最終話
ブライとの戦いが終わり、ケンジーとプラムは一旦島へと帰還した。
「お兄ちゃん!」
「アンジー、助かったよ。 ありがとう」
抱き付いて来たアンジェラの頭を撫でて礼を言う。
嬉しそうに目を細めながら、アンジェラはケンジーに頬を擦りつけている。
「ケンジーさま。 御無事で何よりです」
「リリアーナも、ありがとう」
リリアーナも抱き寄せて頭を撫でた。
リリアーナは遠慮がちに抱きしめて来る。
それでも嬉しそうなのは変わらない。
「「ケンジーさま!」」
次に来たのは、エステルとジョエルだった。
「良かった……本当に」
涙ぐみながら、エステルも遠慮がちに抱きしめて来る。
「もう大丈夫だ、心配かけたな」
あの場にいたエステルは、確かに気が気ではなかっただろう。
「わ、私はケンジーさまを信じていたわ」
そう言うジョエルも眼が赤かった。
泣いていたのかもしれない。
「危なかったけどな。 その信頼に応えられるよう頑張るよ」
指摘するのは無粋と言う物だろう。
そして、信頼に応えたいと言うのは、紛れもないケンジーの本音だった。
「お帰りなさいませ、ご主人様。 プラム様もお疲れ様です」
最後に来たのはアキホだ。
「ただいま~、ほんと疲れたよ~」
プラムが先に答えた。
疲れているのは本当だろう。
限界まで体力を使わせてしまったのだから。
注意したところで従わないのは判っている。
せめて、充分に労ってやろうと思う。
「アキホもありがとう。 アキも本当によくやってくれた」
「メイドの務めです。 御気になさらず」
『気付いていたのですか、ケンジー様』
ケンジーの労いの言葉に答えるアキホとは別に、スピーカーからアキの声がした。
「アキホの事か? そりゃ気付くさ」
『ご慧眼、恐れ入りました』
そんな二人のやりとりに、妻たちが訝しがった。
「何の事? お兄ちゃん」
「ん? ああ、アキホの事だよ」
「アキホさんの?」
「「どう言う事ですか」」
「あ! ああ~」
プラムだけは気付いたようだ。
別に内緒にする事でも無いので説明しようとしたケンジーだが、アキが先に答えてしまった。
『アキホは、すでに私の端末では無いのです』
その場が一瞬、沈黙に包まれた。
「「「「えええ~!?」」」」
「やっぱり~」
アキは淡々と解説する。
『“認識装置”を使用すると、私は全ての能力をそこに注ぎ込まなければなりません』
そうなると“船員”たちの生命維持に支障が出る。
アキホに任せるにしても、ただの生体端末であれば、操作するのもまたアキ自身になってしまうのだ。
これでは意味が無い。
『そこでアキホに自我を与える事にしたのです。 つまり、アキホは私の端末では無く、私の娘と言う事になります』
「アキの娘のアキホです。 これから、よろしくお願いします」
アキの解説に合わせてアキホが丁寧にお辞儀をした。
「お、お兄ちゃんは、いつから気付いてたの?」
「ん? すぐだと思うぞ。 だって呼び方が“ケンジー様”から“ご主人様”に替わっていたからな」
「「「「あっ!」」」」
「やっぱり~。 何か違和感があると思ったんだよね~」
プラムも中々に観察眼があるようだった。
ともかく、こうして一連の事件は幕を閉じた。
絡んで来た相手を返り討ちにしたら、他の事件が解決したと言う、棚から牡丹餅的な感じではあったが。
それもまたケンジーらしい。
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一度並行世界を認識した結果、それを理解したケンジーによって“認識装置”は更なる進化を遂げる。
数度のバージョンアップを経て、今ではアキも片手間に処理出来る程に高効率で小型化した。
こうして“認識装置”の完全実用化により、ケンジーは世界の意志すら超えた存在となった。
