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07-05 島の迷宮

島へは転移の魔術を使って渡った。

まず“飛行”の魔術でケンジーが飛び、転移ポイントを作り――これは世界樹の麓にした――そこへ全員で再度転移したのだ。

毒が無くなった今なら、どうにでも出来た訳だ。



「“浮遊(レビテーション)”ならともかく“飛行(フライ)”って……」



一般的に“飛行”もまた遺失魔術として扱われていたようだ。

もう何度目になるか分からないエステルの呆れ声だった。



「そうなのか? これは迷宮でスクロールを手に入れたぞ?」



―― 一枚だけだったけどな。

そう言ったケンジーだが、優秀な探索者でも迷宮を討滅できるのは一生に一度有るか無いかだ。

あっちには無かったけど、こっちになら有ったなどと、そんな井戸端会議のように話されていい内容では無い。


ギルドへ公式に記録されるのは“討滅”回数なので、記録上ケンジーの迷宮討滅回数は2。

だが、実際には二十近い迷宮をケンジーは“踏破”している。


しかし、”踏破”回数は記録に残らない。

コアを持ち帰ることが許されない以上、証明出来ないのだから当然だ。

にも拘らずケンジーが“覇者”などと言われているのは、守護者の討伐証明部位を含めた素材を換金しているからなのだが……

それでそんな称号が付いてしまうのだから、踏破出来る探索者が少ないと言う証明でもあった。


閑話休題。


そんなケンジーが一枚しか見つけていないのだから、“飛行”は充分に希少だと言う事だ。



そんな事を話していたから、と言う訳でもないのだろうが、ケンジーたちはこの島で迷宮に挑む事になるのであった。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



島に着いてすぐにした事は、世界樹の延命だ。

そして、代行者(ケンジー)の手によって回復した世界樹は、すぐに森を再建した。

世界樹とは本体とその周りに集まった樹木の集合体である。

本体周囲の樹木とは、元々その周辺に生息する木々たちだ。

世界樹は周辺の木々を掌握し森を活性化させる、云わば共存共栄を司る存在でもあったのだ。

世界樹が生き延びた事で、樹海もまた生き延びたのだった。


ケンジーのした事は、それだけでは無い。

元々この島に住んでいただろう動物や虫などの生き物も復活させた。

世界樹の記憶を借りて、島の“かつてあった姿”を再現したのだ。



(ついでにエルフの村の世界樹とのネットワークも戻しておくか)



これだけ見るとケンジーらしからぬアフターサービスだが、実はこれには目論見が有った。



「あの酒の神から、この島の支配権も奪ったから」



――だから、この島はもう俺のだ。

そう言い切ったケンジーに、三人は開いた口が塞がらなかった。

つまりサービスでは無く、自分のためだったと言うのだ。



「この島を手に入れて、ケンジーさまは何をなさるおつもりなのですか?」


「他人の手が入らない拠点があると便利かと思ってね。 色々隠し事の多い身だからさ」


「なるほど」


「そっか~」


「すでに海流は操作し、空間は視界を妨げるよう調整済みだ。 人間には故意でも偶然でも、この島には辿り着けない」



少々やり過ぎな気がしないでもないが、人間が貪欲なのは前世から知っているケンジーだ。

対策を取っておくに越したことは無いと考えていた。


そしてケンジーが支配者である事を、世界樹は元より島の生物たちは皆理解していた。

ケンジーの目的――“杖”とその使用者が島のどこにいるのか、文字通りケンジーの手足となって捜索したのだ。


その結果、島の地下には天然の迷宮が広がっていることが確認された。

大部分は水路となっていて、人の歩ける場所は多くはないようだが、“杖”とその使用者はそこにいた。


残念なことに、ケンジーが動物や虫を使って捜索していることは相手に知られてしまった。

今まで生命の無い死の島に突然生き物が現れたのだ、それも当然だろう。


その際、“杖”の使用者は島の生き物たちを撃退した。

自分への追っ手と理解しているのか、本能的なものかは判断できないが、使用者は生き物たちに危害を加えている。

生き物たちに被害が出たため、ケンジーは彼らを使った追跡を諦め、見張りだけに留める。

逃がさないよう、距離を取って周囲を固めたのだ。



「いる場所は分かった。 なら直接出向いて倒すまでだ」



迷宮に挑むのが探索者の本分だと言わんばかりにやる気になっている。

最近は冒険者としての活動も多くなってきていたが、ケンジーは迷宮探索も嫌いではなかった。



「天然の迷宮を探索ですか」


「貴重な経験ね」


「がんばろ~」



ケンジーだけでなく、仲間たちもやる気になっていた。



(士気は上々、さっさと追い詰めて、倒してしまおう)



