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大人たちの企み

そこは本来たっぷりと日差しのある、暖かな明るい場所の筈だった。

だが今、その部屋の広い窓には厚手のカーテンが引かれ、その日差しを遮っている。


部屋の中には三人の男たちがいた。

顔を突き合わせて何やら談義している。

見た目のイメージとは反対に、部屋内の弛緩した空気が三人の気の置けない間柄を表していた。



「――イアン坊がそんな事になっていたとは」


「なまじ力を付けたことで野心を持ってしまったようですね」


「それで、態々防諜の結界まで使って我々に話とは何ですか」



彼らは好きで部屋を暗くしている訳では無かった。

(はかりごと)を外に漏らさぬよう、防諜結界の魔道具を使った結果だった。



「君は堪え性が無くていけない。 貴族なのに会話を楽しめないとは嘆かわしい」


「あなたの前置きがいつも長過ぎるから、こうなったのですよ」


「中々言うじゃないですか、ガルガンド」


「まぁまぁ領主、それくらいにして」


「君も分からない人だね、クレイグ。 こういう場では名前で呼ぶようにと言った筈ですが?」


「無茶言わんで下さいよ」


「諦めろ、クレイグ。 この方は、こう言う人だ」



この部屋で密談しているのは三名。

ケンジーの父、クレイグ・ドレイパー騎士爵。

リリアーナの父、ガルガンド・ヴェルニース男爵。

そして彼らの主君、領主エドモンド・エアルドレッド伯爵であった。



「そう、諦めなさい。 私はお互いに気兼ね無く話せる友人が欲しかったんです。 これ以上言わなくても解るね? 君たちの事だよ」


「自分で言ってるじゃねぇか」


「そう、その調子。 これからも頼みますよ」


「いい加減に話を進めてくれないか、エドモンド」



ガルガンドは諦めたように伯爵を名で呼んだ。

それに気を良くしたのか、エドモンドはにこやかに振り返った。



「無関係な訳じゃなかったんですが、まあいい。 話とは他でもない、ケンジー君の事です」


「息子がまた何かやらかしたか?」


「なぜ、やらかす前提で話すのだ、クレイグ」


「あいつは、親の知らないところでドラゴンを倒したり、エルフを誑かしたりするからな……」


「ドラゴンの事は聞いたが、エルフとは?」


「リリアーナ嬢も、その場にいたぞ。 聞いてないのか?」



話を進めろと言っておきながら、全力で脇に逸れていくクレイグとガルガンド。



「うほん! 話とはケンジー君の事です。 彼は世間でも噂になるほど、最も英雄に近いと言われている」


「そうだな」


「そうですね」


「その話は中央のバカ共にまで届いてしまったようでして」


「何だと!」


「それは……まずい」


「実際、私の所にまで打診する輩が出てきているのが現状です」



つまり縁談である。

クレイグは呆れ、ガルガンドは苦々しい顔だ。

ようやく落ち着いたと思ったケンジーの縁談が再燃しそうだと言うのだから、それも仕方あるまい。



「いえ、問題はもっと根深い。 中央の上級貴族達はケンジー君を養子に取ろうと画策しています」


「はあ!?」


「――なるほど」



英雄となった者と縁を繋ぐ行為。

貴族なら嫁を複数娶るのは、ごく当たり前だ。

そんな中に娘をやったところで、序列争いが行われるだけ。

当然行われると予想される事なのだが、中央の上級貴族が考える事は違った。


彼らにとって有益なのは、英雄になった者より、これから英雄になろうとしている者だ。

今後、英雄となるであろう者を養子に取れれば、いざその時には“自分の家から英雄が生まれた”事になるのだから。



「バカらしい……」


「そう、バカらしい事です。 ですが連中は本気です」


「家格を笠に着て無茶な要求を突き付けてくると?」


「ええ、だからこその密談なのです」



つまり、エドモンドには何か策があると言うのだろう。



「簡単なことですよ。 ですが、これにはクレイグと――」



言葉を止め、ちらりとガルガンドを見やる。



「――ガルガンド、君の了承が必要です」



言われた二人は顔を見合わせる。



「何をする気だ?」


「まずは話を聞いてみない事には判断できませんな」


「そうですか、そうでしょうね。 とは言っても、内容は実にシンプルです」



そう言ってエドモンドは自らの策を話し始めた。



「私の娘をケンジー君の嫁にします」


「――お前の子供は男ばっかり三人だろう」



呆れたようにクレイグが突っ込みを入れた。

確かに娘がいないのに嫁にやると言い出すなんて、気でも違ったのかと思われても反論できない。



「ですから、クレイグの娘を私の養子にします」



クレイグの呆れ顔の度合いが増した。

だと言うのに、



「――その手があったか!」



妙案だ! と飛び上がらんばかりにガルガンドが声を上げた。



