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08-03 幹部試験

ケンジーはアキのところに来ていた。

考えを纏めたい時、一人になって落ち着けるので重宝している。

ケンジーと同じか、それ以上のレベルで考察出来るアキと言う存在もありがたかった。


最初の頃はプラムも来ていたのだが、話に付いていけないのに加えて、島にケンジーの脅威となる存在が無く安心なので、最近ではもっぱら居残ってアンジェラたちと女子会を決め込んでいた。


閑話休題。



「俺としては“杖”より“書”の方がやっかいだと思っている」


『……何故でしょう?』



独り言では無く相談と判断したアキは、問う事で続きを促した。



「“杖”はどこに在るのか判らないが、一度力が使われれば騒動になりやすい」


『発見してすぐに対処すれば被害は最小限で済むと言う事ですね』


「対して“書”は、長く潜伏する。 その上で人の運命を破滅へと誘導する。 それも周囲を巻き込んで、だ」


『一度潜伏されたら発見は難しく、被害を抑える方法が無いと言う事ですか』



そう、今までは偶々その場に居合わせただけで、すでに潜伏している“書”を発見する方法は無いのだ。



「もっとも“杖”も、まだまだ不明な点があるんだがな」


『そうですね』


「例えば侵食についてだ。 トロールの集落では、数代に渡って王が現れなかった。 これはつまり、毎回侵食が行われたと言う事を指している」


『同意します』


「だがガーラルは、少なくとも二度“杖”を使用している。 なぜだ?」


『確率の可能性があります。 偶々一回目は確率で回避し、侵食されなかった』


「確率……使用回数が増えるほどにトータルでの侵食の可能性が上がる?……使用回数……使用頻度?」


『使用される頻度の多い“杖”程、侵食率が上がるのでしょうか』


「長い間使用されなかったヴェルニース家の“杖”と百年毎に使われ続けたトロールの“杖”か、つじつまは合うな……」


『同意します』



こうして能々考えてみると、解っていない事だらけだった。

リリアーナの事もある。

巫女と勝手に位置付けてはいるが、根拠は想像でしかないのだ。



『その件については、少し考察してみました』


「聞かせてくれ」


『まずは巫女であると仮定しての考えだと言う事をご承知下さい』


「ああ、構わないよ」


『ありがとうございます。 ケンジー様は“事象の樹”と言う考え方をご存知でしょうか』


「前世で聞き齧った覚えがある。 選択肢をやり直しても、以前の選択肢を選んだ世界は消えないとか言う並行世界の理論だよな?」



♢♦


簡単に解説すると以下の通り


1:何かの選択に迫られる。(A or B)

2:仮にAを選択したとする。

3:Aを選んだ後、やっぱりBでやり直したいと思った。

4:タイムマシン等を使い、1に戻る。

5:今度はBを選択する。

6:Aを選んだ未来は消えず、AとBを選んだ未来が同時に存在する。(=並行世界)


