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08-11 その先へ

「奥様方は、こちらへ来てください。 ここにいてはご主人様の足手纏いになります」


「アキホ……」


「あなたね……」


「「バカ言わないで!」」



二人の声が揃った。



「夫を残して行ける訳ないでしょう!」


「私たちでも役に立てることがあるはずよ!」



二人の心底にあるのは、愛する夫への信頼と、役に立ちたいと言う願望だった。

アキホは、それを理解しつつ言葉を続ける。



「ご主人様のお役に立ちたいのでしたら、尚更こちらへ来ることをお勧めします」



アキホはきっぱりと断言した。

その瞳は揺るぎ無い。



「……役に立てる?」


「本当なの?」



聞き返すあたり、本心ではここにいても役に立てないと理解しているようだった。

畳み掛けるようにアキホは告げる。



「断言します。 間違いありません」



エステルとジョエルは迷いを残しながらも頷いた。



「「分かったわ」」



アキホは素早く二人を空間ごと包み込むと、最後に一言ケンジーに告げる。



「ご主人様、御存分にどうぞ」


「助かる。 ありがとう、アキホ」



これで妻たちに気兼ね無く戦闘に専念できる。

ブライを見ると、興味深げにアキホがいた空間を見ていた。



「――面白い。 まだまだ僕には理解できない事があるようだ」


「余裕だな、見逃してよかったのか? 俺としては助かるがな」


「そうですね、まずはあなたとの戦いを楽しむ事にしましょう」



余裕の態度を崩さず、ブライはケンジーに向き直る。



「言っていろ」



神を超えた力を持つ二人、その戦いの幕が上がった。



「“武器位階強化ウェポンストレングス ”――“第五階梯(プラス5)”!」



プラムにより炎の魔剣がさらに輝きを増す。



「おお、凄い」



ブライは隠すことなく驚きを示す。

それを油断と見たケンジーは透かさず魔術を放つ。



「“吹雪(ブリザード )”――“改変(アレンジ )”――“刃の暴風雨(ブレードテンペスト )”!」


「――へえ」



感心しながらブライが盾を翳すと、魔術の効果が減少した。

それでも“刃の暴風雨”はブライを切り刻む。



「面白い使い方をしますね」



だがブライは、ボロボロにされたと言うのに余裕の態度を崩さない。



「うーん、こうかな。 “雷光(ライトニング )”――“改変(アレンジ )”――“雷の嵐(サンダーストーム )”」


「なっ!?」


「ケンジー! ぎゅっ」



非常事態。

まさか改変を真似されるとは思いもしなかったケンジーは、驚愕に動きが止まった。

すかさずプラムが“合体”する。

ブライの改変魔術をまともに喰らうところだったが、機転を利かせたプラムのファインプレーに、ギリギリで回避が間に合う。


“書”を開かなくても魔術が使える理由は推測出来た。

魔力による繋がり、ラインのような物が出来ている。

あれにより魔術が行使出来ているのだろう。

恐らく、代弁者の視界も得ているはずだ。

そうだとしても改変を使われたのは異常と言えた。


(まさか改変(アレンジ )を盗まれるとはな)


