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08-05 イミテーションコア

エステルとジョエルが加わった事で、ケンジーの負担は確実に減っていた。

以前なら二週間は掛かった迷宮探索が半分ほどになっている。

況してや、この迷宮は既定の大きさにまで育っていないのだ。

他者に討滅されることを危惧して、早めに管理下へ置くことが決定した迷宮である。

五日とかからず最深部へと到達していた。



「さて、守護者とご対面だ」


「き、緊張します」


「初めてだもん、仕方ないよ~」


「そ、そうよね、仕方ないわよね」


(あ、可愛い)



二人の頭や頬を撫でて緊張を解すと――プラムは「別の意味で役に立たなくなるよ~」と抗議していたが――守護者の間へと入る。

そこにいたのは四対八本の脚、首長竜のようなフォルム。

以前見たのに比べるとやや小型だが、紛れも無く地竜だった。



「願ってもない相手だ。 今度こそ実力で倒してやる」


「じ、地竜……」


「だ、大丈夫よ姉さん。 ケンジーさまと一緒なら」


「そ、そうね」



気後れした二名にはプラムを補佐に付けた。

一人やる気に逸るケンジーは魔剣を抜き放ち地竜に接近する。



「“改変(アレンジ )”――“嵐の刃(ストームブレード )”」



風の上位属性を纏わせて斬りかかる。

地竜は定番攻撃である“体当たり(ぶちかまし )”からの“蹂躙(トランプル )”を行おうとするが、その瞬間、輝く矢が足に突き刺さった。

それも全ての脚に。



「させません!」


「やった~」


「ケンジーさま! 今よ!」


「上出来だ」



二人の援護を受けて、かつてはチートを使わなければ勝てなかった相手に挑む。

不本意だった決着に心残りだったが、また一つ蟠りを無くすことが出来そうだった。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



しばらく続いた戦闘も決着間近となっていた。

タフネスを誇る地竜だが、その動きにはすでに精彩が欠けている。



「“多段強撃マルチプルスマッシュ ”!」



弱点属性を纏った剣で振るわれた必殺の剣技。

ケンジーの全力攻撃を連打されて、さしもの地竜も地に臥した。



「トロール並に体力お化けだな、こいつも」



剣を鞘に仕舞いながらも、つい感想が口に出た。



「そうだね~」


「ケンジーさまは休んでいて。 私と姉さんで解体するわ」


「じゃあ、お願いするかな」


「任せて下さい!」



ケンジーの言葉に相槌を打つプラムに、戦闘後も役に立とうと甲斐甲斐しく働くエステルとジョエル。

そんな二人を見ながら、ケンジーは休憩に入った。


それを油断と見たか、”ハウエル”が動きだした。

イライアスが火球を放ち、クエンティンが弓を撃つ。



「ケンジー! 敵襲だよ!」



プラムが慌てて警告を発するが、遅い。

火球と放たれた矢はケンジーでは無くエステルとジョエルに向かっていた。


彼らは事前に打ち合わせていた。

ケンジー本人よりも初心者の嫁二人を狙うと。

嫁を人質に取れば、いかに英雄候補と言えど無力化出来る。

そしてタイミングは守護者との戦闘直後だ。

そのタイミングならば、絶対に疲労と安心感で油断すると踏んだ。

そして、その狙いは外れる事無く絶好の機会が訪れたのだ。


遠距離攻撃で先手を取った”ハウエル”。

近接組は、そのままエステルとジョエルに向かって走っていた。

火球と矢が直撃した直後に二人の身柄を確保する作戦だ。


だが、二人に向かって走ったデイミアンとフランシスはエステルとジョエルに迎撃された。



「ぐあっ!」


「おわっ!」



なぜなら二人に向かった火球と矢、その攻撃は二人に当たらなかったからだ。

火球は二人の遥か手前で消失し、矢は二人のすぐ手前で何かに弾かれたように落ちていた。



「ば、バカな、何で……」



呆然と呟くイライアス。

“書”にはこんな事は書かれていなかった。

これで全て上手く行くはずだったのだ。


イライアスの作戦はなぜ失敗したのか。

それは事前にケンジーが防御結界を張っていたからだ。

設置型対魔力障壁に移動型対物理結界。


以前の教訓から、どんなに楽勝な迷宮でも、絶対に油断はしないと決めていた。

忘れもしない、初めての迷宮、その最深部。

ケンジーは油断から窮地に陥った。

予め結界を張っておくなど当たり前の事だった。

”ハウエル”がケンジーたちに気付かれないよう、扉から離れて待っていたのも一因だろう。

何より、“書”の予言に記載されていなかったのは――――



――――“ィィイイエエエエエエエエエ”



