06-08 宣誓の儀
「最後の競技、借り物競走は、恐らくアルパインスターが一位を取るだろう」
「え!? そうなの~?」
「ホークアイは、玉入れ、リレー、そして借り物競走で一位を取る計算だったはずだ」
「ん~?」
「そうすれば残り二つが三位でも勝ち抜けが成り立つ」
競技は五種目。
そのうち三種目で一位を取れば残り二つが三位でもポイントは36だ。
となれば他のチームは最大でも35ポイントになる。
1ポイント差で勝利が成立すると言う訳だ。
そして、ここまでの経緯と結果を鑑みると、玉入れとリレーは鉄板。
障害物競走と借り物競走のどちらを取るつもりだったかを考えてみると、何の妨害もアクシデントも無かった障害物競走で、あの結果だ。
ならば借り物競走がポイントゲッターとなるのは道理だろう。
だが、その想定に対して結果は最終競技を残した現在、三位+一位+三位+二位で21ポイント。
予定より5ポイント低い計算となる。
その差は他者の順位を下げることで補うしかないのだが……
「相手の妨害はしないんだよね~?」
「ああ」
そもそも、この状況はホークアイの想定ミスと言えた。
想定ミスなど現実では当然のように起こり得る。
無論、想定通りに事を進めることは大事だが、同時に想定と違った際に、いかにリカバーするかを考えるのも参謀の仕事のはずだ。
「だから俺は自分から手を貸すことはしない」
「厳しいね~」
「俺は甘やかすのが友情だとは思っていないからな」
「ケンジーさまの手を煩わすなど言語道断です」
「全くです」
「うん、君たちはちょっと黙ってようか」
「「…………」」
素直に黙り込む二人に頭痛を覚えるケンジーだが、それ以上に頭を悩ませているのが試練の現状だ。
(どうするつもりだ、ホークアイ。 俺はこのまま黙って見ていていいのか)
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結果として、ケンジーの懸念は払拭された。
なぜならば、ホークアイからの要請が届いたからだ。
『最終戦、パナブーストが外部に出た際、妨害を請い願う』
伝えられた内容に思わず渋い顔をしてしまうケンジー。
使いの者に尋ねる声も硬い。
『……妨害しろと言うが、規定上許される行為なのか?』
使者は会話が苦手なのか、つっかえながらも律儀に答える。
その内容は意外にも肯定だった。
『も、問題無い。 ゆ、許された、こ、行為だ』
「いいのかよっ! だったら最初からそう言えよっ!」
思わず素で返したため、人間語で言い放ってしまった。
幸い、使者は意味が通じなかったので揉めずに済んだ。
(しかし、そうなると俺の推理は間違っていたのか?)
ドヤ顔で語った自分が恥ずかしくなってきた。
(このやり場のない思い、どうしてくれよう……)
勝手に間違えて、勝手に恥ずかしい思いをしただけなのだが、人間とは実に勝手な生き物である。
しかし、それとは別に益々このルールを作ったのが誰か気に掛かる。
(競技のバランスが絶妙すぎるんだよ)
団体競技が三つ。
各々の力に依存しつつも、チームの息を合わせて攻略できる余地がある、綱引き。
機転を必要とし、チームで攻略法を理解する必要がある、底抜け玉入れ。
一見個人能力が大きいと思わせておいて、実はチームプレーで挽回もできるリレー。
個人競技は二つ。
個人の力も大きいが、技術で挽回可能な障害物競走。
借り物競走は個人の運に依存するかと思っていたが、チームによる妨害が可能となると考えが変わる。
個人競技と言いつつ、実は団体戦と言う訳だ。
(舞台が深い森と言う点を考えても、これは意図的だ)
むしろ妨害行為こそが、この競技のメインと言えた。
いかに対戦相手を妨害し、いかに相手の妨害を潜り抜けるかを競っているのだ。
ケンジーは嘆息して使者へ返答する。
『承知した、とホークアイに伝えてくれ』
使者は頷くと集落へと帰っていった。
「はぁ……散々悩んだ、あの時間は何だったんだ……」
心を落ちつけてから今の出来事を仲間たちへと伝えるケンジーだった。