「どんな手だよ? 訳が分からんわ。 俺の息子に嫁を出すために、俺の娘を寄越せってことだろ、それは」



「妹を嫁に貰うために、よその家に養子に出すから」と言われたケンジーはどう思うだろうか。

どんなに言葉を並べて飾り立てても近親婚であることに変わりがない。



「そんな事が許されるのか!?」



クレイグは呆れて物が言えないと言った体で言葉を紡いだ。



「――ケンジー君ならば許される」



答えたのはエドモンドでは無く、ガルガンドだ。

そこにエドモンドが言葉を重ねる。



「優秀な後継者の血を、より優秀な濃い血(・・・)にするために、と言う理由があれば近親婚も許されます。 当然、永代貴族だけが出来る事ですが」


「ケンジー君は、ドレイパー家を永代貴族に押し上げた立役者だ、それどころか英雄候補ですらある」


「誰も文句は言えませんよ」



ガルガンドが興奮気味に解説し、エドモンドが追い打ちを掛けてくる。

実際、王家や上級貴族では度々行われている事だった。

一般人から成り上がったクレイグだからこそ理不尽に感じているのだ。

だが、策の概要は掴めた。



「そこにエアルドレッド伯爵家を嚙ませることで、中央の上級貴族すら黙らせることが出来ると言う訳か」



伯爵家の娘を娶った男を養子になど取れる訳が無い。

それで他家の横槍を防げる事になる、と言うのがこの策の肝だった。



「だが、それは……」



クレイグはガルガンドを見やり、言葉を濁す。



「ですからガルガンドの了承が必要だと言ったのですよ」



問題になるのはリリアーナだ。

ヴェルニース家からすれば、正妻として嫁がせる筈だったところに、横槍を入れられた事になるのだから。



「……娘は承諾するでしょう」



しばらく考えた末にガルガンドが口にした。

その言葉は、この策を受け入れると言う事だ。



「ガルガンド!」



それを聞いたクレイグは声を張り上げる。



「いいのだ、クレイグ」


「しかし!」


「あの娘は、まともな嫁ぎ先すら無いはずだったのだ。 それを救ってくれたのはお前とケンジー君だ」


「……」


「ここで手を拱いていれば、ケンジー君の身が危うい。 これはリリアーナのためでもあるのだ」



ケンジーが他家の養子になってしまえば、リリアーナは嫁がせては貰えないだろう。

そして、ガルガンドは娘の気持ちを正確に理解していた。

正妻だとか序列よりも、ケンジーの傍にいられる事こそがリリアーナの希望なのだと。


その言葉を受けてクレイグは考えた。

この策を受け入れた際の家族の反応だ。


アンジェラは……喜ぶだろう。

あの娘の兄への懐きっぷりは、異性への愛情そのままだと言われても納得出来てしまう。


妻は……賛成しそうだ。

パーシアは何だかんだで、やはり貴族だ。

もしかしたら、この策にも気付いているかもしれない。

「やっぱりそうなったのね」とか言いそうだ。



(あれ? 何の問題も無いのか?)



いや、ケンジー本人はどうだろうか。

色々ぶっ飛んだところのある息子だが、意外に常識的な部分を持ってもいる。

普通に反対しそうな気もする。

だが事情を説明してやれば、納得もするかもしれないと思う。

あの息子の妹への可愛がりっぷりも尋常ではないのだし。



「……ガルガンドがそれでいいと言うのなら、これ以上反対はしません」


「……そうですか」


「後は本人たちの意志に任せます」


「分かりました。 ではそれで話を進めておきましょうか」



本人たちの意志に任せるとは言ったが、領主が話を進めると言った以上、この話は決定したも同じだった。






ちなみにクレイグが家に帰ってこの話を切り出すと、娘は二つ返事で承諾した。



「本当は私だけのお兄ちゃんがいいけど、そんなこと言っていられなくなりそう。 それにリリィならいいかなって思って」



そして妻は「ああ、やっぱり」と告げたのだった。

余りにも予想通りだった反応にクレイグは嘆息せずにはいられなかった。






ヴェルニース邸では、リリアーナがやはりガルガンドに聞かされた話を承諾していた。

悩む素振りすらなかった。

彼女は自分を弁えていたのだ。

ケンジーの傍にいられればそれでいいと言い切った。



「それに、アンジーとなら仲良くやっていけると思います」



そう短く付け加えられた言葉に、父であるガルガンドは救われた気がした。






こうして、またしても本人の与り知らぬ所で縁談が纏まっていたのだった。







~閑話 大人たちの企み 完~





 

純文学のような表現に挑戦した。

開始二行で挫折した。

五行目くらいまでは、その名残が伺える(


それはともかく、密かに書いていた短編で夏のホラー2015に参加します。

 

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