並行世界を認識し、そこに手を加える事も可能なケンジーは、世界の意志に許可を得る必要無く、能力を行使出来るからだ。
元より世界の意志とは、単一の世界を指す。
並行“世界”に力を及ぼす存在となったケンジーは、世界の意志に縛られない。
故にケンジーは、もう代行者では無い。
だが彼はその後、律儀に“乱れ”の原因を世界から排除した。
「家族と幸せに暮らすには、周りも幸せじゃないとね」
とは言え、“乱れ”の根は深い。
全ての“乱れ”を取り除くには、大元まで遡る必要がある。
“そこ”へ辿り着いたケンジーが見たものは、ある兄弟が運命に翻弄される姿であった。
代弁者の兄と代行者の弟。
兄弟の破滅への物語。
その切欠は、弟が偶然手にした“眼”だった。
最後に弟は自分たち兄弟の願いを叶える。
兄は“世界への復讐”を望み。
弟は“人々の願いを叶える”事を望んだ。
兄は“書”となり人々を、尽いては世界を破滅へと導いた。
弟は“大樹”となり人々の願いを叶えた。
だが人々の欲望に果ては無く、争いの末に“大樹”をバラバラに砕いてしまう。
砕かれた“大樹”は、破片となっても願いを叶え続けた。
だが人々の欲望は“大樹”の破片に根付き、防衛本能を生んだ。
“欲望”に基く願いには、叶える代償として浸食を施し、自らを守らせたのだ。
純粋な“祈り”による願いに対しては代償を求めない。
だが、“祈り”を以て願いを叶える者など殆ど無く、“大樹”もまた“世界を破滅へ導くモノ”となった。
(やるせねぇなあ、結局悪いのは人間って事かよ)
ケンジーは、弟の最後の願いを叶えなかった。
これにより“書”と“杖”は世界に存在しなくなる。
だがこれは“事象の樹”に新たなルートが発生しただけだ。
弟の最後の願いが“叶った世界”と“叶わなかった世界”に分離しただけ。
それを虚しく思いながらも、ケンジーは代行者としての任務を終わらせたのだった。
そうして、世界から“乱れ”を取り除くと、以後はただの冒険者として活動する。
冒険者と探索者のランクがAとなると、ケンジーは“英雄”に認定された。
双方のランクがAとなった人物は過去に無く、“大英雄”と呼ばれる事になる。
ケンジーは、英雄となってからも冒険者としての生活を貫いた。
非公式だが、ギルド幹部としても積極的に活動して、充実した生活を送っている。
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アンジェラとの間には三人の子を設けた。
男の子二人、女の子一人。
長男が家を継ぐ事になった。
「別に誰が継いだっていいだろ」
とはケンジーの弁だが、態々周囲との軋轢を生む必要も無いので任せておいた。
アンジェラは満足そうである。
リリアーナは、女の子と男の子を産んだ。
本人よりも義父母が大層喜んでいたのが印象的だった。
初孫だから仕方ないのかもしれないが。
「俺の孫でもあるんだぞ! 独り占めするなよ!」
「お前は他にも抱ける孫がいるじゃないか!」
親たちの関係は相変わらずのようだった。
それを眺めるリリアーナは幸せそうだ。
エステルとジョエルは、それぞれ女の子を一人ずつ産んだ。
ハーフエルフではなく、普通にエルフだった。
同じ日、同じ時間に出産し、容姿もそっくりと言う、嘘みたいな話であった。
ケンジーは冗談で“別腹の双子”と言っていたが、それを聞いた周囲は納得してしまい、二人を双子として扱うようになる。
「そう言う事をするから、見分けが付かなくなるんだろうに」
自分には見分けが付く余裕からか、そんな事を宣うケンジーだ。
エステルとジョエルの母親たちは、双子扱いに不満は無いどころか嬉しそうである。
結局、ケンジーの予言?通り、子供二人に翻弄される周囲であった。
プラムは、他の嫁たちの子育てが落ち着くまで、子を産まない宣言をした。
