08-01 結婚
一連の騒動を終息させて帰ってきた一行。
エルフの村では今度こそ本当に歓待を受けた。
約一名、ケンジーたちを見ると、ビクリと体を震わせて逃げて行く男がいたが。
(見なかった事にしよう)
何とも酷い扱いだが、仕方がないと言えば仕方がない。
歓待の宴会は一日中続いたが、その中で一つ新たな話を聞けた。
ケンジーの持つ魔剣。
この炎の魔剣は、以前――数百年前だ――エルフの村に来た代行者が持っていた物だという話だった。
その代行者は、やはり今回のケンジーと同じように、エルフの村の問題を片付けた。
その際に置いて行ったらしい。
世界樹に「いずれ本来の使い手たる代行者が現れる」と言われたのだと言い残して。
エステルとジョエルは、魔剣の属性を自在に変えるケンジーを見て、それを思い出したのだ。
(通りでエルフが持つには無骨だと思ったんだよなあ)
宴会が終わると、転移で自宅へと戻ってきた。
だが様子がおかしい。
違和感がある。
その違和感とは何か?
考えるまでも無い、いつもなら真っ先に駆けて来る妹の姿が無いのだ。
「あれ、アンジーはどこか出掛けてるんです?」
「ああ、すぐに帰って来るがな」
父に尋ねたら、そう答えられた。
「そうですか、珍しい。 リリィのところにでも行ってるのかな」
特に気にもせず、自室へ戻ろうとしたらクレイグに呼び止められた。
「ちょっと来い。 大事な話がある」
何やら緊張気味な父だった。
なんの話があると言うのだろうか。
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「――はあ、結婚ですか」
どんな面倒事かと思ったら今更な話だった。
来週早々に結婚式を挙げろと言うのだ。
「急ではありますが、予定は無いので大丈夫です」
無難にそう答えておいた。
「そうか。 で、相手だが……」
更に言い難そうな顔をしているクレイグ。
「リリィ以外にいないでしょう? それとエステルとジョエルも一緒に挙げていいですか? おっと、プラムもお願いします」
「何ぃぃぃいいいいい!」
クレイグは驚いていた。
それはそうだろう、ケンジーとしては、してやったりと言った気分だ。
「お、お前、何時の間に……」
「周りが勝手にどんどん決めていってしまうんですよ。 プラムだけは、僕が決めましたが」
そう言われると、クレイグは二の句が継げない。
と言うか、ぐうの音も出ない。
まさしく今度も自分たちが勝手に決めたのだから。
だが、言い出し易くなったのも確かだ。
「相手はリリアーナ嬢だけじゃない。 もう一人いる」
「……また、増えたんですか」
「……相手はアンジェラだ」
「寝言は寝てから言って下さい」
一刀両断だった。
父が相手でも容赦が無かった。
だが言われる覚悟は出来ていたのか、少し仰け反るだけで耐えて見せたクレイグ。
「寝言じゃないんだ、いいか、よく聞け」
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父の語った話は筋が通っていた。
実際、日本や外国でも昔は普通に行われていたと聞いた事がある。
まあ、昔と言っても相当遡った昔だが。
有名どころの神話なら当たり前に行われていた気がする。
そう考えると大昔は禁忌とはされていなかったのだろう。
近親婚による弊害が正式に認知されてからと言う事か。
この世界でもそれは同じで、しかも稀にであれば許されると。
「例えば、お前はアンジェラが他の男の嫁になると言われて耐えられるか?」
「……ああ、凄く実感できました。 間違いなく、その男を痕跡すら残さず消してしまうでしょうね」
「怖ぇな! 本気でやりそうだ、お前なら」
「何を言っているんです? 本気に決まってるじゃないですか」
「………………だからな? お前にとっても悪い話じゃないだろう?」
「そうですね……」
確かにアンジェラを他の男にやるなんて考えたくも無い。
だが、それは彼女をずっと独りにすると言う事でもある。
彼女をそう仕向けたのは、他でもない自分だ。
その責任は取らなければならないだろう。
何、自分なら大丈夫だ。
近親婚による弊害など全知全霊をかけて取り除いて見せよう。
後、問題になりそうなのは……
「リリィは、どうなんですか?」
「彼女もガルガンドも納得している」
「……そうですか」
「彼女はこの話を断れば、お前とはもちろんの事、結婚自体が無くなりかねん」
