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01-05 発掘

詰んだと思った。

せっかく異世界に転生して、苦労して修行して一人前の魔術師になったと思ったのに、あんまりだ。

泣いていいだろうか…

どこまでも後ろ向きなケンジーかと思われたのだが。



(だがまて、これでは前世の俺と同じだ)



それはまずい。

あんな夢も希望もない未来は、もういやだ。


そうだ、目線を変えろ。

違う目線から見れば突破口が開けるかもしれない。


前世と違って、今世は努力してきたケンジーは前向きだった。

簡単に諦めてなるものか。


…そして一計を案じた。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



帰宅したケンジーを迎える祝いの席で、母や妹に弟子時代の話をせがまれた。

これは丁度いいと、強請ねだられるままに話をするケンジー。


そして件の魔導書の話を終えたところで、おもむろに父に聞いた。



「父さん、冒険者時代に何か呪文のスクロールを手に入れていませんか?」

「…見つけたが、俺は持っていないぞ」

「な、なんでですか!」



ものすごく期待を込めて聞いたのに、帰ってきた答えは実にあっさりとした否定の言葉だった。



「見つけたスクロールは、全部エイブラムにやった」

「ええ!?」

「パーティーの力が底上げされるのだ。使えるのも奴一人だったしな、当然だろう?」

「おぅふ…」



実に当たり前のことだった。



「代わりになる物があるとも思わんが、売らずに残した物がまとめてあるから明日にでも見てみると良い」

「あ、ありがとうございます…」

「成人まで、まだ5年もある。あわてることもないだろう」

「…はい」



ケンジーの人生に、光はまだ見えない。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



翌日。

宝物庫らしき部屋に入り物色する。


久しぶりに帰ってきた兄に構って欲しい妹がまとわりついてきた。

仕方ないので、手伝ってくれと言うと喜んで付いてきた。い奴だ。



「わ~、これキレイ~」

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、これどうかな?似合う?ねぇ、似合う?」



だめだ、妹の目はアクセサリーにしか向いていない。

戦力にはならなかったようだ。



「アンジー。…アンジェラ。手伝う気がないなら部屋に戻りなさい」


「あう…。ごめんなさい、ちゃんと手伝います」


「よろしい」


「…お兄ちゃん、怒った?」


「怒ってないよ。ちゃんと手伝ってくれたら嬉しい」


「わかった!」



頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める妹に、やっぱりうちの妹は可愛いな、などと兄バカなことを考えつつ発掘作業?を続けるのだった。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



「お兄ちゃん、本があるよ」


「なんだって!」


「でもおかしいの、ひらかないの」


「は?」



見てみると確かに本だ。分厚くて、本と言うより書と表現するのが相応しいようなモノだ。

表紙には、魔法語でも読めない表題らしき文字があり、表題の下には人の顔に見えるシミのような模様?がある。

年期は、やたらあるように感じる。

古代の魔導書と言われたら信じてしまう、威圧感のようなものがある。

期待に鼓動が早くなるのを自覚する。


だがひらかない。

妹の言うとおりひらくことができない。

全ページを接着したかのようにびくともしないのだ。


落胆せずにはいられない。

なまじ期待してしまっただけに、その落差は大きい。



「…くそっ!」


「お兄ちゃん?」


「…何でもないよ。今日はもう終わろう」


「うん、わかった」



その本は図書室に置き、その日の発掘作業を終えた。


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