♢♦



『はい。 では詳しいことは省き、結果を述べさせて頂きます』


「ああ」


『リリアーナ様は、並行世界を認識しているのではないか、と言う事です』


「だから記憶の改竄が起こらないと?」


『はい。 代行者の力とは“事象の樹”で例えると、何かを“やり直す事”そのものです』


「確かにな……」


『その力を持つ“杖”の巫女となったことで、並行世界を認識できるようになったのではないかと』


「自覚があるか無自覚かは別として、か」


『はい。 “事象の樹”と言う考え方自体が高度な文明の基にありますので、この惑星でそこに至っている人物はケンジー様だけと思われます』



そもそも並行世界と言う考えに至っていない、この世界だ。

その説明のために考え出されたのが“事象の樹”と言う事を考えると当たり前の事ではあった。



「だが、その考えで行くと、代行者の力を行使する度に並行世界が増えている事に……」


『そうなります』


「……勘弁してくれ」


『ですが、私を造り出した惑星の人々ですら“事象の樹”は空想の域を出ませんでした。 そこまで気にする事でも無いのではないでしょうか』


「慰めてくれて、ありがとう……」



だがリリアーナが本当に並行世界を認識していると言うのなら、逆説的に“事象の樹”を証明できると言う事だ。



「あれ? ちょっと待った」


『どうかしましたか?』


「“事象の樹”を認識できたとして、その結果混乱の大元を叩けたとする」


『はい』


「でも、すでに起こってしまった事象は消えないと言うのが“事象の樹”の在り方だよな?」


『そうなります』


「どうしようもないって事じゃないか」


『少なくとも、現在認識している“この世界”からは一掃出来ます』


「それはそうなんだが、何となく納得いかないと言うか……」


『前向きに考えるべきです。 ケンジー様によって助かる人々は確かに増えるのですから』



相変わらず慰められるケンジーであった。

しかし、考えた事はあったようだ。



「……ところで、さっきの口ぶりだとアキは認識できないんだよな?」


『はい。 そのためには、認識するための“何か(デバイス )”が必要になります』


「その何かがあれば認識出来ると」


『機能を拡張する余裕はあるので、実装は可能です』



ならば、そっち方面からのアプローチが確実かもしれない。

リリアーナが“杖”によって並行世界を認識できるようになったのならば、ケンジーにも同じことが出来るはずなのだ。

それをアキに実装させることが出来れば……


ケンジーとアキの考察はその後もしばらく続いた。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



そんな日常を続けていたケンジーたちだが、漸くギルドへの朝夕の挨拶――事実上の監視――が解除された。

そう、何者かの手によって新たに迷宮が討滅されたのだ。


何者かに迷宮が討滅されていた事実が発覚してから、状況の確認に三月掛かった。

それにここまで時間が掛かったのは、例の育ち過ぎた迷宮で実力者が減ったためと言う側面も有った。

その後、有力な情報を掴めないまま今回の討滅発覚となった訳だ。


犯人の最有力候補だった――とギディオン以外のギルドマスターたちは思っていた――ケンジーの潔白が証明されたため、ケンジーは自由の身となった。

ここまで約四か月、エステルとジョエルは着々と迷宮探索の技術を身に付け、今やケンジーがいなくとも下層で活動出来るようにまでなっていた。



「ここまで出来れば、俺のパーティーメンバーとして文句は無い」


「プラムさんの補助があってこそですけれど……」


「それでもだ。 充分だよ」


「ありがとうございます、ケンジーさま」


「やっぱり認めて貰えると嬉しいわ。 頑張った甲斐があるもの」


「そうだよね~、頑張ってたもんね~」



二人の探索者ランクはDにまで上がっていた。(冒険者ランクはF)

さあ、いよいよ本格的に四名で活動を、と思っていたらギディオンから指名依頼が入った。



「つくづく話の腰を折ってくれるな」


「そう言うなよ、こっちも大変なんだ。 それにこれは以前お前に頼まれていた件でもあるんだぞ?」


「何の事だ」


「迷宮討滅の許可だ」


「何だって!?」


「少し早いが勝手に討滅されるよりはマシと判断した迷宮があるんだよ」


「それを俺に回すと?」


「そうだ。 ついでに身の潔白が証明されたお前を、もっとギルドに深く喰い込ませようって判断だな」


「言っていいのか、そんな事まで」


「構わんだろ、身内として扱うって事だからな」



つまり、迷宮討滅の許可だけでなく、迷宮をギルドの管理下に置き続けるための秘匿情報まで公開すると言う訳だ。



「――――とまあ、そうやってギルドは迷宮を管理下に置いている訳だ」


「そんな手があったとはな。 だがそれを知ったところでどうにかできる奴がいるとは思えないんだが」


「ヒントを与えた事で気付く奴が出て来るかもしれん、それを防ぐための措置なんだよ」


「念には念を、と言う訳か」


「そうだ。 で、今回お前には()()()()()と封印を任せる事になる。 この任務を無事完了させたら、非公式とは言え、お前はギルドの幹部扱いが決定する」


「――ここでも囲い込みかよ」


「そう言うなよ。 待遇は約束するぜ?」



嘆息するケンジーに対し、ギディオンが労うように言った。

しかし、この扱いはケンジーとしても願ったり叶ったりだった。

文句など有るはずが無い。

ギルド幹部ともなれば受け取れる情報の量だけでなく、精度、深度、共に格段に上がるのだから。



(指名依頼と言ってはいるが、実態は幹部昇格試験だな)



久しぶりに感じる緊張感に、高揚していく自分を覚える。

我知らず、獰猛な笑みを浮かべるケンジーに、ギディオンが気後れした。

だが同時に頼もしさも感じる。



「いい感じにやる気になってくれたようで何よりだ」


「任せろ。 やり遂げて見せる」


「期待しているよ」



その言葉を受けてケンジーは退室した。

逸る気持ちを抑えて仲間たちの元へと向かうのであった。





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