ケンジーとしては、どこの貴族がちょっかいを掛けて来ようがどうにでもなるのだが、それを父たちに言っても信じては貰えまい。
本人たちが納得していると言うのなら、それを信じるしかないのだ。
ケンジーに出来る事は、彼女たちを幸せにするよう努力を惜しまない事だけなのだから。
一週間後にケンジーとアンジェラたち五人の女性との結婚式が行われる事が決まった。
肝心のケンジーが、いつ帰って来るか分からなかったので、いつでも行えるよう準備は出来ていたのだ。
来賓は領内の貴族ばかりなので、通達を出してあった。
曰く、「いつでも参加できるよう準備しておくように」と領主の名でだ。
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結婚式など今世は勿論、前世を通しても初めての経験だ。
結婚はおろか、女性との付き合いすらままならないのが前世の自分だった。
結婚前にするべき事など何も判らないケンジーは蚊帳の外である。
要するに、手持無沙汰になって暇を持て余していた。
「勢いで決めちゃったけど、エステルやジョエルの準備はどうなってるんだろう」
独り言だったのだが、それに答えた者がいた。
「それなら私が手配しておいたわ。 そうなると思っていたしね」
母だった。
「よく分かるものですね」
「ケンジーは断らないと思ったから」
笑いながらそう言ってのけた。
「プラムちゃんまではさすがに気が回らなかったのだけど、リリィちゃんがね、きっとプラムちゃんもケンジーさまのお嫁さんになると思いますって言うのよ」
だから手配したわと、やはり笑顔でそう言った。
「母さんは……」
そこまで言って言い淀む。
だがパーシアが先を促した。
「何かしら」
「……変な子を産んでしまった、とは思わないのですか?」
「ケンジーを?」
聞き返す母に、ケンジーは黙って頷いた。
「思わないわね、あなたは自慢の息子よ」
そう言ってパーシアはケンジーを抱きしめた。
「あなたは自分にも他人にも厳しい部分があるけれど、根は優しくて思いやりのある良い子よ」
「そうでしょうか……」
「うふふ、男の子にもマリッジブルーがあるのねぇ」
「べ、別に結婚に不安を感じたりしてません」
「いいから、何かあったら私かお父さんを頼りなさい。 これでもあなたより人生経験は豊富なんですからね」
すっかり言い含められてしまった。
やはり親と言う事か、こういう部分は適わないと思ってしまう。
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結婚式当日は大変だった。
何が大変って、誓いの言葉の一幕だ。
ケンジーが永遠の愛を誓うと言った途端にアンジェラが泣き出した。
釣られたのかリリアーナまで泣き出した。
連鎖的にエステルとジョエルはおろか、プラムまでが泣き出した。
嫁五人が泣き出しては、一時中断するしかなかった。
誓いのキスでも一波乱あるかと思ったが、順番は決められていたようで、混乱は起きなかった。
ちなみに、アンジェラ、リリアーナ、エステル、ジョエル、プラムの順だ。
恐らく、これが公式の序列なのであろう。
長い長い式が終わると自宅へ戻った。
ケンジーとしては、ここからが本番だ。
いや、真面目な話。
結婚して夫婦になる以上、自分の事は話しておかなければならない。
特にアンジェラは今まで何も教えていなかったのだ。
怒られるどころか嫌われても不思議ではない。
結婚前に話そうと思ってはいたのだが、当日まで領主の館で花嫁修業があると言って、会えなかったのだ。
ケンジーは包み隠さず、全てを打ち明けた。
自分が異世界からの転生者である事も、代行者である事も。
“書”によって家族ごと窮地に陥った事も、プラムによって助けられた事も。
代行者の役目があって、世界中を飛び回らなければならない事も。
結果から言えば、嫌われる事も怒られる事も無かった。
むしろ感動していた。
「転生したって言っても、それは記憶だけで、お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょう?」
アンジェラはそう言って、なぜそれが問題になるのか不思議そうにしていた。
どうやら、それに拘っているのは自分だけのようだった。
話はケンジーの事だけに留まらなかった。
島でのリリアーナとの交信の件だ。
