。

「建国三種族の水面下での働きでまとめられた霊族たちが、一晩で武蔵野全体を囲う城壁を築いた。これが共和国の始まりだ。違うか?」

 この素早さのおかげで、共和国はもともと存在したインフラと交通機関をまるのまま手に入れられたのだ。

 建国の経緯から、当初は日本国からの攻撃が激しかった。しかし、日本政府が設けるすべての交渉の場に建国三種族の長は丸腰で臨み、国の独立を平和的に成し遂げた。丸腰で望む事で、逆に相手に武力を行使させない様にした、と言われている。

 このとき、日本が共和国に対して飲ませたいくつかの条件のうちの一つが、『調停局の設置』、つまり、共和国内に、日本が一定の警察権を持つ、と言う物であった。調停、の名前は警察とは異なる様に見えるが、それは名称を決定する際に「争いごとを解消する役目を持つのだから」と言うだけの理由でその語が使われた、と言われている。

 それが、今の透たちの所属する『調停局』の始まりだった。もっとも、何十年と言う時の間に、仕事の内容はかなり大きく変化していた。

「いいえ、正解です」

 柔らかく微笑みながら陽菜はそう言った。こんな質問をした陽菜の意図が、未だに解らない。

 透が陽菜の腹の底を探りかねていると、陽菜は穏やかな声で先を続けた。

「建国三種族は今、建国の理念のためもあって、他のすべての霊族と同等の権力を与えられています。建前上は、ヒトも含めてすべての『人間』は、平等に扱われる事になっています」

 陽菜の言葉が引っかかった。

「本当は違うのか」

「違わなくはないのですが、それを変えようという動きは、確かに存在します」

 室長の言葉とつながった気がした。透はごくりとつばを飲み、少しだけ、身を乗り出した。とんでもない話なのかもしれない。

「霊族の中でも、生み出せる霊力の強さに違いがある事も、ご存知ですよね」

「……、お前、俺を馬鹿にしてるのか?」

「いいえ! 全くそんなつもりは無いんですが!」

 慌てて顔の前で手をぶんぶんと振る彼女を見て、透は言い過ぎたか、と少し反省した。Sっぽい、とは冴紀の透評だが、そんな透でも、いたいけな中学生女子を怖がらせて喜ぶ趣味は持ち合わせていない。

「とりあえず確認しておいた方が、話もスムーズかと思いまして」

「……まあ、じゃあ仕方ないか」

 霊細胞は何種類か働きと構造に依って分類され、血中に存在し、すべては骨髄中に存在する造霊幹細胞から分化して生ずる。つまりは、他の赤血球や白血球などと概ね同じような一生をたどる細胞なのである。

 霊細胞の表面には、他の細胞と同じ様に、自己と非自己を認識するためのHLA(ヒト白血球型抗原)分子が存在し、これは個体ごとに異なる型をしている。霊細胞以外の細胞で、このHLA分子の型が異なる細胞が侵入すると、白血球に食べられたり、抗体が出来たり、早い話が「免疫作用」によってやられてしまう。

 しかし、だ。霊細胞だけは、自らの生み出す霊力が周りに存在する霊細胞に勝るときに限り、自ら生み出す霊力に依って、抗体や白血球を破壊する事が出来る。一つの霊細胞の寿命がつきるまで、破壊されずに、血中を漂い続けるのだ。漂い続ける間にその霊細胞が発する霊力は、当然のごとく、その霊細胞を漂わせる個体の器官へと受け取られる。

「吸血鬼族の特徴は解りますか?」

「霊族の中でも珍しく、霊力を他の霊族から経口摂取できる、って所だよな、確か」

 突然の質問に、透はつまりながらもそう答えた。

 つまり、吸血鬼は、自ら霊細胞を生み出す事も出来ながら、自ら獲物の首筋に牙を這わせ、他の霊族から霊細胞を受け取る事も可能なのだ。霊細胞は主成分がタンパク質ながら、吸血鬼はそのタンパク質を消化せず、細胞の形のまま取り込める。

「はい。ですから、吸血鬼は、吸血する相手が強力であればあるほど、自らの能力を増強する事が出来るのです」

 透は、目の前の少女が背負う荷物の中身に、おおよそ見当がついてしまった。黒くて、臭くて、でも、リュックサックの中に厳重にしまい込まれて、誰も気づかないのだ。

「吸血鬼族は、武蔵野共和国内での更なる立場の強化を求め、主に軍事力を強化しようとしました。知力やコネなどを使っても良かったのですが、結局はそれが一番手っ取り早かったんです」

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