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08-07 ブライアン

(今度は待ち伏せか……)


「こんな形で申し訳ありません、ケンジーさん。 お時間ありますか?」


「ああ、構わない」



――断ったところで付き纏うんだろう?

内心は噯気にも出さず、ケンジーはブライに付いていく。

着いた場所は貴族街に近い高級料理店、そこの個室だった。



「見るからに高そうな所だな」


「ケンジーさんなら、この程度は大したこと無いでしょう」


「俺は、母か嫁の手料理の方が好みだ」



実家で料理を作っているのは住込みの料理人だ。

しれっと嘘を吐いて流すあたり、ケンジーの気が乗っていないのが判る。



「なるほど、愛妻家なんですね」


(母はどこいったんだよ)



しかし、敵も然る者。

流しているのはお互い様だったようだ。

とは言え、長く拘束するつもりは無いようで、軽く摘まめる物と飲み物が出ただけで給仕は下がっていった。


――ケンジーさんも長話は嫌いなようですから


と前置きも短く、話が始まった。



「単刀直入に言います。 僕と組みませんか?」


「パーティをか? いきなりだな」



直球にもほどがある。

普通は組む事のメリット等を説くものではないのか。



「ずっと憧れていたんです。 いつか組めるようになりたいと思っていました」


「言うほど歳が離れているようには見えないけどな」


「同い年です」


「なら尚更だな。 憧れるより、超えたいと思うものじゃないのか?」


「はは、諦めました。 この二年頑張ったんですけどね」



最初は超えるために努力したのだとブライは打ち明けた。

だが、超えようと努力するほどにケンジーの実力を実感し、憧れが増していったのだと言う。



「その中で、あなたに負けない技術を一つだけ身に付けた。 それが盾技です」


「ほう」


「そして、あなたは剣士で魔術師だ。 僕たちは相性がいい。 メリットにはなりませんか?」



中々話術も巧みなようである。

直球だけでは無いと言う事か。



「ずっと探していたんです。 “書”の誘惑に抗い、跳ね除けられる人物を」



感心していたら、ビーンボール紛いの球が来た。



「――なんだって?」



動揺を表に出さないように注意して問い返す。



「隠さなくてもいいですよ。 僕も、あの“書”に狙われたけど、破滅を回避した人間です」


「…………」



俄かには信じられない事だ。

迂闊な事を口に出来ないと判断したケンジーは口を噤む。

ブライは、それに構わず話を続けた。



「ケンジーさんの事を知ったのは、あの“書”の予言の部分を見たからです。 あれは過去の出来事を読める事もあるんですよ」



有り得ると考えていた。

あの“書”は恐らく“事象の樹”の特定のルートを選べるのだ。

持ち主を破滅へと導くルートを。

ならば、辿ってきた軌跡を残していたとしても驚くには値しない。



(むしろ“書”同士で情報共有が出来ていると考えるべきか)



ケンジーが考えに耽っている間もブライの話は進んでいた。



「――“書”を跳ね除けた後のケンジーさんの足取りは“書”では追えませんでしたが――」



朗報だった。

ケンジーやプラムが代行者や代弁者の能力で“書”や“杖”を追えないように、“書”もケンジーを認識出来ないようだ。

そうだろうとは思っていたが、実際に確認できたのは大きい。



「――つまりですね、義理とは言え兄弟仲良くやっていきませんか、と誘っているんですよ」


「――何の話だ」



自分の考えに耽っていたら、義理の兄弟とか言い出した。

実はお花畑か、こいつは。

しかし、ブライは真面目に驚いていた。



「あれ? 聞いてませんか? アンジェラ嬢は僕の義理の妹ですよ」


「何?」


「二年前まで、僕はブライアン・エアルドレッドと名乗っていたんです」


「……それは、つまり」


「この地の領主、エドモンド・エアルドレッド伯爵は僕の父です」


(えー……)


