08-08 アキホ
島へ着くとケンジーは見慣れない少女と鉢合わせた。
「おっと、もしかしてアキか?」
「はい。 この惑星の人類をモデルとした生体端末が漸く完成しました」
「丁度いい、後で実家に連れて行こう。 これでやっとアレも実行に移せるな」
「はい。 お待たせして申し訳ありませんでした」
どういう事かと言うと、実家に置いているアンジェラとリリアーナの身の安全をより確実にするために、ケンジーがいなくとも島へと移動できるようにしたかったのだ。
そこで、ケンジーの部屋と島の宇宙船の部屋を繋げてしまおうという話になった。
だが、その扱いに困った。
アンジェラとリリアーナに扱える道具にすると言う事は、言い換えれば誰にでも扱える道具と言う事でもある。
放置しておくには危険すぎるし、アンジェラとリリアーナの二人に危機管理をしろと言うのは無理が有るだろう。
そこで名乗りを上げたのがアキであった。
『私の生体端末を使えば制御と管理、双方が同時に行えます』
つまり、普段は変哲のない扉であり、必要に応じて島へと通ずる連絡口に早変わりすると言う訳だ。
だが、これにも問題点はあった。
アキの生体端末は本来、宇宙船の内部でしか行動出来ないのだ。
アキが維持管理しつつ操作もするので行動範囲が決められてしまうのである。
島が毒に覆われた時、アキが自分で行動出来なかった理由がここにあった。
だがそれもケンジーの協力で解決した。
新型の生体端末は、ケンジーたちを元に制作された。
そこにはケンジーとアキの話し合いにより様々なアイデアが盛り込まれている。
完成が遅れたのは、そのためだ。
そのアイデアの一つに、生体端末に宇宙船と直接繋がる器官を設けるというものがあった。
そうすれば活動距離に限界など無くなるだろうと言う訳だ。
乱暴な理論だが、それは見事に成功した。
閑話休題。
アキが管理すると言う案を採用した結果、アキの生体端末はケンジーの実家でメイドとなる事が決まった。
常に二人の傍にいても怪しまれないようにと言う配慮によるものだ。
「区別しないとややこしいから端末の名前は秋穂な」
「はい、今から私はアキホです」
生体端末改めアキホは嬉しそうに言った。
他、幾つか実験の結果報告を受けた後、ケンジーは先程の出来事をアキホに告げた。
「危険ですね、奥様方が狙われる公算が大きいです」
「ああ。 だから実家とここが繋がったのはありがたい」
ケンジーはブライを信用していない。
時間稼ぎのために協力的に見せたが、いつ気が変わるか分からないのが狂人と言うやつだ。
「三か月後に話し合いの場を設ける事になったが、ヤツがそんなに我慢できるとは思えない」
「同意します」
「すぐに痺れを切らして襲って来るだろう」
「質問です。 こちらから襲わないのは何故ですか?」
普段のケンジーならば、家族に危害を加えようとする輩を生かしておく筈が無い。
ストレートに質問したアキホにケンジーは自分の考えを述べた。
「勘だけどな、ヤツは“書”を保有していると思う」
「では、破滅を回避したと言うのは嘘だと?」
「さあな。 俺が引っ掛かったのは、奴は“書”について詳し過ぎるって事だ」
「仮に回避したのが本当だとしても……」
「ああ、奴は“書”を手放していない」
今でも“書”にどっぷり浸かっている筈だとケンジーは言う。
だが、そうなるともう一つ疑問が出てくる。
「義兄が持っていた“書”はどこから来たのでしょうか」
「さあな。 仮にも領主の息子だ、献上された宝物の中に複数あったとしても驚かない」
“書”は迷宮の深奥で生まれる。
探索者が迷宮を討滅した後、父のように取り立てられれば献上される事も有るかもしれない。
「なるほど」
「“書”を持ちながら破滅を回避していると言うのなら、恐らくそれを可能にする別の“何か”があるはずだ」
「その“何か”が未知数だから、こちらから動けないのですね」
「そう言う事だ」
「やはり、“認識装置”の完成を急がなければなりませんか」
「ああ、あれは切り札に成り得る」
「承知しました。 全力を挙げて完成させてみせます」
今後の方針と優先順位を明確にして、この先の事態に備える二人であった。
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と言う事で話が済んだ後、アキホを連れて実家へ帰って来た。
嫁たちは事情を知っていたので軽く挨拶を済ませた。
次に両親と使用人たちに紹介していく。
しかし、彼らが喰い付いたのはアキホ本人よりも、その服装だった。
アキホが着ていたのは日本人がメイドと聞いて想像するメイド服、即ちエプロンドレスその物であった。
色は黒。
裾は清楚にロング――ケンジーの趣味だ――で、胸まで覆う白いエプロンに、頭には勿論ホワイトブリムが乗っている。
無論、これらはケンジーの希望でアキが拵えた物である。
「まああ……可愛いわねぇ」
パーシアが感嘆とした声を上げた。
本人よりも服を褒めるとか失礼にもほどがあるが仕方ない。
それもそのはず、この世界にメイド服は存在しないのだ。
使用人たちは、それぞれ自前で汚れが目立たない紺や茶のワンピースを着ているだけである。
転生して以来、ケンジーにはそれが不満だった。
(やっぱりメイドと言ったらこれだよな)
満足気に頷くケンジーがそこにいる。
周囲はそれに呆れるかと思いきや、結果は斜め上を飛んで行った。
「アキホちゃんと言ったわね。 その服はどこで入手できるのかしら?」
「この服は、こちらでお勤めする記念にと、ケンジー様が用意して下さいました」
「ちょっ!?」
嘘では無いが真実とも言い難い。
しかしアキホから見れば、そう受け取れない事も無いのか。
「そうなの? ケンジー」
「は、はあ……知り合いに頼んで作ってもらいました」
そこはかとなく迫力を感じる母に、とりあえずそういう事にして答えた。
嘘は言っていない。
「では、その知り合いにサイズ違いの物を数種類、たくさん用意して貰って頂戴」
「はい?」
「ドレイパー家では、これを使用人の服にしましょう」
つまり、ドレイパー家は今後、このメイド服が標準になると言う事か。
「母さん!」
「なあに?」
「素晴らしい! すぐに手配します!」
「ありがとう、よろしくね」(にっこり)
周囲を置いてけ堀にしてどんどん話を進める母子がそこにいた。
だが使用人たちは大っぴらに喜んでいた。
父も満更ではない様子だ。
嫁(妹)だけが憮然としていた。
「私も着たかったのにー」
こうしてアキホは有耶無耶のうちにドレイパー家に受け入れられる事となった。




