表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
執行者 ~チート嫌いなチート使い~  作者: みやすのりか
第六章 トロールの王
55/77

06-06 儀式前日

ホークアイの要請を受けることにしたケンジーは、乳兄弟のアルパインスターに面通しされた。



『協力感謝する。 俺を信じなくていい、我の兄弟を信じるのだ』


『ならば問題ない。 彼を信じたからこそ、こうして来たんだ』


『それはいい! こいつは天才だ、全てこいつに任せておけ!』



アルパインスターは、やたらホークアイを推していた。

だが実際に話してみた感想は、人任せと言う訳では無く信頼だということがよく分かった。

アルパインスターは、人として……いや、トロールとしての器が大きい。

過去にどれだけホークアイに助けられて来たか、嬉しそうに話すのだ。



(気のいい奴だ。 好きになれそうな奴でよかったぜ)



結果、二人は意気投合した。

いや、三人か。

ケンジーとアルパインスターとホークアイは、来るべき儀式のために頻繁に打ち合わせを行った。




その一方でエステルとジョエルは、ケンジーの言葉の真意を考えていた。



「彼は本当に世界樹を治せるのかしらね」


「妖精が言うのだから本当なのでしょう」


「なら私たちは彼を連れて帰れば役目を全う出来ると言う事?」


「そのために、今何をすればいいかを考えなさいと言うことでしょう?」


「彼の信頼を勝ち取る、かしらね」


「長老から聞いたことがあるわ。 昔、人間がエルフを頼って来た際に人間に言ったそうよ」


「我々の信頼を勝ち取って見せろ、ね。 私も聞いたわよ、その話」



エルフはプライドが高い。

人間を下等な種と見下している。

昔、人間とエルフの間で諍いがあり、交流を断った経緯があるためだ。

だから、村の大人たちは皆そうだ。

口を揃えて「人間ごとき」と言う。


しかし、エステルとジョエルは少し違った。

彼女たちはまだ歳若く、また世界樹の巫女に選ばれたために世俗に染まっていないのだ。

先代の巫女である長老から直接養育されている。

そして長老は、常に二人に偏見を持たないように言い付けてきた。


初遭遇時、ケンジーを見捨てなかったのには、そんな事情があった。

これが他のエルフだったなら、これ幸いと当然のようにトロールをケンジーたちに擦り付けていただろう。


だが、いかに巫女と言えど、全く世俗と交流が無いと言う訳にはいかない。

知らず知らずのうちに大人たちの考えに染まっていた部分があった。


ケンジーの強さを知り、利用することを考えた際に「相手は人間だから」と軽く扱いはしなかったか。

ケンジーには、その思いを見透かされたのだろう。

だから、素気ない応対をされている。


対して、あのトロールたちはどうだ。

ケンジーに真っ直ぐな思いをぶつけている。

だからこそケンジーは、この短時間であそこまで彼らに心を開いているのだろう。


翻って自分たちにできることは何かと考える。

何も思い浮かばなかった。

女として身を差し出すことは拒絶された。

彼らのように真っ直ぐぶつかるにしても、自分たちの要望はすでに伝えてある。

これ以上何が出来ると言うのか。


打算は悪くないと彼は言った。

実際、トロールたちは打算で近付いてきた。

ならば自分たちと何が違うのだろうか。


どれだけ考えても彼女たちに答えは出なかった。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



そんな日々が続いたのち。

王を決める儀式が明日へと迫ったため、最後の打ち合わせに入る。

選別の試練に関してはホークアイとアルパインスターの仲間たちで賄えるそうだ。


そう、彼らには思いを同じくする仲間たちがいた。

元は体格や力など、どこか他の者に劣るところのある者たちだった。

強者に抑え付けられて居場所のない弱者の集団。

それが彼らの始まりだった。


そんな彼らをアルパインスターが抱えた。

自分たちにも出来ることはあると。

ホークアイに救われて来た彼だからこそ、同じ立場の者たちを見捨てられなかったのだ。

そんなアルパインスターをホークアイが支えた。

彼らは順調に功績を重ねていき、今では一角の派閥となっていた。



『つまり、試練は派閥の争いになるのか?』


『そうだ。 我らは個の強さを重視するが、集団で生活する以上、群の意向を無視することは出来ない』


『カリスマを試されると言う訳か』


『である以上、ホークアイを擁する我らに敗北は無い』



相変わらずのホークアイ推しだった。

推されたホークアイは言う。



『汝は試練の後、宣誓の儀の最後、“祈願”にて秘宝の呪いを抑えてくれれば良い』


『了解した。 まあ、それまでも気取られない辺りから見守ってるから、何か出来ることがあったら言ってくれ』


『うむ、感謝する。 無いとは思うが、その際は頼む事にしよう』


『あと念を押させて貰うが、儀式の後で秘宝は破壊するからな』


『分かっている。 アレはこれからの我らには不要なものだ、どうとでも好きにすれば良い』



ホークアイは改革を断行するつもりなのだ。

そのために個の強さだけを重視する古い考えの者たちを切り捨てる。

アルパインスターも賛同していると言う。

元よりケンジーはトロールの事情など気にしない。

彼らが頭になれば、良い付き合いができるだろうと、その程度に思っていた。


そうして最後の打ち合わせは終わり、彼らは集落へと帰っていった。

すると打ち合わせの間、ずっとケンジーの懐に入っていたプラムが出て来て質問した。