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「と言う訳で、合法になったので思う存分妨害しようと思う」
「あんなにシリアスだったのにね~」
「うるさいぞ、プラム」
「ケンジーさまのご命令とあらば――」
「――我々に否はありません」
「うん、君たち少しは自分で考えようか」
しゅんとした二人を尻目に考えを進める。
こちらが妨害可能と言う事は、相手も妨害してくると言う事でもある。
パナブーストとケンスティールを直接妨害する役目はケンジーが請け負った。
エステルとジョエルにはアルパインスターに妨害する連中の排除を頼む。
(ついでにパナブーストとやらには後々のために深手を負って貰おう)
そう、この競技で全てが上手く行ったとしても、アルパインスターは同率一位になるだけ。
勝ち抜けはできないのだ。
ならばきっと、その後には決定戦が行われることになるだろうとケンジーは踏んでいた。
その際の援護射撃として、パナブーストにはここでハンデを負って貰うことにする。
建前としてはそうだが、ケンジーは明らかに八つ当たりする気であった。
「じゃあ始めるか、各々配置に付け」
「はいっ!」
「わかりました!」
移動を開始すると、戦いはすでに始まっているようだった。
多くの気配が森中に散らばっている。
最初から競技を観戦していたおかげで、ケンジーはすでに対象の気配を掴んでいる。
先回りする形で標的の前に出て声を掛ける。
「Hello, Pretty.」(はーい、可愛い子ちゃん)
遭遇の初っ端からケンジーのテンションがおかしい。
『何者だ!』
「I Kenzie human.」(俺はケンジー、人間だ)
『人間が何用だ! 神聖な儀式を邪魔するか!』
「面白みのない奴だなぁ。 うん、やっぱお前さんとは友達になれそうもないわ」
思わず人間語で本音を零す。
言葉の通じないパナブーストは、問答無用で叩き潰そうと棍棒を構えた。
『命乞いか? 無駄だ! 弱者の人間風情が! 死ね!』
「Dare to do. There can be only one!」(やってみろ。 生き残るのは一人だ!)
嘘である。
さすがに試練の最中に、ケンジーが候補者を殺すのはまずい。
別の騒ぎになってしまう。
つい、勢いで口走っただけだ。
無論、戦闘は始まる。
パナブーストは巨大な棍棒を軽々と振り回し、ケンジーを攻撃した。
その重厚な攻撃をケンジーは易々と受け流す。
「魔剣の試し斬りといくか」
言いながら棍棒を持つパナブーストの右手を手首から切り落とす。
『ぐおおっ』
パナブーストは手首を押えて呻くが、魔剣の炎で焙られた傷口は再生しない。
「足も貰っておこうか」
左足が丁度前に出ていたので、膝から下を切り落とす。
立てなくなったパナブーストは転がりながら悲鳴を上げた。
『ぎぃゃああああああ』
「王になろうって奴がこれくらいで騒ぐなよ」
ついでとばかりに腹や左肩も抉っていく。
パナブーストは、のたうち、悲鳴を上げることしかできなかった。
その悲鳴を聞き付けたのか、こちらの様子を伺う気配があった。
ケンスティールだ。
鹿を抱えている。
きっと鹿が彼に指定された借り物なのだろう。
「”魔法の矢”――”改変”――”炎の槍”」
ケンジーは容赦なくケンスティールの手足を魔術で抉った。
何せ彼にはアルパインスターより遅く、且つパナブーストより早く集落へ帰還して貰わなければならないのだ。
パナブーストより遅くと言う条件をクリアするのは容易い。
ケンジーがそれまで嬲っていればいいのだから。
問題はアルパインスターより遅くと言う条件なのだが、彼はすでに帰還を始めているようだ。
ならばこいつは、足を抉った今の状態で帰せば事は済む。
『ほら、さっさと逃げたらどうだ? こいつと一緒に死にたいと言うならそれでも構わないがな』
すっかり悪役のセリフだが、鬱憤が溜まっていたケンジーは、それを晴らすのも含めてやっているのだ。
鬱憤を晴らすための玩具にされたパナブーストはご愁傷様としか言いようが無い。
そんなケンジーに気圧されたケンスティールは、手足を引き摺りながらも必死に集落へと逃げ帰って行った。