「自分でもよく分からないのです。 白昼夢のように光景が頭に浮かんで、ケンジーさまに知らせなきゃ、と思って……」
それについての考察をケンジーは行っていた。
皆にそれを語り、意見を聞くことにする。
「リリアーナは“杖”によって健康を取り戻した結果、“杖”の代弁者になったのではないかと思う。 つまり“杖”の巫女だ」
――世界樹の代弁者が世界樹の巫女であったように。
「だから俺の書き換えの効果を受けずに、記憶が改竄されないんじゃないかな」
皆からの反対意見は出なかった。
ケンジーやプラム以上に、この件に詳しい者はいないのだから当然かもしれない。
「そして、これは活かせるかもしれない。 上手く行けば、所在の掴めない“杖”の居場所が分かるかもしれないからだ」
その言葉にリリアーナが奮起した。
「や、やります! 私、ケンジーさまのお役に立てるなら頑張ります!」
そしてアンジェラが落ち込んだ。
「私だけ普通の子なんだね……」
お兄ちゃんの役に立てない子なんだ、そう言って凹んでいた。
そこで「いいじゃないか普通! 普通のどこがいけないんだ!?」と言えればよかったのだが、そうも言っていられない事情があった。
「そこでアンジェラに頼みと言うか、お願いがあるんだけど」
「お兄ちゃんが? 私にお願い?」
「ああ」
「何? 何々!?」
凄い勢いで喰い付いてきた。
「ああ、えーっと、今のリリィの事に関するんだけど」
圧され気味に何とか言葉を紡ぐ。
「リリィとの交信が不安定なんだ。 かと言って変に俺が力を加えたりすると全てをダメにする可能性を捨て切れない」
「うんうん、それで?」
本当に解っているのだろうか、この子は。
そう思いつつも自らの考えを述べる。
「そこで、アンジェラに俺と心を繋いで欲しいんだ。 その上で、リリアーナと一緒にいて欲しい」
リリアーナにその白昼夢が起こったら、アンジェラが聞いて自分に伝えて欲しい。
それがケンジーの考えだった。
「お兄ちゃんと私が心を繋ぐの!? やる! 絶対私がやる!」
「そ、そうか、助かるよ」
アンジェラは大喜びでケンジーと心を繋いだ。
一応、相手に打診して、相手が受け入れると念じると通じると言うものだ。
さすがに心の声をだだ漏れにはしないだけの分別はあった。
そして各々の役割が決まった。
アンジェラとリリアーナは自宅組、リリアーナの巫女としての能力に期待して、それが起こったならアンジェラがケンジーに伝える。
そうでなくても、自宅で何か異変があった際はすぐにケンジーに伝えることが出来る。
「これで安心して出かけられるな」
そう笑うケンジーに、アンジェラとリリアーナは満足そうだ。
プラムとエステル、ジョエルはケンジーと出かける組だ。
こちらに関しては、すでに実戦に耐えられると実証済みなので考えるまでも無かった。
「微力ながら全力を尽くします」
「同じく、少しでもお役に立てるよう精進します」
「これからもよろしくね~」
これで話し合っておく事は全て済んだ。
すると嫁たちがモジモジし始めたではないか。
「あー、えーっと……」
さすがに何が言いたいか分からないほど鈍くは無かった。
とは言え、さすがに初夜から全員で!などとは言えない。
ケンジーとて、そっちの経験は積んでいないのだから。
と言う訳で順番を決めた。
揉めたくないので序列通りと言う事にして……
と言ったらエステルとジョエルが、自分たちは一緒がいいと言い出した。
「双子なので別々に分けられたくないのです」
「厳密に二人同時とはいかないが……」
「それでも別々は嫌なんです」
と言う事で、二人は一緒の扱いとなった。
(難易度高ぇ。 初心者に無理言うなよ~)
そしてプラムが四日目となったのだが……
「あたし、五日目がいい~」
そんな事を言い出した。
「その心は何ぞや」
「満月だから~」
「なぜ満月だといいんだ?」
「あたし、おっきくなれるよ?」
「何ぃいいい!」
妖精は満月になると人間大になれるのだと言う。
過去から、妖精と結ばれる人間はそれなりにいたのだそうだ。
「し、知らなかった……」
「あれ、知ったから求婚したんだと思ってた~」
通りで、誰も何も言わないはずだ。
変態とか変質者とか言われる覚悟までしていたと言うのに。
そんなこんなで無事に初夜は済ませた。
五日掛けて。
長くなりましたが、分けるのもアレな内容なので、そのままいきました。




