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07-01 楽しむ

さて、次はエルフの村――里と言うほど規模は大きく無いらしい――に行かねばならないのだが。

村は相当遠いらしく、それなりに家を空ける時間が長くなると予想できる。

エルフだけなら秘術を使って時間短縮できるとか言うのだが、ケンジーは当然エルフでは無いので使えない。

となると、放置したら拗ねる困ったちゃん(アンジェラ)を宥めてからでないと出かけられない。

一旦家に戻ると言うと、予想に反してエステルとジョエルは喜んだ。



「ご家族に紹介して頂けるなんて……」


「光栄です」



――いや、何か勘違いしていないか、君たち。



「悪いな、急ぎたいだろうに」



思ったことを噯気(おくび)にも出さず、素直に謝罪を口にする。



(あー、アンジーに対する言い訳も考え……る必要はないか……)



代行者云々は別にしても、エルフに頼まれごとをしたと言えばいいだけだ。

あの色々な意味で素直な妹は、きっと「お兄ちゃん凄い!」と言ってくれるに違いない。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



「エルフにまで頼りにされるなんて! お兄ちゃん凄い!」


(ほらな?)



誰に向けてのドヤ顔が知らないが、ケンジーが得意気な顔をする。

家に戻った際は、二人もエルフを連れていたせいで大騒ぎになったが、事情を説明したら皆すぐに納得した。

普通なら疑問に感じる事でも、ケンジーならば「然もありなん」と思ってしまうのだ。



「ケンジーさまは信頼されているのですね」


「いや、慣れっこなだけだろ」



エステルが褒めそやすが、ケンジーは実も蓋も無い言葉を返す。

実際そうなのだろうし。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



ギルドにもしばらく街を留守にすることを告げに行った。

そこでもやはりエルフを見た冒険者たちが大騒ぎを起こしたのだった。



「なんでエルフが!?」


「噂通り、エルフってなぁすげぇ美人だな」


「そんな事より、誰が落とすか賭けを!」


「あ、ケンジーだ」


「何!?」


「あー、あいつなら落とすかもなあ」


「だから落としたんだろ、ほれ」


「あー」


「ケンジーしか見てねぇよ。 他の奴なんて眼中に無いって感じだな……」


「ケンジーだもんなあ」


「そうだな、あいつじゃしょうがないか」



と、そんな具合に、騒ぎは大きかったが、引くのもまた早かった。

皆、口々に「ケンジーだから」と言って納得するのである。

この街の冒険者たちも慣れたものだった。



ギディオンには、ついでにトロールの件も報告しておいた。

無論、大事な部分は端折ってだ。



「――そんな訳だから、東の森でトロールと揉めたら俺に言え。 話を付けてやる」


「はあ……もう何を聞いても驚かん。 しかも次はエルフだと?」


「ただの成り行きだよ」


「成り行きでトロールと友情を育んだり、エルフに慕われたりする冒険者なんて聞いたこと無いわ!」



そう言われても、事実だからとしか答えようがないのだが。

何を言っても焼け石に水な気がしてきたので適当に流しておくことにする。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



ギルドから戻るとリリアーナが来ていた。

リリアーナは、エステルとジョエルを見ると感動した。



「まあ! エルフとお会いできるなんて思いませんでした。 私、ケンジーさまの婚約者でリリアーナと申します、よろしくお願いしますね」



マイペースなリリアーナに対して、エステルとジョエルはリリアーナがケンジーの婚約者だと知ると酷く落ち込んでいた。



「うううう……」


「ま、負けないんだから……」



涙目で、そんなことを口走っている。



「美女に囲まれてケンジーは嬉しそうだよね~」



プラムが揶揄ってくる。



「まあ、見た目だけなら好みだしな」


「「「「え!?」」」」



ケンジーが素直に答えると、二人の美少女と二人の美女の声が重なった。

だが、その後の声には明暗が分かれた。



「嬉しい!」


「私たちにも、まだチャンスはあるわね!」



これは美女二人。

望外の喜びに満ちている。



「え? ええ!? そうなの? お兄ちゃん?」



動揺するアンジェラと



「う、そうなのですね……」



しょんぼりと項垂れるリリアーナ。

美少女の目から見てもエルフ二人は美女だった。



「でも、中身が残念だからなあ……」



知ってか知らずか、そこに新たな波紋を投げかけるケンジー。



「あうっ」


「はうっ」



萎れる美女二人と



「そ、そうなんだー!」


「まあ、見かけに依らないのですね」



白地(あからさま)に、ほっとする美少女二人。

特にリリアーナの感想は酷い。



「あらあら、ケンジーはモテるわね」


「さすがは我が息子」



両親はそれを眺めて楽しんでいた。



「何、困ることはあるまい。 全員貰ってしまえばいいのだ」



クレイグが特大の爆弾を投下した。



「そうねえ。 甲斐性があれば済む話だし、ケンジーなら問題ないわよね」



それにパーシアまでが同意した。

それによって先ほどまで半々だった明暗の比率が変わる。



「ご両親の承諾が得られました!」


「やったわ、姉さん!」


「私もお傍に置いて頂けるなら、人数には拘りません」



明は、もちろんエステル、ジョエルの姉妹とリリアーナだ。

対して暗は……



「だ、だめ~! 二人どころか、三人なんて~! うわぁ~ん」



アンジェラが一人で反対するが、そこは多勢に無勢。

状況が覆ることは無かった。



「よしよし」


「うう、お兄ちゃ~ん……」



そんなアンジェラを抱きしめて宥め続けるケンジー。

明だったはずの三人は、羨ましそうにそれを眺めているのだった。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