何せ自分が支配する土地だ。

歓迎ならざる者は排除するに限る。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



迷宮の探索を始めてみた感想は――――

とにかく広い、だった。


天然迷宮なので、と言うか、つい先日まで死の島だったので魔物は出ない。

罠の類もない。

だが広い。

しかも迷宮なので、行ったり来たりがどうしても多くなる。

行き止まりはともかく、人が入れないほど狭い場所ばかりなのだ。

動物たちは通れても、人間が通れないとは盲点だった。



「生きた迷宮とは違った難しさがあるなあ」


「そうだね~」



しかし、そんな迷宮をケンジーとプラムは楽しみながら歩いている。

けれども、他の迷宮を知らないエステルは二人のように楽しめないようだった。

自然と気のない返事になってしまう。



「はあ、そうなんですね……」


「私は興味があります、今度連れて行って下さい」



だが、そつの無いジョエルは透かさずアピールした。

自分の失態に気付いたエステルは、慌てて追従する。



「あ! わ、私も!」



緊張感など欠片も無い行程が続いていた。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



「いませんね……」



エステルが代表してその言葉を口にした。

漸く、その場所まで来たのだが“杖”と使用者の姿が無かったのだ。



「まさか、転移?」



ジョエルが、その可能性に気付いた。

だがケンジーはそれを否定する。



「いや、それならとっくの昔にここから出ていたはずだ。 恐らく俺たちが何かを見落としているんだろう」



見張りを突破されていないのは確実だ。

転移による移動も否定した。

ならばここにある何かを見落としているのだろう。


もう一度周囲を確認する。

洞窟内部としては破格の広さだ。

石筍は、上からも下からも生えているが、戦闘は可能だ。

剣はおろか、長柄の武器でも振り回せる。

だからこそ、ここで待ち構えていると予想していたのだが……


元々が鍾乳洞に似た造りで、湿気が多く地面は濡れている。

こんな場所に数十年、下手をすれば百年以上、よく住んでいられたと感心する。

そこでふと気付いた。

この場所には、生活感がまるで無い。

今まで通ってきた場所もそうだ。

生き物がいなかったのだから当然と言えばそれまでだが……そこにも違和感がある。



(ここで暮らしていた訳じゃないのなら、なぜここにいた? ここを選んだ理由はなんだ?)



ケンジーが考え込んでいることに気付いたエステルとジョエルは、傍をそっと離れた。

音を立てて邪魔しないようにとの配慮だ。



(……ケ……ま…………すか……ケン……さま)



ケンジーの頭に何か聞こえた。

周囲が静かになったことで漸く気付けたほど小さな音だった。

当初ノイズのようだったそれは、徐々に形を持ち始めた。

すぐにそれが誰かの声だと気付く。



(ケンジーさま、聞こえますか?)



それはケンジーのよく知る相手だった。



(リリィ? どうやって交信している? 何かあったのか?)


(ケンジーさま! ああ、よかった。 やっと繋がりました)


(落ち着け、リリィ。 何があった?)


(こちらは平穏です。 ケンジーさまのお役に立てると思って祈っていたら通じたのです)



微妙に意味が通じないが、とりあえず向こうは無事らしい。

安心してリリィに問いかける。



(落ち着いて、最初から話してくれ、どうして俺の役に立てると思ったんだ?)


(はい、実は……で……を…………見えた……、ああ!)


(リリィ?)


(壁を! 目線より高い位置です! 石筍の影を!)


(リリィ!)


それっきり、リリアーナの声は聞こえなくなった。

だが、言いたい事は解った。

何故かは知らないが、リリアーナはケンジーたちが立ち往生していることを知ったのだ。

そして、それを解決する方法も。



「みんな、壁を調べろ! 目線より高い位置で石筍の影が怪しい!」


それを聞いた仲間たちは周囲を入念に調べ始めた。

すると何かを見つけたのかプラムが声を上げた。



「ケンジー! ここ~!」



確かに人間の目線より高く、しかも石筍に隠れた場所にそれはあった。

それどころか、触覚すら持った幻覚を配置してまで隠してあったのだ。

そこまで入念に隠されたものとはスイッチであった。



「明らかに人工的だな」



それは、人の手により作り出されたものだった。

罠がないか入念にチェックしてから操作するケンジー。

すると傍の壁が50cmほど凹んだかと思うとスッと横にスライドした。


その先に現れたのは通路。

一定の間隔で明かり――天井の一部が発光している――が配置されている。



(SF映画やアニメに出てくる秘密基地の通路みたいだな)



人工的と言うよりも科学的。

鍾乳洞の奥には、そんな通路が隠されていた。





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