「まあ成人して以来、殆ど家に帰ったことが無いので、アンジェラ嬢とは一度も会った事は無いのですけどね」



ケンジーなどお構い無しに、一人で盛り上がるブライ。

そのうち話は元に戻ったようである。



「―― 一人で出来る事には限界がある。 ケンジーさんにも覚えがあるのではないですか」


「……確かにな」



一人の時は、いつもいっぱいいっぱいだった。

余裕が持てるようになったのはプラムと組んでからだ。

バーナードたち、“コリン”のメンバーは頼もしかった。

ザカライアたちと一緒の日々は充実していた。

今はエステルとジョエルと言う、公私ともにパートナーとなった二人がいる。



「僕もね、試しに義兄に“書”を持たせてみたんですよ。 魔術を研究していたのでね」


「何だと……」


「優れた魔術師になってくれたらと、多少は期待したのですけどね。 だめでした」



――跳ね除けるどころか呑まれました


ブライは、平然とそう言った。



(……今、こいつは何と言った?)


「僕には義理の兄がいましてね。 自称魔術研究家ですが、魔術なんて一つも使えない奴でして――」



義兄に“書”を渡してみたが、一向に“書”を開けるようにならなかった。

これでは優れた魔術師になるどころでは無い。

仕方ないので呪文スクロールを与えてみたところ、義兄は魔術師になれたようだ。

そこで漸く“書”は義兄に興味を示したのか、義兄は“書”を開けるようになった。

だが義兄はブライの期待に副えず、“書”に呑み込まれてしまった。


表情一つ変えずに語ったブライにケンジーは問う。



「お前は、ここで何をしている? 兄を見殺しにするつもりなのか」


「嫌だなあ。 義兄を殺したのは、あなたじゃないか」


「な!?」


「Cランク冒険者パーティー“ハウエル”の魔術師、イライアスは僕の義兄だ」



先日、迷宮の最深部で襲ってきたパーティー。

その魔術師は確かに“書”の所持者だった。



「あれが……」


「別に恨んではいませんよ。 むしろ後始末をしてもらって申し訳ないと思っています」



――狂っている


そう思わずにはいられなかった。

彼が淡々と語る内容は、家族に対する感情など欠片も無かった。

戦慄を覚えるケンジー。



「結局、お前は何がしたいんだ」


「先程から言っている通り、あなたと組みたいんです」



――自信を持って、あなたと組める力を手に入れたから


嘘を言っている様子は無い。

だからと言って「じゃあ組むか」とはならない。



「そうは言ってもな。 うちはメンバーが嫁ばかりだからな、他人が入る事を嫌がるんだ」


「なるほど、それはそうでしょうね。 でも僕は、あなたと組みたいんだ!」



雲行きが怪しくなってきた。

口調も先程までの余裕が無い。

感情が昂って来ているのが判る。


――このままではまずい。


ケンジーは、そう判断した。



「いきなりは無理だ。 徐々に説得してみよう」



効果は覿面だった。

見る見るうちに落ち着きを取り戻したブライは穏やかに告げる。



「分かりました。 それではケンジーさんにお任せしましょう」


「そうして貰えると助かる」



話を合わせたケンジーに気を良くしたブライは、ケンジーの出す提案に簡単に頷いた。

とりあえず、実力を合わせるために嫁を成長させたいと訴え、三か月後にもう一度話す事にした。


ブライと別れ、店を出て路地裏に入ると息を吐いた。

交渉は簡単だったように見えるが、実は結構な綱渡りだった。


―― 一緒に行動出来ないなら、邪魔な嫁は殺そう。

いつそう言い出しても不思議じゃない雰囲気だったのだから。




先日感じた予感が段々と形を取り始めていた。



(のんびり構えている余裕は無さそうだ。 早く、あれを完成させないと……)



――手遅れになる


確信めいた思いを秘めてケンジーは島へと跳んだ。






ブライが魔術師であることをイライアスが知らなかったのは、イライアスが引き籠りだからです。

ブライは自分に都合のいい事しかイライアスに話していないし、嘘も吐いています。


【お知らせ】

今日から最終話まで毎日更新します。


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