冒険者として活動するケンジーを一人にしたくないと言う想いからだ。
凡そ十年後、プラムは一人の女の子を産む。
「えへへ、みんな可愛がってあげてね~」
そんなプラムの希望通り、その子はたくさんの親と兄姉に囲まれて愛情たっぷりに育つ。
やがて次代の妖精王になるのだが、それはまた別のお話。
アキの宇宙船で“冬眠”していた“船員”たちは母星から救助が来て帰っていった。
無論、ケンジーが手を貸した結果である。
宇宙船自体は大破していたため、そのまま廃棄となった。
ケンジーの思考誘導により、機密保持のために破壊する、などと言うことも無くだ。
これによりアキは、名実ともにケンジーの配下に収まった。
『娘たち共々、これからもよろしくお願いいたします』
「娘“たち”……?」
「「「よろしくお願いいたします、ご主人様」」」
気付けばアキホの姉妹たちがいた。
島でのお世話係と言う事らしい。
ギルド幹部としてもケンジーは活躍した。
イミテーションコアを解析したアキによって、更なる性能向上に貢献したのだ。
例えば“希望した大きさまで成長を続ける”イミテーションコアだ。
これにより、望む大きさまで迷宮の成長を待つ事無く討滅可能となった。
もちろん製作するのは“ララァシュタイン”だ。
ちなみにイミテーションコアを最初に造ったのは、ララァシュタイン本人であった。
その弟子たちの系譜がギルドに囲われていたのだ。
彼らは新型のイミテーションコアを逆に解析し返した。
偶然にも、永らく停滞していた彼らに新たな風を起こす事になったのだ。
これらの功績は、ケンジーとギディオンの物となった。
ケンジーは貴族なので、ギルド幹部だと公に出来ない事情がある。
そこで表向きの貢献者としてギディオンに白羽の矢が立ったのだ。
ケンジーとしてはギディオンが出世するのに異論は無いどころか、むしろ大歓迎だったので黙って受け入れた。
「いやあ、悪いな、いいところ貰っちまって」
などとギディオンは言っていたが、元々彼は優秀過ぎたために上層部に煙たがられ、左遷された人間である。
ケンジーと言う懐刀を得て攻勢に転じた彼は、瞬く間に中枢へと食い込み、旧態依然とした首脳陣を退陣に追い遣った。
本部のギルドマスターとなった彼は、ギルドをさらに発展させ、中興の祖として歴史に名を残す事になる。
ケンジーは、相変わらず非公式なままではあったが、大幹部として彼を支えていた。
その後、クレイグが引退し、ケンジーが跡を継ぐ。
“大英雄”の名を引っ提げたケンジーを御せる者など無く、また阻む事が出来る者も無かった。
領主はおろか、国王ですらケンジーを縛ることは出来ず、気付けば伯爵となって領地を任されていた。
体よく地方へ追いやられたのだと理解はしていたが、むしろ余計な柵が減って良かったと本人は思っていた。
彼の収める地は人々に受け入れられ、王都よりも発展したと言う。
やがて長男に跡を継がせると、彼は公の場に姿を見せる事は無くなった。
これ幸いと、ちょっかいを掛けてくる貴族がチラホラいたが、例外なく大事になる前に彼ら自身が衰退した。
これにより“ドレイパー家に手を出せば自らが滅ぶ”と実しやかに噂されるようになる。
不可侵となった事で、永く平和な地として続いたようだ。
ちなみに公式の記録には、ケンジーは最後まで自由気ままに過ごしたと残っている。
―執行者 ~チート嫌いなチート使い~ 完―
と言う訳で終わりです。
書き始めるにあたって、絶対に入れたいと思ったエピソードは全て書く事が出来ました。
初めての作品と言う事で、書いている最中にも表現がころころ変わって、お見苦しい事をしたと思います。
これまでお付き合い下さった全ての皆さんに感謝を。
【お知らせ】
本日21時から新作の投稿を開始します。(プロローグ部分は投稿済)
本作と同じ世界観のお話なので、よろしければどうぞ。




