01-05 発掘
詰んだと思った。
せっかく異世界に転生して、苦労して修行して一人前の魔術師になったと思ったのに、あんまりだ。
泣いていいだろうか…
どこまでも後ろ向きなケンジーかと思われたのだが。
(だがまて、これでは前世の俺と同じだ)
それはまずい。
あんな夢も希望もない未来は、もういやだ。
そうだ、目線を変えろ。
違う目線から見れば突破口が開けるかもしれない。
前世と違って、今世は努力してきたケンジーは前向きだった。
簡単に諦めてなるものか。
…そして一計を案じた。
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帰宅したケンジーを迎える祝いの席で、母や妹に弟子時代の話をせがまれた。
これは丁度いいと、強請られるままに話をするケンジー。
そして件の魔導書の話を終えたところで、徐に父に聞いた。
「父さん、冒険者時代に何か呪文のスクロールを手に入れていませんか?」
「…見つけたが、俺は持っていないぞ」
「な、なんでですか!」
ものすごく期待を込めて聞いたのに、帰ってきた答えは実にあっさりとした否定の言葉だった。
「見つけたスクロールは、全部エイブラムにやった」
「ええ!?」
「パーティーの力が底上げされるのだ。使えるのも奴一人だったしな、当然だろう?」
「おぅふ…」
実に当たり前のことだった。
「代わりになる物があるとも思わんが、売らずに残した物が纏めてあるから明日にでも見てみると良い」
「あ、ありがとうございます…」
「成人まで、まだ5年もある。慌てることもないだろう」
「…はい」
ケンジーの人生に、光はまだ見えない。
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翌日。
宝物庫らしき部屋に入り物色する。
久しぶりに帰ってきた兄に構って欲しい妹が纏わりついてきた。
仕方ないので、手伝ってくれと言うと喜んで付いてきた。愛い奴だ。
「わ~、これキレイ~」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、これどうかな?似合う?ねぇ、似合う?」
だめだ、妹の目はアクセサリーにしか向いていない。
戦力にはならなかったようだ。
「アンジー。…アンジェラ。手伝う気がないなら部屋に戻りなさい」
「あう…。ごめんなさい、ちゃんと手伝います」
「よろしい」
「…お兄ちゃん、怒った?」
「怒ってないよ。ちゃんと手伝ってくれたら嬉しい」
「わかった!」
頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める妹に、やっぱりうちの妹は可愛いな、などと兄バカなことを考えつつ発掘作業?を続けるのだった。
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「お兄ちゃん、本があるよ」
「なんだって!」
「でもおかしいの、開かないの」
「は?」
見てみると確かに本だ。分厚くて、本と言うより書と表現するのが相応しいようなモノだ。
表紙には、魔法語でも読めない表題らしき文字があり、表題の下には人の顔に見えるシミのような模様?がある。
年期は、やたらあるように感じる。
古代の魔導書と言われたら信じてしまう、威圧感のようなものがある。
期待に鼓動が早くなるのを自覚する。
だが開かない。
妹の言うとおり開くことができない。
全ページを接着したかのようにびくともしないのだ。
落胆せずにはいられない。
なまじ期待してしまっただけに、その落差は大きい。
「…くそっ!」
「お兄ちゃん?」
「…何でもないよ。今日はもう終わろう」
「うん、わかった」
その本は図書室に置き、その日の発掘作業を終えた。