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01-07 書

本には数えるのもやめたくなるほどの呪文がつづられていた。

およそ、この世のありとあらゆる呪文が網羅もうらされているのではないか。

そう信じられるほどの数だった。


呆然としながらもページをめくる。

すると途中で手が止まる。



「あれ、ここから先はめくれないな…」



以前と同じように、後ろ半分ほどはページをめくろうとしてもビクともしなかった。

ふと疑問が脳裏をよぎる。


一体どんな切欠きっかけがあってこの書 ―あえて本ではなく書というが― をひらけるようになったのか?

自分の考えに埋没しそうになった時、妹から声がかかる。



「お兄ちゃん?どうしたの?」

「…ん。いや、何でもないよ」



別の本を取り、席に戻る。

だがこの後読んだ本の内容は全くケンジーの頭に入ってはこなかった。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



翌日から暇な時間に例の書の検証を開始した。

もちろん妹は不機嫌だった。



色々試した結果。

・魔導書として活用することは可能。

 つまり書に書かれている呪文は普通に使用できるということ。

 ただし、使用条件があるのか、使えない呪文も散見された。


・書から自分本来の魔導書に呪文を書き写すことはできない。

 つまりスクロールの代わりにはならないということ。


・書を開けるようになった原因は不明。

 つまり、ある日突然また開けなくなる可能性があるということ。


・妹には開くことができない。

 さりげなく ―と本人は思っている― 妹に開かせてみたが、開けないようだった。


・後半の半分は相変わらず、どうやっても開かない。

 当たり前だが、まだまだ謎が残るということ。



さて、どうしたものかと考える。

魔導書として使えるのは非常に有益だ。

使える攻撃呪文や冒険で役立つ補助呪文などが大量に記載されている。

だがよく考えてみる。

さっきの検証でも思ったことだが、突然使えなくなる日が来るかもしれないのだ。

頼りすぎると手痛いしっぺ返しが来るような気がしてならない。


なら、どうするのが最善か。

まず、この書を使えることを人に知られてはならない。

なぜなら、知られれば期待されるから。

高位の魔術師と期待されて、いざ呪文を使えなかった時の落差を考えると恐ろしくなる。


一番良いのは、この書を使いソロで遺跡か迷宮を攻略して呪文のスクロールを手に入れることだ。

それを繰り返し、自分の魔導書を充実させる。

結局は、それが一番真っ当な使い道な気がした。


心配なのは、この書を使用しているときの全能感だろう。

また、使うことをやめた時の喪失感はどれ程だろう。


それらを振り切って使うことをやめることが、果たして自分にできるだろうか。

ほんのわずかな時間、検証のために使っただけで、ここまで高揚し、かつ不安になるのだ。


ケンジーは、チートアイテムという物の別の意味での恐ろしさを実感するのであった。


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