「ケンジーは、あの“杖”の呪いを打ち消せるの~?」


「実は、もう手は打ってある」


「ええ!?」


「“杖”は自分の身を守ろうとして使い手の心を侵食する。 だから祈願の瞬間が一番危ないんだけど、その後で少しずつ侵食する可能性も捨てきれなかったんだ」



杖が使い手の心を侵食するのは間違いない。

プラムと一つになっている状態で確認したのだから確実だ。

だが、そのタイミングが分からなかった。

だから、ぶっつけ本番で直接その場での対応をする危険を犯す気にはなれなかったのだ。



「結局、アルパインスターの心に外部からの影響を受けない守りを構築した」


「……外部から」


「ああ、そうだ。 だから、あいつが自分から望んだ場合は効果が無い」


「ダイジョブかな~?」


「問題ないだろう、あいつなら」


「随分と信頼してるんだね~、妬けちゃうな~」


「ん? 俺が一番信頼しているのはプラムだぞ?」


「んなっ!?」



冗談で言ったつもりの言葉に不意打ちを返されたプラムは焦る。



「し、知らないっ!」



プラムは顔を真っ赤に染めたまま、再びケンジーの懐深く入っていった。

もしかしたら、その場所が気に入っているのかもしれない。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



エステルとジョエルは、まだ悩んでいた。

思考の袋小路に嵌まり込み、いっそ当初の予定通り秘宝を奪取すればいいのではないかとまで考えたりもした。

そしてその度に思い留まるということを繰り返していた。



「もう儀式は明日よ、姉さん」


「……そうね」


「どうするの? 秘宝を奪取するなら明日が最後のチャンスよ」


「ジョエル、その方法は取らないと決めたでしょう」



そう、それだけは止めようと二人で話して決めたのだ。

ケンジーたちの打ち合わせの内容はエステルたちの耳にも入って来ていた。

秘宝の”願いを叶える”と言う能力。

その力を使ったためにトロールが怪物化したと言う話だ。

ケンジーの言ったことは事実だった。



「彼は嘘を吐いていなかった。 妖精もいたのだし、それは初めから分かっていたはずなのに、私たちは信じ切れずに悩んでいたのね」


「今、私たちに出来ることは、彼を信じること?」


「考えてみれば簡単な話だったわね。 お互いに信じなければ信頼は生まれない、それだけのことだったのよ」


「分かったわ、秘宝の事は忘れる。 その上で彼の力になりましょう」


「今更必要無いと言われるかもしれないけれどね……」



そう言って二人は笑い合う。

漸くエステルとジョエルは、正解に辿り着いたのだった。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



エステルとジョエルが若干硬い表情でケンジーの傍へとやってきた。

そして二人の決意をケンジーに告げる。



「今更、と思われるかもしれませんが、明日は私たちもお手伝いさせて下さい」


「……いいのか?」


「ええ、私たちはあなたを信じることにしたの。 なら、私たちがやるべきことは全力であなたを手伝うことよ」


「それで、これをケンジーさまに」



そう言ってエステルが一振りの剣をケンジーに差し出す。



「私たちの村に伝わる炎の魔剣です。 トロールと対峙すると言うことで託された物ですが、ケンジーさまに差し上げます」


「助かるが、大事なものじゃないのか?」


「私たちよりもケンジーさまが持つ方が有効と考えます」



それは片手半剣(バスタードソード)と呼ばれる剣だった。

エルフに伝わっていたにしては少々無骨に感じる。

だがケンジーの手には誂えたかのようにぴったりと収まった。


ケンジーは魔剣を抜いて掲げ見る。

さすがに第五階梯状態の剣には及ばないが、見事な剣だ。

刀身は微かに赤く、確かに炎の魔力を纏っている。



「”反転(リバース)”」



ケンジーが一言唱えると刀身は薄い青へと色を変えた。

先ほどまで炎の揺らぎを感じさせていた魔剣は、今や凍気を纏っている。

エステルとジョエルは絶句していた。



「氷の魔剣ってところか。 ”改変(アレンジ)”」



絶句する二人を置いてき掘にして、さらに次を唱える。

今度は風を纏い、刀身は薄い緑となった。



「こりゃいいや、全属性対応可能とは良い物を貰った。 ”戻れリターントゥザオリジナル”」



ケンジーの言葉に反応して、魔剣の刀身は炎へと戻った。

それを見て、エステルとジョエルも漸く正気に返る。



「け、ケンジーさま! 今のは?」


「ん? 魔剣の属性を変化させただけだ」


「だけって……」


「……それ以上は企業秘密ってことで」



ケンジーがそう言うと、エステルとジョエルは互いの顔を見合わせたかと思うと、いきなり跪いた。

跪くと言うより、もはや土下座に近いほど平伏していた。



「ケンジーさま! これより我ら巫女は誠心誠意ケンジーさまにお仕えさせて頂きます!」


「何なりとお申し付け下さい!」



これに面食らったのはケンジーだ。

いきなりの豹変に固まってしまった。

いや、姉の方は今までもそんな気配はあったのだが、その裏には打算があった。

だが今の二人からは、そんな打算は感じられない。

言葉通り、誠心誠意告げている、そんな感じがするのだ。



「一体どうしちゃったんだ、二人とも」


「これまでの無礼、どうかご容赦を」


「代行者さま」


「……あ」



どうやら正体がバレたっぽい。





そんな、ばたばたした状態で儀式当日を迎えることになった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