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執行者 ~チート嫌いなチート使い~  作者: みやすのりか
第六章 トロールの王
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06-07 選王の儀式

選王の儀式当日、ケンジーたちはトロール集落を見守っている。

気配を気取られぬよう、余裕を持った距離を取った。

だがそれだと、こちらも向こうがどうなっているかよく分からないのが欠点か。



「まあホークアイは自信満々だったから、大丈夫だとは思うが……」



ふと頭で考えていたことが口に出た。

ただの独り言だ、そこまで気にする事でもない。

今までならば。



「ケンジーさまが認めた彼らが遅れを取るとは思えません」


「ケンジーさまにここまで信頼されるなんて……なんて羨ましい……」



追従された二人のセリフに頭を抱えたくなった。

この二人は、夕べから一事が万事こんな調子だ。


エステルとジョエルは、代行者と言う存在を知っていた。

エルフの長い歴史の中で一度ならず関わったことがあったようだ。



(これだから寿命の長い連中は面倒なんだ)



中には従者として代行者に付き従った巫女がいたそうで、それが今ではおとぎ話として伝えられていると言うのだ。

次代の巫女として育てられた彼女たちは、そのおとぎ話が事実だったことを知っている。

巫女として代行者に付き従うことは誉れであると同時に義務でもあると教育されていたのだ。

そんな彼女たちが、ケンジーが代行者であると知った結果がこれである。



(ウザさが増しただけのような……)



身も蓋も無い感想だが、的を射てもいた。

どうも彼女たちのやる気は空回り気味なのだ。

なまじ事情を知っていて、義務感もあるが故に力が入り過ぎているようだった。



(決して悪い子たちじゃないんだけどね……まあ、世界樹を治すまでの我慢か)



ケンジーは、そう考えて納得することにした。

だが自身の願望が忘れさせているのか、重要な要因を考えに入れていないことに気が付いていない。

巫女にとって代行者の従者になることは誉れで義務なのだ。

ウザいと思われた本人たちは、その後もケンジーに付いて行く気満々なのであった。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



そんな事を考えている内に選抜の試練が始まった。

選抜の試練は団体と個人に分かれている。

トータルで優秀な成績を修めた者が王となる権利を得るのだ。



『まずは団体競技で派閥ごと篩にかける』


『団体……競技、だと?』


『そうだ、まず最初に“綱引き”を行う』


『運動会かよ!』



ホークアイから聞かされた時、思わず突っ込まずにはいられなかったケンジーである。

続いて出てきた種目も運動会としか思えない代物であった。


まず団体競技。


・綱引き

・底抜け玉入れ(玉入れの網に穴が開いている玉入れ)

・継受徒競走(リレーの事)


何気に目玉競技を押えているあたりが胡散臭い。

しかも底抜け玉入れとか、日本でも比較的最近取り入れてきた歴史の浅い競技ではないのか。

こんな物を数百年どころか数千年前から行ってきたなどと、俄かには信じられない。

が、ここでケンジーが異議を唱えたところで始まらないのも確かだ。


続けて個人競技。

これは候補者本人が行う競技だ。


・障害物競走

・借り物競走



「…………」



ケンジーは、開いた口が塞がらなかった。


―――すげー平和的なんですけど! これでいいのか、トロール!


叫びたくて仕方が無かった。

だが必死に我慢した。

他者の歴史にケチを付けても良いことは無い。


とにかく、この五種目の得点で王候補とその派閥は競い合う。


ちなみに得点は以下の通り。


・一位:10点

・二位: 5点

・三位: 3点



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



ぼんやりと記憶を辿っていると綱引きが終わっていた。

今回の候補者は三名、派閥も三派だ。


一位は、パナブースト率いる本命チーム。

二位は、対抗ケンスティールチーム。

アルパインスターチームは三位だった。


これは予想していたことだ。

アルパインスターたちは弱者の集まりだ。

こう言った純粋な力比べには弱い。

この後の底抜け玉入れとリレーで勝利をもぎ取る。

そう言う作戦だった。



「残念でしたね……」


「結構いい勝負してたのに……」



エステルとジョエルは本気で悔しそうにしている。

すっかり仲間意識に目覚めてしまったようだ。

ケンジーは笑いながら言う。



「大丈夫、勝負はここからだ」



――こういう一体感はいい。

本当に学生時代に戻った気分だった。




次の競技、底抜け玉入れが始まった。

本命、対抗共にどんどん玉を投げ入れるが、網の底に穴が開いているので溜まらない。

当たり前の話だ。

対してアルパインスターの派閥は動かない。

これにはコツがあるのだ。


キラン! とホークアイの瞳が光った気がした。

アルパインスターの派閥から一つの玉が投げ込まれた。

だが、その玉は大きい。


本来玉入れとは網に入った玉の数を競うので、大きい玉は不利になる。

だが網は底が抜けている。

そう、まずは底に開いた穴より大きい玉を入れて、穴を塞ぐ必要があるのだ。


見事、大玉は網に引っ掛かった。

それを確認して一気に動くアルパインスターたち。

どんどんと玉が網に入っていく。


それを見た他チームも真似をして大玉を投げ入れるが、打合せの無いままに行われたソレはホークアイによるミスリードだ。

大玉ばかりが投げ入れられた網には、もう小玉が入る余地が無い。

終了の合図を待たずしてアルパインスターたちの勝利が決まった。



「やりました! ケンジーさま! 勝ちましたよ!」


「やるじゃない! 頭良いわね、あいつ」


「やった、やった~」


「予定通りだ。 言ったろう? 勝負はここからだって」



みんなの気分はすでに子供の運動会を見学に来た父兄となっていた。




そして団体戦最後の競技、リレーに移る。

純粋な徒競走では、アルパインスターたちが不利だ。

個人の能力で劣るが故に。

だがホークアイは勝てると言った。

なぜか?