だが、あくまで真似に過ぎない。

ならば、こちらに一日の長があるはず。

そう考えたケンジーは、異星人の知識まで駆使してブライを攻める。



「“力場(フォースフィールド )”――“改変(アレンジ )”――“重力子(グラビトン )”」



だが、ブライは慌てることも無く対応してみせる。



「……こうかな? “力場(フォースフィールド )”――“改変(アレンジ )”――“平常空間(ノーマルエリア )”」



ケンジー必殺の魔術は、ブライによって無効化された。

気付けば“刃の暴風雨”で負ったはずの傷も消えている。



「バカな! なぜこいつが異星人の知識を理解できる!?」



ケンジーが驚愕の声を上げる。

無理も無い。

現代日本の教育を受けたケンジーでさえ、異星人の科学を身に付けるには、その異星人の技術を利用した。

文明レベルの遥かに劣る、この世界の住人であるブライが見ただけで対応するなど理解出来ない。


だが、これこそがブライの持つ才能。

この世界においても特異と言える能力だった。


それは観察力。

ケンジーの洞察力に匹敵する才能。


では、洞察と観察の違いとは何か。

一言で言ってしまえば“推測”を加えるかどうかだ。


洞察とは、観察に推測を加えて結果を出す。

結果だけでは無い、時には経過にも推測を挟み、真実へと至る。

もっとも、その推測には経験を伴わなければ的外れになってしまうものなのだが。

それを高い次元で行っているのがケンジーだ。

前世での知識と経験をベースに、今世で得た観察力の融合である。


対して観察には“推測”の入る余地が無い。

観察と結果はイコールで結ばれている。

何がどんな結果を齎すか、事実のみを追求する。

そこに観察者の思惑は無い。


愚直なブライアンの性格と、余計な真似をすると母と兄たちに酷く怒られた経験から、自分の考えを挟む事をしなくなった。

それだけならブライがケンジーの真似をするなど不可能なのだが、そこに“書”の予言が加わると話は変わる。

観察力だけが高く、推測と言う先入観が混ざらないため、予言が最大の影響を与えたのだ。

結果としてブライは、表向きケンジーを凌駕するほどの“()()()”まで身に付けた。

そうでなければ現代人でもあるまいし、三つもの秘宝から呪詛を回避して恩恵だけを得る方法など、そこまでの考えに及ぶ事など有り得ない。



(だから、チートにもほどがあるって言ったんだ)