「ねえ~、ケンジーはチートが好きなの? 嫌いなの?」



部屋に戻ると、プラムが真面目な顔で質問してきた。

特に隠すことでも無いので、あっさりと答える。



「以前のような忌避感や嫌悪感はもうないな。 プラムのお陰で」


「はう!」



プラムは顔を赤くして照れ始めた。



「で、何が言いたいんだ?」



そのまま放って置くと話が進まなくなりそうなので、自分から話を戻す。



「あ、うん。 アルパインスターとの戦いで、ケンジーは凄い技使ったじゃない」



気を取り直して、話を進めるプラム。



「あれか」


「うん、あれって凄い努力して身に付けた技だよね?」


「プラムは俺が練習しているところをずっと傍で見てたろう?」


「うん、だから判らなくなっちゃったんだ~」


「何が?」


「最初は、ケンジーはチートが嫌いだから努力するんだと思ってた」


「確かにそれもあったけどな……で?」


「でも魔剣の属性を変えたり、魔術をアレンジしたり、最近はチートを使うことにも抵抗が無いみたい」


「それで判らなくなったと」


「うん~」



自分の中では明確な理由があるのだが。

人からすれば、確かに判り辛いかもしれないと思う。



「俺は、ただ楽しんでいるだけだよ」


「楽しむ?」


「プラムは俺が前世の記憶を持っているって気付いてるよな?」


「あ、うん……」


「俺が異世界人の生まれ変わりだってことも?」


「……うん」



それは当然だろう。

二人は繋がっていると言って憚らないプラムなのだし。

常にでは無いとしても、心を読んだりもしているのだ。



「前世の世界には魔術は無かった。 だから思う存分使ってみたいと思ったんだ」


「チートでも?」


「チートも同じだ。 前世には無かったモノだからな。 あの”書”の事が無ければ、嬉々として使っていたと思う」


「じゃあ努力は~?」


「そこはちょっと違うな。 でも根本的な理由は同じだよ」


「わかんないよ~」



プラムには難しかったようだ。

前世の頃からケンジーにはそんなところがあった。

人からすると掴みどころがないように見えるのだ。

ちょっと気恥ずかしいが、簡単に説明することにする。



「だから、俺は楽しんでいるんだよ」


「さっきも言ったよ~」


「だからさ、魔術もチートも努力することすらも楽しんでいるんだ」


「努力を、楽しむ?」



実はケンジーは、前世で武術を習っていた時期がある。

人より抜きんでるような才能は無かったけれど、師に教わっている時間は好きだった。

しかし現代日本で日がな一日武術の修行に明け暮れるなど不可能だ。

だが転生した今なら、それが出来る。

努力を楽しむとは、そういうことだ。



「あとな、これも異世界では定番なんだけど」


「なになに~?」


「特別な力を持った人間はさ、その力に頼りすぎて、その力にしか価値が無くて、力を失ったら何も残らない薄っぺらな人間だった、なんてことがよくあるんだ」


「ああ~!」



どうやらプラムにも思い当たることがあるらしい。



「俺は、そんなのは嫌だ」



根が真面目な日本人である。

チートに頼りすぎるのは、どうしても性に合わない。

この辺りの考え方は変えようがなかった。


故に努力八割、チート二割でやっていくつもりでいた。

努力が主体、チートはあくまでも隠し玉と言う扱いだ。



「そっか~」


「納得したか?」


「うんっ」



疑問が解けて、すっきりした顔のプラム。



「理解してみれば、簡単なことだったろう?」


「そうだね~、判ってみればケンジーらしいと思ったよ~」


「そうだろう、そうだろう」


「うわっ! 反応が年寄り臭いよ~」


「この野郎……」



シリアスな空気は霧散し、あっという間に普段の二人に戻ってしまった。

ある意味、これが自然体。

これが二人に相応しい。


さあ、次はエルフの村だ。

今度は何が自分を楽しませてくれるのか、期待せずにはいられない。

頼もしい相棒と、見目だけは麗しい二人のエルフ。

取り巻く状況は少しだけ変わったけれど、やることはいつもの冒険だ。



後悔だけはしないよう、全力を尽くすことを改めて決意するのだった。





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