08-06 兼業
無事に指名依頼――と言う名の幹部昇格試験――を終えたケンジーは非公式とは言えギルド幹部となった。
以前から受付嬢のケンジーを見る眼には色が乗っていたが、その色が更に濃くなった気がする。
それを感じ取っているのか、エステルたち二人は警戒を強めている。
(すでに五人も嫁がいるのに、一人二人増えたって今更って感じがするけどなあ。 いや、増やす気は無いけどね?)
誰に対する言い訳か、そんな事を思いつつギルドマスターの執務室に入る。
勝手に入る訳では無い、部屋の主に呼ばれたからだ。
「おう、来たな」
「呼ばれたからな」
「早速だが要件に入ろう」
ケンジーがソファに座るや否や要件を切り出すギディオン。
相当忙しいようだ。
話が早く済むことに異論の無いケンジーは口を挟まない。
「以前言ったように今のお前は非公式だが幹部だ」
「ああ」
「従ってギルドの一支部に拘束する権限は無い」
「それは、つまり……」
「ここに縛られる事は無くなったと言う意味だ」
今まではSランカーとしての契約で、この支部に縛られていた。
今回幹部に昇格したことで、その縛りが無くなったのだ。
ギディオンとしては、この支部にいて貰いたかっただろうに、彼は律儀にもケンジーとの約束を守ったようだ。
そこには現在の関係を崩したくないと言う思いもあったのだろうが、それはケンジーも同じであり、彼の判断に感謝していた。
「ようやく自由を満喫できるか」
そんな思いは欠片も表に出さず、憎まれ口を叩く。
「でも、ま、何かあったら指名するからよろしく」
「へいへい。 世話になったし、それくらいは融通するよ」
しかし、感謝しているのも本当なので、そこは素直に答えておいた。
「……珍しく素直だな」
「なんだ? 受けなくていいなら――」
「いやあ! 嬉しいなあ!」
お互いの歩み寄りの結果、この二人の関係は変わらず続くようである。
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ケンジーは、本当の意味で行動の制限が無くなったので、帰りがてら冒険者の依頼を見て行く事にした。
そこで掲示板の前まで行くと一人の冒険者に声を掛けられる。
「ケンジーさん」
「ん?」
「丁度良かった、少しお話出来ませんか?」
(……誰だっけ?)
人の顔を覚えないのは相変わらずだ。
いや、正確には顔は記憶しているのだが、名前と一致しないのだ。
名前を憶えないから。
「バーナードさんと一緒だった奴だよな。 確か――」
「ブライです。 ケンジーさんに覚えて貰えないとは、僕もまだまだですね」
「別に俺に覚えられなくてもいいだろ……」
「いえ、有名ですよ。 ケンジーさんは、これは!って見所のある人しか名前を憶えないって」
(えー……)
「だからケンジーさんの知り合いになれた冒険者は一目置かれるんです」
何時の間に、そんな事になっていたと言うのか。
見所云々では無く、基準は自分と深く関わったかどうかなのだが……
と、そこで新たにケンジーに声を掛ける人物が現れた。
「よお!最近よく会うな」
「四か月前を最近って言うのか、あんたらは」
現れたのはバーナードたち“コリン”の面々だった。
「また追加募集か?」
「いや、ここならお前に会えるんじゃないかと思ってな」
「何か用か?」
「そうじゃなくて、単に飲みに誘おうと思ったんだが……」
そこでバーナードがちらりとブライに目をやる。
「残念ですが今日は諦めます」
「ん? そうか」
「はい。 また近いうちに会えると思うし。 では、また」
そう言ってブライは去って行こうとする。
「邪魔しちまったか?」
バーナードが気遣って声を掛けた。
「いえ、たまたま会えたので話をしようと思っただけです」
そう言って今度こそブライは去って行った。
「よく分からん奴……」
ケンジーの偽らざる本心だった。
「なんだ? 仲良くなった……って訳じゃ無さそうだな」
「名前も憶えてねーよ」
「そ、そうか。 同じ戦士兼魔術師として気でも合ったのかと思ったぞ」
「……何だって?」
「うっ……くっ」
聞き慣れない単語を聞いて、思わず“威圧”を込めて問い返してしまった。
至近距離でケンジーの“威圧”を受けたバーナードは息が止まる。
「あれ、知らなかったのか。 有名だぞ。 お前と同じで戦士と魔術師を兼業し、ソロが基本でオールラウンダーを目指しているってな」
気圧されたバーナードの代わりにカーシーが答える。
「……へえ」
それを聞いたケンジーは、漸く“威圧”を解く。
脇で解放されたバーナードが咳込んでいるのはスルーした。
「ケンジー二世なんて呼ぶ奴もいるくらいだよ。 もっとも君と違って魔術のレパートリーは少ないみたいだけどね」
今度はアンドリュースだ。
耳聡いのか結構詳しい。
「ふーん……よし、詳しい話は飲みながら聞こうじゃないか」
「お、おう、よし分かった。 おう行くぞ、お前ら!」
立ち直ったバーナードが声を上げる。
今日は“コリン”と飲み明かすことになりそうだ。
アンジェラに“心話”で謝りながら報告しておく。
彼女は不満気だったが、男の付き合いと言う事で納得してくれた。
結果から言うと、ブライと言う男は幾つか魔術を使えるが、基本は盾戦士と言う事だった。
盾の技術は目を見張るものがある。
しかしケンジーのように、剣で戦いながら魔術も使いこなすような器用なタイプでは無いそうだ。
野営の際に“発火”で火を起こしただとか、その程度だった。
(まあ、俺だってチートが無くても戦士と魔術師を兼任するくらいは出来たんだ。 そこまで目角を立てるほどの事は無いのかもしれない)
そう、兼業は可能だ。
ただ呪文スクロールを手に入れるのが難しいだけで、手に入れる事さえ出来ればケンジーのように……は、無理としても、都度どちらかに専念すれば、兼業出来る者がいてもおかしくは無いのだ。
(久しぶりに“書”を見たんで気が立っていたのかもな)
ケンジーは、そう結論付けた。
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数日後、ギルドでまた迷宮が無断で討滅された事を聞いた。
(迷宮が無くなる分には困らないどころか大歓迎なんだが……そいつの目的は何なんだろうな)
冒険者が迷宮の討滅を望むのは金と名誉のためだ。
実に解りやすい。
だが調べた結果、無断で討滅された迷宮は小型の物ばかりで、蓄えられていた宝物は期待出来ないだろう事が判明していた。
ならば無断で討滅した者は、リスクばかりを負って、そのどちらも手に入っていないと言う事ではないのか。
(コアを破壊すること、または迷宮を殺すこと自体にメリットがあるって事だよな)
でなければ、態々危険を犯してまで迷宮に潜ったりはしないだろう。
(あまりにも目撃例が無さ過ぎる。 周囲に気取られない何某かの手段を持っているパーティーか、または斥候系の単独犯か)
犯人について考えながらギルドを出ると――――
「こんにちは、ケンジーさん」
ブライが待っていた。
最終話まで書き上げました。
現在は細かい部分を手直ししています。
完結できそうで安心しました(