言っても今更手遅れだ。

何とかして対応するしかない。

しかし、ケンジーにその時間は与えられなかった。



「ごほっ、ごほっ! はあっ、はあっ、……ご、ごめんケンジー……」



プラムに限界が来たのだ。

ブライの総合能力はケンジーを上回る。

代行者として、過去に無いほどの高みに昇り詰めたケンジーをすら上回るのである。

その差を無理やり埋めていたプラムに、普段より早く限界が訪れるのは自明の理だった。



「いいんだ、プラムは休んでいろ」


「で、でも……」



ケンジーは、プラムをそっと懐に入れた。

ブライは動く事無く、それを眺めている。



「……それも余裕のつもりか?」


「もちろん」


「精々油断していろ、そして死ぬほど後悔するといい」


「くくく、いいですね。 あなたと戦えば戦うほど、僕は高みに至れるようだ」


「くそったれ!」



もう二度と無いと思っていた絶望的な戦い。

それが再び始まった。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



宇宙船ではアキがフル回転していた。

ケンジーと共に研究していた“認識装置リコグニションデバイス”。

実は理論はすでに完成していた。

実用化も、ほぼ可能との計算結果が出ている。

しかし、実現するにはアキの能力が不十分と言う結論に至った。

アキの能力を全て注ぎ込まなければならないほど大量の情報を処理しなければならなかったのだ。


そう、全能力を傾ければ可能なのだ。

だが、それは出来ない。

アキにとっての最優先事項は“船員(クルー )”の命だ。

全員の命が危険に曝された時に限り、同意の上で一人の船員の助力を得ることが出来る。

それがアキに課せられた枷であった。


これを順守しつつ、ケンジーの役に立たなければならない。

今のまま“認識装置リコグニションデバイス”を実用化すると言う事は、”船員”の冬眠を維持できないと言う事である。

それは許容できない。

また、仮に処理出来たとしても、それで手一杯ではケンジーに伝える手段が無い。


そこでアキの取った手段は外部に頼る、であった。


リリアーナは並行世界の認識に集中して貰わなければならないので除外する。

そこでエステルとジョエルに白羽の矢が立った。

世界樹と繋がるためのインターフェイスになって貰うのだ。

そのために世界樹に協力を申し出て、許可を貰った。

世界樹はケンジーに借りがある。

断るはずが無いと言う計算もあった。

これによって情報の処理する量、速度共に、格段に上昇させる事に成功する。


またアンジェラにはケンジーへの通信手段となって貰う。

これにより、更に余裕が生まれた。


船員の生命維持にはアキホを付ける。

これにより後顧の憂いを絶った。


この短期間でそれらの装置を造り、最適化させることが出来たのは、あの“ララァシュタイン”が有ったればこそである。

異星人の科学力とファンタジーの融合。

ケンジーの喜びそうなシチュエーションなのは確かであった。



『準備完了です。 アンジェラ様、ケンジー様へ繋いで下さい』


「う、うん、分かった」



アンジェラは躊躇いながらもケンジーへと打診する。



「お兄ちゃん、お兄ちゃん、聞こえる?」



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



ケンジーは、まさに絶体絶命に陥っていた。

プラムとの“合体”は解け、力の差がハッキリと現れ、押され始めた。

更に都合の悪い事にプラムが潰されかけて、悲鳴を上げた。

そのせいで動きが鈍ったところを突かれたのだ。


炎の魔剣を振るうも、ブライの盾技は本物だった。

ベクトルをズラされ、力を流されては、ケンジーと言えども一筋縄ではいかない。

ブライの盾も逸品であった。

輝きから言って、位階も第三階梯か第四階梯くらいはありそうである。

更には、魔力を軽減する能力まで付加されているようだった。


頼みの綱である“飛天菩薩”は使えない。

考案者であるケンジーは、弱点もまた把握していた。

発動中に味方も巻き込んで、広範囲の攻勢魔術を放てばいいのである。



(あれだけ苦労して完成させてもファンタジーに潰されるなんて。 安っぽい技になっちまったなあ)



先ほどブライは“刃の暴風雨”を受けて平然としていた。

それは“飛天菩薩”が使えない事をも意味していたのである。


それでも、純粋な剣技と盾術の戦いであればケンジーに分があった。

それを支える体術にしても同じことが言えた。

だが現実はブライが圧倒的に押している。

それほど、能力者としての力に差があるのだ。



「そろそろ終わりですか。 楽しかったのに残念ですけど、あなたは危険ですからね。 僕に賛同したフリをしながら力を蓄えたり」


「……なんだ、気付いていたのか。 思ったよりバカじゃなかったんだな」


「無駄ですよ、油断なんてしません。 僕はこれでも、本当にあなたを尊敬しているんです」


「それは光栄だ……なんて言うと思ったか? 操り人形に敬われても嬉しくないね」


「操り人形? なんの事ですか、僕は誰にも操られてはいません」



ケンジーは呆れたように溜息を吐き、ブライの背後を指差した。



「操られているさ、ソイツにな」



ブライは油断なく振り向くと、ケンジーが指差すソレを見た。

そこには“書”が浮いている。



“ィィイイイエエエェェ”



「――油断させる作戦ですか? “書”は僕の支配下にある、操っているのは僕の方だ」


「そうか? そう思い込まされているだけじゃないのか? よく思い出してみろ」



口から出任せを言っている訳では無かった。

ケンジーはずっとブライに違和感を覚えていた。

口調、語り、口にするその内容。

狂人と思えばこそ、今までは流してきた。


だが支配しているとなるとおかしい。

話に一貫性が無く、気紛れが過ぎる。

とても観察力に優れた冷静な人間とは思えなかった。

だが、“書”に誘導されていると考えるならば、しっくりくる。



「その三つの秘宝。 最初に手に入れたのはどれだ? “書”じゃなかったか?」


「な、何を――」



ブライは思いを馳せる。

確かに最初に手に入れたのは“書”だった。

ぼろぼろになりながら迷宮を踏破した探索者パーティーが、帰還途中で力尽きたのだ。

たまたま、そこに居合わせた。

遺体を漁った結果、“書”を手に入れた。

その後、“書”の予言に従って“眼”を、“杖”を、次々と手に入れていった。



なぜ忘れていたのか……破滅に抗ったと思ったのはいつからだ。



「どうせ“書”に従って他の秘宝を手に入れたってところだろう? 違うか?」


「…………」


「どうした? ダンマリか」


「……黙れ、不愉快だ」



それまでは有ったブライの余裕が消えた。

ゆっくりとケンジーに近付いて来る。



(いよいよか、何とかプラムだけでも逃がさないと……)