そうしてパナブーストで遊んでいると、ケンジーはアルパインスターの気配が集落に戻ったのを確認する。
もう一人の候補者、ケンスティールはその後方を歩いているようだ。
ホークアイの要請は満たしたと判断したケンジーは、遊びを終わらせることにする。
「よかったな、これでもう帰れるぞ」
そう声を掛けるが、パナブーストのケンジーを見る目は恐怖に埋め尽くされていた。
一目で分かる。
彼は心が折れていた。
それはそうだろう。
手も足も出ず、一方的に遊ばれていたのだ。
こうなっても何も不思議では無かった。
パナブーストは、ただただ恐怖に震えていた
もう王になろうなどと言う野心は無い。
むしろ誰でもいいから自分を助けて欲しい、そう考えるようになっていた。
図らずしてケンジーはアルパインスターの王位を確実な物としたのだった。
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仲間たちと合流したケンジーは、先程までより近くからトロールの集落を眺めていた。
結果は当然、アルパインスターの勝利で、獲得ポイントはパナブーストと同び一位となった。
その後はケンジーの予想通り、同率一位同士の決定戦になったのだが、パナブーストの棄権によりアルパインスターが王位を勝ち取る。
そして、いよいよ宣誓の儀である。
対策は施したとは言え、緊張する一瞬だ。
「プラム、よく見ていてくれ。 “杖”の侵食が起こるかどうか、彼が無事に済むかどうか」
「分かってるよ、任せて~」
アルパインスターはトロールたちの前で宣言した。
自分は全てのトロールを庇護すると。
誰一人として見捨てないと。
弱者、強者の区別なく、自分は全てのトロールの味方であると。
アルパインスターの視線の先にはパナブーストがいた。
ほんの数時間前までは自信に満ち溢れていた彼が、今はトラウマを抱えて恐怖に打ち震えている。
ホークアイはアルパインスターの宣誓を聞き、呆然として呟いた。
『シナリオと違う。 何をする気なのだ、兄弟よ』
アルパインスターは最期の試練の後、集落に戻ってきたパナブーストを見て心底驚愕した。
アルパインスターにとってパナブーストとは強い漢の代名詞と言える存在だった。
あんな漢になりたい。
彼にとってパナブーストは目標であり憧れであったのだ。
それがどうだ。
ほんの数時間でここまでぼろぼろにされてしまうものなのか。
ぼろぼろなのは身体だけではない。
心もだ。
心も折れてぼろぼろだ。
あれでは、もう立ち直れないのではないか。
あれほど強かった漢が、いまや弱者だ。
それで気付いた。
どんなに強いトロールでも、いつ弱者に成り下がるか分からないのだと。
強者は切り捨てる計画だった。
弱者を救済して、新しい王国を築くのだと兄弟と誓ったはずだった。
だが、だめだ。
強者がいつまでも強者であるとは思えなくなった。
ならば、自分は全てのトロールを導かなくてはならない。
そのためには、何者をも服従させる力が必要だ。
『我は願う、全ての者を従える力を欲する』
そうして、ゆっくりとアルパインスターの身体に変化が起きていった。
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「ケンジー! 侵食が始まっちゃった~!」
「あのバカ!」
どうした心境の変化か、アルパインスターは自ら変化を望んでしまった。
これではケンジーの構築した守りは意味を成さない。
「ケンジーさま!?」
「一体どうしたのですか?」
「計画が破綻した。 直接手段に訴えるしか無くなった」
エステルとジョエルの問いに短く答え、戦闘モードでトロールの集落に突っ込んで行く。
「付いて来い!」
「は、はいっ!」
「はい!」
まさか自らの行動が悲劇を起こしたなどとは知る由もなく、ケンジーはその身を戦いに投じていった。
パナブーストと同び一位となった。>>> 獲得ポイントはパナブーストと同び一位となった。
分かり辛かったので「獲得ポイントは」を追記。
競技の考察は、あくまでもトロールが行った場合を考えています。
念のため。