「その答えは、バトンの受け渡しだ」


「バトンの受け渡し、ですか?」


「ああ、やってみると分かるが、あれは難しいんだ。 いかにスピードを殺さずにバトンを繋ぐか、そこに掛かっていると言っても過言ではない」


「では彼らは――」


「ああ、メンバーたちは、それこそ死ぬほど練習して来ているはずだ」



ケンジーの予想通り、リレーは白熱した。

能力に物を言わせて一気に駆け抜ける本命と対抗のチーム。

だがバトンの受け渡しに失敗して失速する。

本命チームなどバトンを落としてしまっていた。


対してパルパインスターたちは、本命チームと対抗チームが手間取っている内にするすると近付き、さっさと交代して先に行く。


漸く交代を完了した他チームは、またしても能力頼りに追い付き追い越して行く。

バトンの受け渡しの度にそんな光景が見られた。


そして最後のバトンリレーがやってきた。

今の順位は、一位:アルパインスターチーム、二位:パナブーストチーム、三位:ケンスティールチームとなっている。


このままミス無くバトンを渡せれば一位フィニッシュも充分有り得る。

手に汗握る場面に思わず息を呑むケンジーたち。

プラムなど緊張して言葉も出ないようだ。

今日は、やけに言葉が少ないのだが、そんな理由でだった。


そして、その時がやってきた。

パナブーストチームの走者たちは、またしてもバトンを落とした。

ケンスティールチームの走者はミス無く受け渡しを完了した。

そして、アルパインスターチームの走者は……バトンを渡す手前で転倒した。

転んでしまったのだ。

しかも足を捻ったのか、すぐに立つことが出来ずに他チームに追い抜かれてしまった。


結果はケンスティールチームが一位。

パナブーストチームが二位。

アルパインスターチームは三位だった。


それでもアルパインスターは転んだ走者を責めない。

当然だ。

自分自身、これまで何度も何度も失敗してきた。

その度にホークアイに助けられてきたのだ。

そんな自分がどうして失敗した者を責められようか。

何より彼らは、失敗を赦せる国を造ろうとしているのだから。


そして失敗を重ねてきたアルパインスターは、この程度の窮地に恐れを為したりはしない。

むしろ、こんな窮地にこそ力を発揮するのがアルパインスターと言うトロールだった。


団体戦が終了し、各チームのポイントは以下の通り。


パナブーストチーム:18点

ケンスティールチーム:20点

アルパインスターチーム:16点



残るは個人競技が二つ。

選抜の試練は混迷の様相を呈してきた。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



「厳しくなってきたな……」


「……はい」


「そうですね……」


「うっうっ……みんな頑張ったのに~」



応援席……じゃなくて、様子を伺っていたケンジーたちは、リレーのまさかの結果に、雰囲気が暗くなってしまっていた。



「残るは個人競技二種目だ。 二つとも取れれば文句なしで勝ちだが、最低でも一つは取らないと勝ちの目が消える」



一つしか取れなかった場合は他二人の成績次第となる。



「今のうちに言っておく」



ケンジーは予め、自分にルールを設けていた。



「俺は彼らの仲間として、手助けはする。 だが、他者の妨害はしない」



そう、何でも出来る自分だからこそ傍若無人に力を振るってはならない。

それが、ケンジーが自分に課したルールだった。



「その結果、連中が負けたなら秘宝だけ破壊して終わりにする」


「それは分かったけど、手助けはどうやってするの~?」


「そうだな、例えば借り物競走の場合には、借りて来る指定の品の用意はする。

でもライバルの品を奪ったりはしない」




そんな事を話し合っていると、個人競技が始まった。

まずは障害物競走だ。



「この競技は俺たちの介入する余地が無い。 見守るだけだ」


「うん……」


「はい」


「そうですね」



結果は、体力に物を言わせた(障害物を破壊しつつぶっちぎった)パナブーストが一位。

アルパインスターは、頑張ったが二位だった。



「これで後が無くなったな」



そう、最後の借り物競走で一位を取るしか無くなった。

それも、ただ勝てばいいと言う訳じゃない。

本命パナブーストを三位に落とさなければ意味が無いのだ。


そして、それが出来ても同率一位。

恐らくその後、パナブーストとの一騎打ちが待っている。





決着の時は確実に近付いていた。





 

試練が運動会なのは最初のプロットからです。

私にとってのトロールのイメージは、こんな感じ。

無論、TRPGで培ったものです(ぁ


それはともかく、次回!

ケンジーが動く。

 

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