『お兄ちゃん、お兄ちゃん、聞こえる?』



アンジェラの声が聞こえたのはその時だった。



『アンジー! どうした、何かあったのか!?』


『うん、お待たせ。 アキが準備出来たって』


『……まさか……“認識装置リコグニションデバイス”か? 本当なのか?』


『うん! お兄ちゃん、頑張ってね! いくよ~』



そんなアンジェラの言葉と共に、ケンジーの脳裏に未だ経験の無い情報が雪崩込んできた。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



「名残惜しいですが、さよならです」



そう言ってブライは魔術を展開する。

ケンジーを観察して得た改変魔術だ。

そのまま真似をする。



「こうか――“力場(フォースフィールド )”――“改変(アレンジ )”――“重力子(グラビトン )”」



だがケンジーはおろか、その周囲にもまるで変化が起こらない。



「む、間違ったかな。 まあいい、なら今度は――普通に魔術で」



言いながら魔力を練り込んでいく。

相当高位の魔術を使うつもりのようだ。



「今度こそ、さよならです。 “分解(ディスインテグレイト)”」



しかし何も起こらない。



「なぜだ? 何が起こった?」



初めて動揺するブライ。

そんなブライを尻目にケンジーが立ち上がる。

それを受けてブライが後ずさった。



「……まさか! お前か! お前の仕業なのか!?」


「…………」



ケンジーは無言だった。

もう何も話す事など無いとでも言うかのように。

そして、ゆっくりとブライに近付いていく。



「く、来るなっ! “短距離転移(ショートテレポート )”!」



後ずさりながら魔術を行使するが、発動しない。



「一体、何がどうなって……僕は、神を超えたはずじゃあ……あ?」



ブライは、自分の右手に“杖”が無い事に気付いた。



「そんな……どうして……」



ケンジーは黙って近付く。

そんなケンジーを、ブライは恐怖に満ちた目で見つめる。


ケンジーの懐では意識を回復したプラムが事態を把握していた。



(たぶん、今のブライはリリィと同じなんだ……)



並行世界を認識する事は出来る、けれど並行世界に影響を与えることは出来ない。

そもそも並行世界の理論など理解しているはずが無いのだ。

そして何より、ケンジーの書き換えによる改竄の影響を受けないために、今までの記憶を残してしまっている。

それがブライに現状の理解を妨げていた。




ケンジーはすでにブライから力を奪っている。

一つ一つ、順番に過去を改竄して、現在のブライから選択肢を減らしていった。

その結果、今、目の前にいるブライには、もう何の力も残っていない。


改竄の影響を受けているなら、自分に力が無いことが解っただろう。

力など無かった事になっているのだから、そもそも力が有った事すら覚えていない。

だが改竄の影響を受けないブライには、力を持っていた記憶が残ってしまっている。

それが悲劇を深くしていた。



「ま、待って欲しい。 おかしい、こんなはずじゃあ……夢でも見ているんだ、きっとそうだ」



とうとう現実逃避を始めたブライ。



「これが夢? それとも今までが? ……いったい、どっちが……?」



今の状況が夢なのか。

それとも、今までの全能感が夢だったのか。



「なんで、僕は……」



そこまで言ったところでケンジーの剣が一閃した。


――ごろん。


床にブライの首が転がった。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



“書”は数を減らし、強力になった事で策を巡らせた。

即ち、自分たちの天敵であるケンジーの排除だ。

自分たちだけでは無理だったが、他者の力を借りれば可能と判断した。

ケンジーに固執する人材を巻き込み、それは実行される運びとなった。


だが、異星人の技術を取り込んだケンジーは、“書”の策を上回る。


“書”()()は自らが滅ぶことを予感した。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



”ザシュッ!”



“書”は炎の魔剣によって切り裂かれ燃え落ちた。

“杖”は、過去でブライの手に渡る前に破壊した。


そして、ブライの遺体を探る。

出て来たのは“眼”であった。

所持者に“極大の”幸運と不運を授ける(アイテム)


これは“乱れ”の原因では無かった。

ただの“太古の工芸品(アーティファクト )”。


しかし、危険な代物であるのは間違い無い。

ケンジーは、その効果を弱めて野に放ることを決めた。

今後は、単に“幸運(ラッキー)”“不運アンラッキー”で済む程度のアイテムとして世界を巡る事になる。


 

次回(明日)、最終話

 

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