“書”が嗤っていた。

表紙のシミが人の顔を形作り、イライアスをバカにするように嗤っている。



「ば……こ、こんなバカな……」



イライアスは呆然自失となっていた。

当然かもしれない。

これから自分の栄光が始まると思っていた矢先だったのだ。

だが、こんなタイミングでこそ“書”は本性を現す。



「――――“対魔物縛り(ホールドモンスター )”――“改変(アレンジ )”――“万象縛り(ホールドエニィワン )” 、はい”書”の確保っと」



ケンジーの声に我を取り戻すイライアス。

見ればイライアスを除いた“ハウエル”三人はエステルとジョエルの矢を受けて全員絶命していた。



「きっキサマ! キサマさえいなければ今頃――」


「寝言は寝て言え」



そう言ってケンジーはイライアスの首を斬り飛ばす。

そして返す刀で“書”を袈裟斬りにする。

袈裟斬りにした、のだが。



「――何だと!?」



なんと“書”がケンジーの斬撃を避けていた。

改変したケンジーの金縛りを受けていたのに動いたのだ。



“ィイエエエエエェェ”



空中から、ケンジーをバカにするかのように嗤う。



「この野郎……」



ケンジーの魔剣が届かない位置からあざ笑う“書”。



「――なんてな」



その余裕が仇となったか、ケンジーが嘯いた次の瞬間、二本の光り輝く矢が“書”に突き刺さった。



“ェェエエエエ”



嗤い声は断末魔の声に変わり、やがて消えていった。



「しかし、まさか破られるとは思わなかった。 ショックだ……」


「まあまあ~。 でも連携考えておいて良かったね~」



そう、これは予測していた事だ。

“書”は勝手に宙に浮き、勝手に動いていた。

ならば自由に動けるかもしれない。

そう考えて、予め色々と連携を考えていたのだ。


だが、今回は上手くいったが不安が残った。

言うまでも無く”書”に起きた変化だ。



(以前は改変していない縛りでも動けなかったはず)



なのに今回は破られた。

改変して効果を強化していたのにも関わらずだ。



(強くなっている?……まさかな)



だが一度思い至った考えが、どうしても拭えないケンジーだった。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



“ハウエル”四人が迷宮に喰われたことを確認して――ギルド証の回収はしなかった――から深奥へと進む。

そこでダンジョンコアを破壊しないよう慎重に取り外し、その場所に新たなコアを設置した。



「これが――」


「――イミテーションコアですか」


「そうだ」



そう、これがギルドの秘匿する技術、イミテーションコアだ。

探索者によって集められた大量の魔核。

また、制覇されて持ち帰られたダンジョンコア。

それらを再利用して作り出されたダンジョンコアの代用品。

それがイミテーションコアだった。


しばしばダンジョンコアは、ダンジョンの心臓であり、また頭脳であると例えられる。

ならばイミテーションコアは、ダンジョンコアから頭脳を取り去った物と言えた。

ただ、ダンジョンを生かすためだけの心臓。

それを唯一製作出来るが故のギルドの権勢。


その製作技術は秘中の秘とされ、ギルド内でも知る者は殆どいない。

また、誰が造れるのかも秘匿されていた。

迷宮の討滅許可が簡単に下りないのは、このイミテーションコアの製作が追いつかない事も理由の一つであった。


同時に、このコアを託せる探索者が希少と言う事情もある。

今回ケンジーにこれが託されたのは、もちろんギルドがケンジーを囲い込みたいからだ。

信頼さえ置けるのなら、ケンジーはギルドにとって喉から手が出るほどの人材なのである。

幹部試験と言う体裁であはるが、ギルドとしては是が非でも確保するつもりでいるのだろう。


公表されていないが、ギルド幹部はこのイミテーションコアを制御するコマンドを知る権利を得る。

無論、各地の領主をコントロールするためだ。

これがあるからこそ、各国はギルドに頭が上がらないのである。



「後は、こいつが破壊されないよう、厳重に封印するだけだ」



そう言ってケンジーは深奥の部屋ごとイミテーションコアを封印する。

中に有った宝物は当然ケンジーたちの物なので、すでに回収済みだ。

もはや誰にも解けないほどに封印を施したケンジーは一つ頷くと仲間たちを振り返った。



「さて、終わったし帰ろうか」


「うんっ!」


「「はい!」」



重大な仕事を終え、意気揚々と帰路に付くケンジーたちであった。






ギルド支部にはコマンド送信用の専用コアがあります。

 

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